483.プレオープン第四弾、『舎弟ズ』大はしゃぎ!

 温泉旅館のプレオープン第四弾は、『舎弟ズ』たちとヘルシング伯爵領で保護した子供たちを招待した。


 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんと、人族の天才少女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんによる温泉の改造は、この第四弾に間に合った。

 それは、俺が依頼したジェットバスの装置と滑り台だった。

 ジェットバス装置のお陰で、念願の泡風呂が稼働できるようになった。

 ミネちゃんの得意なホバー装置の応用で、簡単にできてしまったようだ。

『魔芯核』を燃料にして、常時稼働できるのだ。

 滑り台は、彼女たちのアイデアだ。

 お湯を組み上げて、滑り台を薄く流れるようになっている。

 大きさは、普通の滑り台程度だが、浴室の中に入れると大きく感じる。

 少し深めの専用の湯船を増設した。

 ちなみに浴室は、男湯も女湯も建物の端にある構造なので、随時拡張することができるのだ。


 この滑り台で、子供たちは大喜び間違いなしだろう。


 と思ったのだが……実際は、むさ苦しい男集団『舎弟ズ』たちが大喜びで、きゃっきゃ言いながら滑りまくっていた。

『舎弟ズ』たちは、みんな子供のように大はしゃぎだった。

 こいつらは、機会に恵まれずグレてしまっていたが、根は純真な奴らなんだよね。

 でも、一緒に入っている子供たちが、滑り台を使いにくそうにしていたことには気づいてほしかった……頑張れ、舎弟ズ!


 宴会が始まる前に、ナビーからは、今後の方針が示されていた。


『舎弟ズ』は、各市町で『炊き出し』をやったり、街の清掃をやったり、見回りをやったり、屋台の運営や狩りをやったりして、ナビーが一人前と認めた場合に、『舎弟ズ』を卒業して『フェアリー商会』の社員にする計画のようだ。

 そして、影では『闇影の義人団』となって、街を救う活動もしてもらうつもりらしい。

 ただ、もちろんナビーは無理強いするつもりはないので、他にやりたい仕事があるメンバーは、『フェアリー商会』に無理に入れるつもりはないようだ。


 だが、その発表を聞いた『舎弟ズ』たちは、微妙な反応だった。

 どうも『舎弟ズ』を卒業したくないらしい。

 特に一代目『舎弟ズ』の面々は、みんな泣いていた。

「生涯、一舎弟ズとして、骨を埋める覚悟です。ナビー様!」という感じのわけのわからないことを言って、ナビーを困らせていた。


 俺としては、完全な変態になってしまう前にどんどん卒業させて、立派な社会人として働いてもらいたいと思っている。

 一代目のみんなは、もう手遅れかもしれないが……。

 各市町で新しく『舎弟ズ』になった者たちには、一代目のようになる前に是非卒業してほしいと思っている。


 ちなみに熱血教師ナビー先生の更生施設『残念B組! ナビ八先生』に入っている更生中のメンバーは、当然参加していない。

 まだ『舎弟ズ』にも入っていないメンバーだからね。


『残念B組! ナビ八先生』の卒業要件は、『ナビー先生との八つの約束』というものを守れるとナビーが判断することらしい。

 卒業して、『舎弟ズ』として実社会に出て、経験を積ませるようだ。

 ナビー先生の厳しい指導の下、共同生活を送っているが、ナビーがいつも見れるわけではないので、先輩の『舎弟ズ』とスライムたちが補助として入っているようだ。


 ちなみに『ナビー先生との八つの約束』とは、以下のものだ。


『残念B組、輝くA組(勝組)を目指して、ナビー先生との八つの約束』

 一、笑顔で挨拶

 二、感謝の心を持つ

 三、命を大事に

 四、家族仲間を大事に

 五、弱いものを守る

 六、嘘をつかない

 七、盗まない

 八、自分を許し愛する


 なかなかいいんじゃないだろうか……。

 ナビーは、俺自身でもあるだけに、俺的にはかなり納得の八つである。

  B組の皆には、ぜひ卒業を目指して頑張ってほしいと思う。


 俺も一度様子を見に行ったが……ナビー先生の熱血指導のせいか……若干、怒られて喜んでいるようなドMを宿した目つきの者が現れていたが……一定確率で変態に仕上がってしまうのは、やむを得ないことなのだろうか……。

 はあ……考えたら負けだな…… 深く考えるのはやめておこう……。



『ピア温泉郷 妖精旅館』の四日連続のプレオープンは、大盛況のうちに終了した。

 すぐに本格的オープンする予定だ。







  ◇







 夕方になって、俺はヘルシング伯爵領の領城に来ている。


 改めて領主のエレナさんと、打ち合わせをしたかったからだ。


 まず『血の博士』のアジトで、吸血用として囚われていた四十三名の女性たちの件である。

 第一王女で審問官のクリスティアさんによる聞き取りも終わり、故郷の市町に帰してあげることになっているが、希望者は『フェアリー商会』で雇用する旨を申し入れた。

 エレナさんも喜んでくれて、女性たちを帰す前に『フェアリー商会』の事業説明をする就職ガイダンスのような場を設けてくれることになった。


 次に、ナビーの活躍により各市町にできてしまった『舎弟ズ』のことについて、少し相談した。

 彼らは『炊き出し』や街の清掃・治安維持活動をして、自分を磨く活動をしてもらうが、一種の自警団的な感じになるので、事前に領主の了解を得ておきたかったのだ。

 衛兵隊に睨まれると困るからね。

 それから、前回、吸血生物に襲われた時のように、何かあったときには、衛兵隊に協力して街の治安維持の助けにもなりたいと申し入れた。

 エレナさんは喜んでくれて、すぐに了承してくれた。

 そして、各市町に伝達すると言ってくれた。


 前に打ち合わせした時に、各市町に、必要に応じて『ぽかぽか養護院』を作る許可をもらってあるが、その点についても打ち合わせをした。

 今回各市町で保護した浮浪児の子供たちは、ほとんど全員が『イシード市』への移住を希望してくれたので養護院を作る必要性がなくなってしまったのだ。

 元々は残りたいと希望する子供たちのために、養護院を作る予定だったのだが、そういう意味での必要性はなくなってしまった。

 ただ孤児を保護するだけではなく、親の貧困の問題などで恵まれない環境にある子供を救うという意味での養護院は、もちろんあってもいいのだが……。

 もしエレナさんが廃止されてしまった領立の孤児院を復活させる計画があるなら、俺が作る必要もないので、その点を確認したかったのだ。

 エレナさんは、領立の孤児院の復活も当然考えていたようだが、俺たちが運営している養護院の形態がいいと判断したようだ。

 孤児を救うだけではなくて、子供たち全般のためになる施設としての養護院という考え方に共感してくれたらしい。

 ただ養護院の運営のノウハウがないので、できれば『フェアリー商会』で『ぽかぽか養護院』を運営してほしいと頼まれた。

 そして運営費については、領が全面的に支援するという申し出をしてくれた。

 そうなると、事実上領立の養護院に近くなるので、初めから領立の養護院として作ってしまった方がいいのではないかと思ったのだが……まぁ人材を含め大変だろうから、協力することにした。

『フェアリー商会』として『ぽかぽか養護院』を設立することにした。



 それから、ヘルシング伯爵領の各市町には、『エンペラースライム』のリンの『スライム軍団』、『スピリット・オウル』のフウの『野鳥軍団』、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラの『野良軍団』、『スピリット・タートル』のタトルの『爬虫類軍団』が組織されている。

『アメイジングシルキー』のサーヤとともに、転移で各市町を回ってもらったのだ。

 これで今後また何かの襲撃があっても、ある程度の防衛はできるはずだ。

『舎弟ズ』もいるし、少しでも関わった以上、街の人たちを守るためにできる事はやっておきたかったのだ。


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