485.晩餐会で、苦笑い。
俺はエレナさんに頼まれてヘルシング伯爵領の『領政顧問』に就任することになったが、そのことも明日の新領主お披露目式典で発表されるとのことだ。
もちろんユーフェミア公爵や妖精女神ことニアさんが後見を務めるということも発表される。
そして、もう一つ騎士団の結成も発表されるそうだ。
騎士団長は、執政官であるキャロラインさんが兼務するらしい。
もっとも、事実上の騎士団長は、領主のエレナさんのようだが。
『ヴァンパイアハンター』やその従者のみを集めた特別な騎士団、『
なるべく多くのやる気のある者を集めて、育成するところから始めるとのことだ。
養成所を領城の中に作るらしい。
その中で成長した選りすぐりの者だけを、騎士として入団させる予定なのだそうだ。
エレナさんから、もう一つ個人的なお願いをされてしまった。
それはヘルシング伯爵領にも、『ピア温泉郷 妖精旅館』のような施設を作ってくれないかということだった。
温泉旅館が、相当気に入ってくれたようだ。
さすがに温泉が湧いてないと温泉旅館は建てられないし、転移の魔法道具を渡したので、エレナさんは行こうと思えば、いつでも『ピア温泉郷 妖精旅館』に行ける。
そう考えると、無理に同じような温泉旅館を作る必要もないだろう。
それよりはむしろ、領民たちが気軽に利用できる銭湯のような施設を作った方がいいと思うんだよね。
公衆衛生を高めるためにも、お風呂に入る習慣はいいことだし。
ということで、『妖精旅館』のような大規模な……健康ランドのような温泉旅館ではなく、大きめの銭湯……いわゆるスーパー銭湯のようなものを各市町に作ろうと思う。
ただ、領主のエレナさんが街中の銭湯に行くのは、微妙だと思うので、領城の中に大きなお風呂を作ってあげることにした。
この話を聞いていたアンナ辺境伯とユーフェミア公爵からは、当然のごとくピグシード辺境伯領とセイバーン公爵領にも作ってほしいという圧がこもった視線を送られたので、同様に作ることを引き受けた。
俺に選択の余地は全くない感じだった……トホホ。
でも人々のためになることだし、セイバーン公爵領にもこれから本格的に出向くところなので、問題は無いけどね。
セイバーン公爵領には、『フェアリー商会』自体がまだ進出していないが、最初の進出事業が新事業のスーパー銭湯になりそうである。
そして、この前『フェアリー商会』の新体制を整備し、それに伴って新しい事業部門も作ったばかりなのだが、早速、また新たな事業部門を作らざるをえなくなってしまった。
『健康ランド・銭湯事業本部』といったところか……。
がんばって、異世界にお風呂文化を広めようと思う。
一通りの話を終えたところで、ちょうど晩餐会の始まる時間となったようだ。
俺たちは、領城の中の晩餐会を行うホールに案内された。
晩餐会といっても、立食形式の簡素なものにしたようだ。
だが、かなりの人数が集まっている。
ヘルシング伯爵領のほとんどの貴族が、家族を連れて集まったようだ。
遠方の市町の貴族たちは、エレナさんに頼まれて、サーヤが飛竜船で運んであげたのだ。
前にも少し聞いたが、ヘルシング伯爵領には、子爵家が二つ、男爵家が四つ、準男爵家が五つ、騎士爵家が五つあるそうだ。
それに加え、基本的には一代限りの爵位である名誉爵位の貴族がいるようだ。
名誉準男爵家が二つ、名誉騎士爵家が三つあるらしい。
俺は、ピクシード辺境伯家の家臣の名誉騎士爵なので、最下層の一代限りの爵位ということになるが、そんな俺が、『領政顧問』を引き受けて本当によかったのだろうかと少し考えてしまった。
ただ、爵位自体は気楽でいいので、ずっとこのままでいられるようにアンナ辺境伯に頑張ってほしいところだ。
晩餐会は立食形式なので、皆自由に動いて話す感じで、なごやかに進んでいったのだが……なぜか途中から、俺の前に貴族の行列ができてしまった。
そしてなぜか娘さんを丁寧に紹介されてしまった。
趣味や特技や性格や家系的に多産であるとか……そんなことをみんなアピールするかのように話していた……。
最初は意味がよくわからなかったのだが……途中から、どうも俺に嫁がせたいんだということがわかった。
途中から、露骨に嫁にもらってほしいという発言が出て、ようやく意味を理解することができた。
前領主夫人でエレナさんの親友でもあるボニーさんの父親のスニク子爵までが、ボニーさんの妹を俺に真剣に紹介するという展開になっていた。
そしてボニーさんも笑って見ていて、止めなかった。止めてほしかったのだが……。
ユーフェミア公爵もアンナ辺境伯もニヤニヤして見ているだけで、止めてくれなかったのだ……。
そしていつも『頭ポカポカ攻撃』を発動するニアさんまで、スルーしていた。
後から蓄積したロングタイム『頭ポカポカ攻撃』を発動するくらいなら、この場で発動させて、俺を救出してほしかったのだが……。
どうも、放置する方が罰になると思ったようだ。
てか……なんで俺が罰を受けなきゃいけないのよ……トホホ。
ただ娘さんたち自体は、しっかりしている人が多く、かつ勇ましい娘さんが多かった。
騎士団を設立するという噂が既に広まっていて、女性でありながら応募して騎士を目指すと宣言していた人が何人もいた。
そして男の子息たちも、みんな強くなって騎士になりたいと話していた。
父親たちもそうだが、やはり吸血鬼の『暗示』によって支配され、ヘルシング伯爵領を守れなかったことをみんな悔しく思っているようだ。
その話題になった時だけは、笑顔だった貴族の皆さんが、忸怩たる思いというか……複雑な心情をのぞかせていた。
ただほとんどの時間は、娘の売り込みだったけどね。
そしてほとんどの貴族たちは、何故か俺がエレナさんと結婚すると思い込んでおり、第二夫人、第三夫人を狙っていると公言する人までいた。
ご婦人方からは、正式な結婚はいつかとか、子供は何人の予定かとか、わけのわからない質問も連発されてしまった。
公の場で、俺が結婚する気がないというのもエレナさんに失礼な気もするし、エレナさんから止めてほしかったのだが……完全にスルーされてしまった。
俺は苦笑いするしかない状態に追い込まれてしまったのだ。
まぁなんとか苦笑いで、やりすごしたからいいけどね。
それから実は、集まって来ていたのは領内の貴族たちだけではなかった。
他国の貴族や商人なども何人かいたようだ。
エレナさんが『ヴァンパイアハンター』として活動していた時に、助けた貴族や商人らしい。
『正義の爪痕』による事件の話を聞いて、支援物資を届けに来てくれたとのことだ。
そんな中、エレナさんが領主に就任するという話を聞いて、皆喜んでいるようだった。
今後のヘルシング伯爵領への支援や取引を約束してくれているらしい。
今まで『ヴァンパイアハンター』として人々に尽くした結果だと思うので、とても素晴らしいことだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます