484.領政顧問、就任。

 エレナさんの方からも、話があった。

 改めて、俺の貢献に対する報償を出したいという話だったが、財政難のヘルシング伯爵領では負担が大きいと思い、固辞した。

 ただ戦利品の中から、必要な物を貰ってほしいという申し出があったので、『血の博士』が隠し持っていた転移の魔法道具『転移の羅針盤 小型三式』二つを貰うことにした。

 そして、俺の方からは『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』を貸し出した。

 領主であるエレナさんと、執政官で俺の眷属でもあるキャロラインさんに一つづつ貸し出したのである。

 本当はプレゼントしてもいいのだが、妖精族の秘宝ということになっているので、渡している人たちには貸し出しということにしている。

 この魔法道具を持っていれば、俺たちとも頻繁に会えるし、領運営の仕事をするときにも、かなり自由に動くことができるだろう。

 まぁあまり表立って使われると困るので、その点は慎重に使ってくれるように話をしたが。


 ちなみに『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが、温泉の改造の時に、『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』を追加で二十二個もプレゼントしてくれたのだ。

 そのおかげで、エレナさんやキャロラインさんを始め、渡せていなかった他の人にも渡してあげることができたのだ。

 ミネちゃんによると、『大精霊ノーム』のノンちゃんが、今後必要になるだろうと言って、追加でプレゼントするように指示を出してくれたらしい。

 ということで、俺は追加で主要メンバーに、この魔法道具を渡した。


 ここで、『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』の所持者を、改めて整理しておく。

 一号機——ドワーフの天才少女ミネちゃん。

 二号機——リリイ。

 三号機——チャッピー。

 四号機——俺グリム。

 五号機——ピグシード辺境伯領の領主アンナ辺境伯。

 六号機——セイバーン公爵領の領主ユーフェミア公爵。

 七号機——ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃん。

 八号機——第一王女で審問官のクリスティアさん。

 九号機——『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビー顕現体。

 十号機——『アラクネロード』のケニー。

 十一号機——兎亜人のミルキー。

 十二号機——兎亜人のアッキー。

 十三号機——兎亜人のユッキー。

 十四号機——兎亜人のワッキー。

 十五号機——『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナ。

 十六号機——『アメイジングシルキー』のサーヤ。サーヤは転移のスキルを持っているので、本来必要ないのだが、スキルの存在を隠すダミーという意味で持たせてある。

 十七号機——セイバーン公爵家長女のシャリアさん。ユーフェミア公爵と別に動くことも増えているということなので、シャリアさんにも渡すことにした。

 十八号機——セイバーン公爵家次女のユリアさん。ユリアさんはピグシード辺境伯領の執政官で、いつもアンナ辺境伯と一緒にいるので、個別に渡す必要はないとは思ったのだが……シャリアさんとミリアさんには渡すので、なんとなく不公平な気がして渡してしまったのだ。

 十九号機——セイバーン公爵家三女で、ピグシード辺境伯領『ナンネの街』の代官のミリアさん。

 二十号機——ヘルシング伯爵領の領主エレナ伯爵。

 二十一号機——ヘルシング伯爵領の執政官で俺の眷属『聖血鬼』のキャロラインさん。

 二十二号機——『虫使い』ロネちゃん。

 二十三号機——『蛇使い』ギュリちゃん。

 二十四号機——『石使い』カーラちゃん。

 二十五号機——『土使い』エリンさん。

 二十六号機——『植物使い』デイジーちゃん。

 二十七号機——『魚使い』ジョージ。

 二十八号機——予備。

 二十九号機——予備。

 三十号機——予備。


『使い人』の人たちには、安全対策の意味も込めて渡すことにした。

 この魔法道具があれば、何かあってもすぐに転移で逃げることができるからね。


 予備については、『フェアリー商会』などで必要な場合に、適宜貸し出そうと思っている。


 実はもう一つ、ミネちゃんからプレゼントがあった。

 それはニア専用の転移の魔法道具『転移の羅針盤 百式 ニアカスタム』である。

 ニアはサイズ的に、腕時計のように腕にはめて使うことができないのだが、ニア専用のベルトタイプとして作ってくれたようだ。

 さすがのミネちゃんも、ニアサイズの腕時計タイプまでの縮小はできなかったらしい。

 腰に巻く“変身ベルト”というか……“チャンピオンベルト”のような感じのものに仕上がっていた。

 以前俺が頭の中で想像し、一人ニヤニヤしていた光景が現実のものとなってしまったのだ。

 そして思っていた通りに、残念感が増していて……かなり笑える。

 そしてそんな心情を察知され……やはりニアには猛烈なジト目を向けられた。


 基本的な機能とサイズ感も一緒で、腰に回してベルトがフィットする構造に改良したようだ。

 たださすがに普段から付けて歩くのは目立ちすぎるので、必要なとき以外は『アイテムボックス』にしまっておくことになるだろう。

 まぁニアは存在自体が目立っているから、気にする必要もないと思うけどね。

 ニアは自分専用の転移の魔法道具を作ってもらって、凄く喜んでいた。よかったね、ニアさん!



 それから、今までに『正義の爪痕』から没収した転移の魔法道具『転移の羅針盤 小型三式』についても、有効活用するために整理をしておくことにした。

 今回手に入れたのを合わせて、合計四つになった。

 この『転移の羅針盤 小型三式』は、使用者本人しか転移できないし、通信機能もないのだが、それでも充分すごい魔法道具だ。

 ピグシード辺境伯領の領運営のために、有効に使わせてもらおうと思っている。

 前から考えていたように、各市町の代官さんに預けようと思っている。

 これによって、各市町の実務を取り仕切る代官が一瞬にして領城に集まって、打ち合わせをすることが可能になるのだ。

 ただ、『ナンネの街』については、守護のミリアさんに『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』を渡してあるので、必要ないだろう。

 一応この『転移の羅針盤 小型三式』についても、番号を振って管理することにする。

 一号機——『マグネの街』の代官ダイリンさん。

 二号機——これから復興する『イシード市』の代官ハンクさん。

 三号機——予備。

 四号機——予備。


『転移の羅針盤 小型三式』は、通信機能がついてないから、毎日代官か代理の者が決まった時間に領城に転移してきて、定時報告するような運用にする予定だ。

 転移先に登録する場所もあらかじめ決めて、近衛兵を配置する予定だ。

 万が一悪者に奪われて転移されても、対処できるような備えだ。

 この『転移の羅針盤 小型三式』は一人しか転移できないので、大群で攻めてこられることはないので、その点は安心である。


『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』は、かなりの人数が転移できてしまうので、もしも悪者に奪われるとかなり危ないことになる。

 そこで、領城などを登録する場合には、事前に、ある程度の安全性が保てる場所を決めて登録場所にするように徹底した。

 何かあったときの緊急避難先は、秘密基地『竜羽基地』にするということも全員に徹底した。

 それから何故か……全員の強い希望により、登録先の一つが『ピア温泉郷 妖精旅館』になってしまった。

 みんな転移を使って、マメに温泉に入りに行く気満々じゃないか……まぁいいけどさ。



 エレナさんからは、もう一つ……話というか依頼があった。

 それは、俺にヘルシング伯爵領の『領政顧問』に就任してほしいという依頼だった。


 そんな話が始まった丁度その時、ユーフェミア公爵たちがやってきた。

 明朝行われるエレナさんの領主就任のお披露目式典のために集まったようだ。

 今晩は、ヘルシング伯爵領の貴族たちが集まり、簡単な晩餐会が行われるので、それに合わせて来たらしい。

 訪れたのは、ユーフェミア公爵、長女のシャリアさん、次女のユリアさん、三女のミリアさん、アンナ辺境伯、長女のソフィアちゃん、次女のタリアちゃん、第一王女で審問官のクリスティアさん、護衛官のエマさん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんだ。


「エレナ、あんたよく思いついたね! 領政顧問とは……いいアイディアだよ。ピグシード家の家臣の騎士爵であるグリムが、他領の家臣になるのは少し問題だが、顧問なら問題ないだろう。やるねぇ、あんた。クリスティア、シャリア、ユリア、ミリア、あんた達、うかうかしてられないよ!」


 ユーフェミア公爵が悪い笑みを浮かべながらそう言うと、クリスティアさんたちが一斉にハッとした顔になり、何やらブツブツ言っていた。


 なにか……不穏な空気だが……気にするのはやめておこう……。


「決して……グリムさんを好きなわけじゃありません! 領のために、協力してもらいたいだけです!」


 エレナさんは、逆ギレ口調で言いながら真っ赤な顔で俺を見つめている……どう反応すればいいのだろう……。


「グリムさん、遠慮する必要はありません。エレナさんの力になってあげてください。あなたをピグシード辺境伯領で独占するつもりは毛頭ありませんから」


 アンナ辺境伯は、優しい笑顔で俺にそう言ってくれた。


 よくわからない微妙な空気の中だったので、アンナ辺境伯の笑顔に救われた思いだった。


『領政顧問』というのは、肩書だけの名誉職のようなもので、義務のようなものは発生しないらしく、今行っているようなアイデアを出したり、意見を述べるという程度の協力をすればいいとのことだったので、就任要請を受けることにした。




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