513.師匠は、伝説の怪盗。
『花色行商団』のルセーヌさんの突然のカミングアウトによって、彼女は巷で話題の怪盗ラパンだということがわかった。
巷で話題といっても……俺たちは全然知らなかったけどね。
落ち着いたところで、いろいろ話を聞くことができた。
今いるメンバーは、ルセーヌさんが助けた人たちで、行くあてがないか、もしくは一緒に行動したいと強く希望した人たちのようだ。
子供たちが全員亜人の子供というのも、全員助けた子供だかららしい。
亜人の子が捕えられて、奴隷として売られることがかなりあるようだ。
親のいない亜人の子は、再度狙われる危険があるので、行動を共にしているらしい。
助けられる子供たちは、奴隷紋を刻まれる前の子供たちだけのようだ。
奴隷紋を刻まれると、逃げることを禁じられるのが通常らしく、無理矢理連れ出すことができなくなるらしい。
当然のことながら、みんなルセーヌさんが怪盗ラパンだということを知っていて、行動を共にしているそうだ。
商売だけでなく、怪盗としての仕事も手伝っていたらしい。
主に情報収集などのようだが。
俺は少し気になったことを尋ねてみた。
それは、ユーフェミア公爵と国王がファンだという怪盗イルジメについてである。
ルセーヌさんの師匠らしく、ルセーヌさんが十歳の時に保護してくれて、育ててくれた人らしい。
俺は、イルジメという名前に引っかかっている。
俺の記憶では、元の世界の中国や韓国などの小説に出てくる義賊の名前なのだ。
日本でいえば、鼠小僧的な存在だと思う。
怪盗イルジメという名前は、偶然とは思えないのだ。
もし俺の予測が正しければ……師匠の怪盗イルジメさんは転移者か転生者ではないかと思う。
ルセーヌさんに、師匠がどこの出身か尋ねてみたが、詳しくはわからないらしい。
ただ師匠は、不思議な知識を持っていると教えてくれた。
かなり可能性は高いと思うんだよね……。
落ち着いたら、一度会ってみたい。
「さて、それじゃあ約束通り『花色行商団』のみんなは、安全なところで保護するよ。ただ隔離するわけにもいかないし……安全なところで面白い商売をやりながら、楽しく生きるっていうのはどうだい?」
ユーフェミア公爵には、すでに考えがあるようだ。
行商団の大人メンバーは、首肯している。
子供たちは、様子を見守っている感じだ。
「ユーフェミア様、ありがとうございます。ぜひお願いします。私は、どんなことでもしますので、仲間と子供たちを何卒お願いいたします」
ルセーヌさんが、改めて頭を下げた。
「わかった。それじゃ……あんたたちは、私の庇護の
そう言って、ユーフェミア公爵はニヤッとした。
頼むよって言われても……何この突然の無茶振り……。
「オッケー、いいわよ! みんな『フェアリー商会』に入ってもらえばいいんじゃない! ルセーヌちゃんは、ユーフェミア公爵の下で働いてもらえばいいと思うけど、妖精女神の使徒ってことにしてもいいと思うし」
即座に……しかも気軽に、ニアは了承した。
まったく……いつもの安請け合いパターンだ。
ルセーヌさんや他のみんなは、突然のことに戸惑っている。
「なあに、ニア様とグリムのやってる『フェアリー商会』は、これから本格的にセイバーン公爵領に進出するのさ。その主力となるメンバーを、これから探さなきゃいけないところだったから、ちょうどいいと思ったのさ。それに……そこは普通の暮らしをしながら、安全に生きられる場所だよ。そうだろ、ニア様?」
「もちろんよ。私の仲間の動物たち……使徒が見守っているから、何かあったら助けてくれるわ!」
ニアが微笑みながら親指を立てた。
まぁ確かに、今ある支店の所には『スライム軍団』が巡回していたり、『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』もいるからね。
「『フェアリー商会』の噂は、私たちの耳にも届いています。私たちを、受け入れていただけるのでしょうか?」
ルセーヌさんは、不安げに俺たちの方を見た。
ニアが俺の方を見たので、俺が答える。
「皆さんさえ良ければ、『フェアリー商会』で働いていただければ助かります。もちろん住む家も用意しますし、子供たちの安全には気を配ります。ただ……もし『花色行商団』を止めたくないのであれば、残す方向での支援も考えますが……」
「ありがとうございます。行商団は残す必要はないと思っています。『フェアリー商会』でお世話になれるのであれば、是非お願いしたいのですが……子供たちも良いのでしょうか?」
「もちろんです。子供たちも一緒に暮らせる家を用意します。家族として、一緒に暮らしてください」
俺がそう答えると、行商団の子供たちも笑みを浮かべた。
「旦那様、僭越ですが……皆様を『フェアリー商会』にお迎えするとしても、『花色行商団』を形だけでも存続させてはいかがでしょうか? 今までの取引のルートもあるでしょうし、『フェアリー商会』ではなく、別の名前で行動した方がいい場面が生じたときに、役立つ可能性があります」
なるほど……さすがサーヤだ。
『フェアリー商会』と出したくない場合に、使えるかもしれないわけね。
名前だけでも残ってると確かにいいかもしれない。
実際に活動するメンバーは、他の人間にするにしても、有効活用できる可能性がある。
俺はルセーヌさんたちに了承を得て、サーヤの意見を採用した。
そしてルセーヌさんたちには、当面の間この『セイセイの街』に住んでもらうことにした。
もちろんその理由は、『従者獣』となった赤ちゃんパンサーたちがテレサさんの近くにいれるようにである。
「この子たちの家は、私が用意するよ。この教会の近くの土地を購入する手配をしているから、そこを使うといい。教会に近いほうがいいだろう」
ユーフェミア公爵が、土地の提供を申し出てくれた。
そしてその土地を俺に譲る代わりに、家の建築をお願いされた。
もちろん、俺は了承した。
そんな話をしているところに、代官さんが現れて、教会周辺の土地について報告をあげてくれた。
なんでも、依頼したギルド長がかなり頑張ったらしく、空き地の所有者全員と連絡を取り商談を持ちかけたところ、全員土地を売ることに前向きだったとのことだ。
教会周辺は、『下級エリア』に近い『中級エリア』で、人気がなく土地の売買は大変なエリアらしい。
『上級エリア』なら、そもそも空いてる土地が少ないのですぐに売れるし、『下級エリア』なら値段が安いのでそれなりに動くらしい。
『中級エリア』は、中途半端で不動産の売買は成り立ちにくいのだそうだ。
そんなこともあり、話を持ちかけられた所有者たちは、みんな喜んでいたとのことだ。
それから、ギルド長は、教会と同じブロックの中にある建物の所有者にも、売買を持ちかけてみたらしい。
当初の依頼は空き物件だったのだが、教会で使いたいという意向を汲んだギルド長が、気をきかせて同じブロック内の建物所有者に当たってくれたのだそうだ。
確かに同じブロックの中だったら、ひとつながりの敷地として使うことができる。
そうなったら、かなり便利ではある。
相場よりも高い金額で値段を提示してみたところ、是非売りたいという所有者がいたらしい。
今住んでるところを出て行くことにはなるが、相場よりもかなり高い値段で売れるなら、他に土地を購入して、家を新築することもできるだろうからね。
教会の周りの建物は、古い建物も多いから、高い値段で売れるなら引っ越してもいいという人は、確かにいるかもしれない。
その報告を聞いたユーフェミア公爵は、改めて代官さんに指示を出していた。
できるだけこの教会と同じブロック内の土地を購入した方がいいので、改めて商談をかけるようにとの指示だった。
相場の二倍くらいまで出してもいいと、指示をしていたようだ。
ただし、立ち退きたくない人からは、絶対に無理に買い上げないようにと念を押していた。
確かに、それをやっちゃうと地上げ屋みたいになっちゃうからね。
代官さんは、ギルド長と相談するためにすぐに出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます