511.従者獣、誕生!
俺たちは、教会の駐車スペースに止めてある馬車のところに移動して、改めて『メガピンクパンサー』の赤ちゃんたちを見ている。
「『桃色の勇獣の子』っていうのは、この子たちのことじゃないかと思わないかい? 偶然にしては出来すぎというか……必然としか考えられないね。この子たちに、『祝福』を授けてみたらどうだろう? もちろん『花色行商団』のみんなが嫌でなければの話だけどね」
ユーフェミア公爵はそう言うと、『花色行商団』の皆さんの方に視線を向けた。
『祝福』とは、教会の神官や神父、シスターが、信者や希望する人に対して行う儀礼的なもので、その人に対する神の祝福を祈るというもののようだ。
通常は、特別な効果が発生するようなことはないらしい。
目に見えないお守りを買うようなことなのではないだろうか。
希望すれば、誰でも『祝福』を受けられるらしい。
もっとも、『祝福』を受けるときは、いくらの寄進をするのが通例のようなので、事実上はお金を払わないとしてもらえないようだ。
「もしそれが……この子たちの運命ならば、我々に否やはありません。どうぞ祝福を……」
団長のルセーヌさんが代表して答えた。
「でも……よろしいのでしょうか……? もしも、ほんとに『従者獣』になったら……皆さんと一緒に居られなくなる可能性もあると思うのですが……」
テレサさんは、申し訳なさそうに尋ねた。
「みんなどう? もちろん、この子たちと一緒にいたいけど……もしこの子たちが『従者獣』になれるなら……使命があるのなら、それを応援してあげるべきだと思うの……。グッド、ラック、どう?」
ルセーヌさんが行商団の大人メンバーや子供たちを見回すと、みんな首肯して同意していた。
そして最後に、父パンサーのグッドと母パンサーのラックも頷いていた。
この子たちは、通常生物だが、人の言葉がある程度わかっているようだ。
「決まったようだね。まだ『従者獣』になると決まったわけじゃないし、やってみようじゃないか!」
ユーフェミア公爵がそう言って、テレサさんの肩に手を当てた。
「わかりました。では祝福を授けましょう。『従者獣』になれなくても、神の祝福がこの子たちを守ってくれると思います」
テレサさんはそう言って、赤ちゃんパンサーたちに近づいた。
『従者獣』とは何なのかよくわからなかったが、ニアは少し知っているようで教えてくれた。
ユーフェミア公爵も知識はあるようだ。
過去の文献や逸話に少し登場するそうだ。
二人の話を総合すると、勇者や戦巫女や賢者などを守る使命を持った特別な状態の動物らしい。
勇者に従う従者の動物版みたいな感じのようだ。
勇者などに従っている動物は、逸話にも数多く登場するが、『職業』表示欄に『従者獣』と表示される特別な状態の動物は、ほとんどいなかったと考えられているそうだ。
勇者などを助ける事実上の『従者獣』は多くいただろうが、特別な使命を持った正式な『従者獣』はほとんど現れないと考えられているようだ。
それゆえに、『従者獣』が出現するということ自体でも、神託が降りるほどの出来事なのだろう。
そんな衝撃的な内容の神託が立て続けに降りたのだから、王宮が騒然とするのもわかる気がする。
記録が少なくて定かではないようだが、『従者獣』は特別な力を持っていると考えられているらしい。
「それでは祝福を授けます……」
テレサさんは呼吸を整えると、赤ちゃんパンサーたちに右手をかざした。
左手は曲げて手のひらを上に向けている。
かざした右手は、渦を巻くように右回りに回転している。
「神の祝福を!」
テレサさんの澄み渡るような声が響く。
俺は気になって、精霊を見る目の使い方をしてみた……
おお! すごい! 小さな光のツブツブが左の手のひらに集まり、テレサさんの体に入っていくようだ。
そして右の手のひらから放射状に光のツブツブが出ている。
精霊を左手から吸収して、右手から放出しているのだろうか……。
おお! 光った!
俺は光を感じて、通常の目の使い方に戻した。
すると『メガピンクパンサー』の赤ちゃんたちが光っていた!
しかも一瞬ではない。
数秒は光っている……
……そして消えた。
これって……絶対に『従者獣』になっちゃったやつだよね……。
『波動鑑定』をしてみると……
赤ちゃんパンサーたちの『種族』が、『メガピンクパンサー』から『スピリット・ピンクパンサー』になっていた。
これは……どうも霊獣になったらしい。
そして『職業』のところに『従者獣』と表示されている。
『加護』のところには、テレサさんと同じように『精霊神アウンシャインの加護』と表示されている。
加護までついたようだ。
なんとなく気になって……父パンサーのグッドと母パンサーのラックを『波動鑑定』してみると……
なんと! 二匹とも『種族』が『スピリット・ピンクパンサー』になっていた。
なぜか両親も霊獣になってしまったようだ。
さすがに『従者獣』にはなっていないが、『加護』には同様に『精霊神アウンシャインの加護』がついていた。
なぜ両親まで一緒に霊獣になったのかは、全く謎だが良かったんじゃないだろうか。
霊獣になった時点で、人間と話ができるようになるはずだし、能力もかなり上がるはずだからね。
グッドは通常生物でありながら、元々レベル28もあり、ラックもレベル25だった。
霊獣になったことによって、各能力値も底上げされているはずだ。
二匹とも『噛みつき』『ひっかき』『体当たり』などの『通常スキル』を持っていたようだが、『スピリット・ピンクパンサー』になったことで、『パンサークロウ』という攻撃型の『種族固有スキル』を身に付けたようだ。
ちなみに三匹の赤ちゃんたちは、生まれたてなのでみんなレベル1だ。
「この子たちは……『従者獣』になったようです。私にはわかります……」
テレサさんが、声を震わせながら言った。
「そのようね。ちなみに『種族』は『メガピンクパンサー』から『スピリット・ピンクパンサー』という霊獣になってるわよ。そして『精霊神アウンシャイン』様の加護も、いただいたみたい。ちなみにグッドとラックも霊獣になっちゃったみたい。加護もついてるし……」
ニアが鑑定しないとわからない内容を、みんなに説明してくれた。
「グッド、ラック、みんなに挨拶したら! あなたたちは霊獣になったから、言葉が話せるはずよ!」
ニアがグッドとラックに向かって言ったのだが、周りの子供たちはハテナ顔だ。
当のグッドとラックは、お互いに顔を見合わせ軽く首をかしげたが、意を決したように口を開いた。
本人たちも霊獣になりたてだから、話せるとは思っていなかったらしい。
「え、え……こ、これは……話ができる……」
「ま、まぁ……ほんと……」
グッドとラックは、声が出たことに驚いて、言葉を失ってしまった。
言葉が話せるようになったのに、言葉を失うというわけのわからない状態に陥っているが……。
そして『花色行商団』の大人メンバーや子供たち、孤児院の子供たちは、みんな口をあんぐりと開けて固まってしまっている……。
「みんな、グッドとラックは霊獣っていうすごい生き物になったから、お話ができるようになったのよ! これからは、いっぱいお話しができるのよ! 凄いでしょう!」
ニアがめっちゃ明るく言うと、何人かの子供たちが笑顔を作りだした。
「グッド……グッド……お、お話しできるの?」
虎耳の女の子ラムルちゃんが話しかけた。
「そ、そうだね……。お話ができるようになったみたいだよ」
グッドは、ぎこちなく……でも優しくラムルちゃんに声をかけた。
「やったー! グッド、いつも守ってくれてありがとう!」
ラムルちゃんはそう言うと、グッドに抱きついた。
これを皮切りに、子供たちがグッドとラックに話しかけ、 大喜びしだした。
ルセーヌさんを始めとした大人メンバーは、しばらくは呆然としていたが、子供たちと楽しく交流する姿を見て、笑顔を作っていた。
子供たちとの話が一通り終わると、ルセーヌさん達が涙ぐみながらグッドとラックに声をかけていた。
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