464.コウリュウド王国と、五神獣。
「そういえば、私たちが王城を発つ前……といっても転移できたから、ついさっきのことだが、王都に新たな情報が入ってね。行商人が持ち込んだ噂らしいが、それで大騒ぎになっているのさ。その情報の真偽も確かめるために来たのさね」
ユーフェミア公爵が、思い出したかのように言った。
「と言いますと、この領に関することでしょうか?」
新たにヘルシング伯爵領の領主になることが決まったエレナさんが、不安げに尋ねた。
「ああ、先日のヘルシング伯爵領の全市町で起こった吸血生物の襲撃事件の時に、『タンシング市』に黄金のドラゴンが現れたという情報が入ってきてね。私も妖精女神の使徒たちが各市町を守ってくれたことは聞いていたが、その中に黄金のドラゴンがいたかどうかは知らなかったから、確認して国王に連絡することになっているのさ」
ユーフェミア公爵は、いつになく真剣な眼差しで俺とニアを見た。
黄金のドラゴン……多分『ライジングカープ』のキンちゃんのことだけど……何か問題になるのだろうか……。
「あーそれキンちゃんのことね。なんで大騒ぎになってるわけ?」
ニアがいつものように、お気楽に答えた。
「え、ほんとに使徒の中にドラゴンがいるのかい?」
ユーフェミア公爵が、珍しく動揺している。
「ドラゴンといえばドラゴンだけど……普通のドラゴンとはちょっと違うのよね。一時的にドラゴンになってるだけだから……」
ニアがそう答えると、ユーフェミア公爵はこれまた珍しくハテナ顔になっている。
まぁニアの言っていることは間違ってはいないのだが……そんなことを言われても訳が分からないよね。
「あのー……私たちの仲間に『ライジングカープ』という鯉の霊獣がいまして、特別なスキルの力で一時的にドラゴンになることができるのです」
俺は補足説明をした。
「ということは、ドラゴンそのものではないということなのかい? その『ライジングカープ』とやらがコウリュウ様の使いってことでもないのかい?」
ユーフェミア公爵が、複雑な表情になっている。
コウリュウ様とはいったい……
「うん、キンちゃんは、ドラゴン王は目指しているけど、ドラゴンそのものとは違うわ。でもどうして? ドラゴンを従えていると何か問題なわけ?」
ニアは、ユーフェミア公爵の微妙な雰囲気を全く無視し、いつものように能天気に答えている。
てか、ドラゴン王を目指しているとか……話をややこしくするような発言はやめてほしい。
「ニア様、問題なんてもんじゃないよ! ドラゴンを従えているなんて……ありえないことさね。しかも、それが我が国の守護神獣であるコウリュウ様かその御使いだったら、国がひっくり返るような重大事だよ」
「重大事……そんなすごいコウリュウ様とかその御使いが現れたら、いいことなんじゃないの?」
ニアは、またもや能天気に訊いた。
「そりゃそうだけど……。コウリュウ様たちは、建国の時以来顕現されたことはないが、この国に危機が訪れるとき、その御使いが現れて再び力を貸すという伝承が残っているのさね。そして、目撃された黄金のドラゴンが、言い伝えられているコウリュウ様の姿とそっくりだったという話も衝撃を大きくしたのさ……」
「キンちゃんは、コウリュウ様の使いじゃないと思うけど、もし御使いだったらどうなっちゃうわけ?」
「それはニア様、国を挙げて最大限の礼を持ってお迎えしなきゃいけないよ。そしてこの国の危機を乗り越えるために、お力添えをお願いしなきゃいけない」
ユーフェミア公爵が、神妙な顔で言った。
ユーフェミア公爵が、神頼み的な発想をするなんて珍しい……。
コウリュウ様とは、それほどの存在のようだ。
微妙な顔つきの俺たちの心情を察してか、ユーフェミア公爵はコウリュウド王国の建国にまつわる伝承を簡単に説明してくれた。
それは今から約千二百年前のことだそうだ。
一人の勇者と四人の従者が悪魔の軍団と戦い、支配された人々を救った。
そして新たな国『コウリュウド王国』を作った。
そしてそれに力を貸したのが、五神獣と言われている神とも言える存在だったようだ。
それは、俺の元の世界でも知られている天の四方を司る霊獣である四神と、その中央に座する霊獣と同じだった。
東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武、そして中央の黄龍である。
この世界では、セイリュウ、ビャッコ、スザク、ゲンブ、コウリュウと表示されるようだ。
これらの五神獣が勇者とその従者に力を与えるとともに、導いたのだという。
それにより、勇者たちは悪魔の軍団を倒し、人々を解放したのだそうだ。
そして勇者は、コウリュウから『コウリュウド』という名前をもらって、『コウリュウド王国』を建国したのだそうだ。
従者は、王国を守るために四つの公爵家を起こしたそうだ。
それが『セイバーン公爵家』『ビャクライン公爵家』『スザリオン公爵家』『ゲンバイン公爵家』となったとのことだ。
建国時の伝承には、いずれ『コウリュウド王国』に危機が訪れる時に、五神獣の御使いが現れて再び力を貸すという記述があったらしい。
そして、王家と四つの公爵家に伝わる神器の真の力が、再び解放されるとも記述されていたようだ。
それゆえに、もし『タンシング市』に出現した黄金のドラゴンが、コウリュウの御使いであるならば、喜びであるとともに、この国に危機が訪れるという知らせでもあるということになるようだ。
そういうことなら、確かに国王や重臣たちは騒然となるだろう。
俺は、改めて『ライジングカープ』のキンちゃんは、コウリュウ様の使いではないので心配ないと説明した。
ユーフェミア公爵は、俺たちを信用して納得してくれたようだ。
ただ、報告もあげなければならないので、なんとかキンちゃんに会わせてくれないかと頼まれてしまった。
まぁ事情が事情だけに、キンちゃんを見て安心してもらった方がいいだろう。
ということで、ユーフェミア公爵たちに、キンちゃんをお披露目することにした。
ただ人目のあるところで、ドラゴンになるとまた大騒動になる可能性が高いので、秘密基地である『竜羽基地』に移動して会ってもらうことにした。
『竜羽基地』のある竜羽山脈は人が住んでいないので、あそこなら大丈夫だろう。
早速、転移の魔法道具で移動することにしたが、エレナさんとキャロラインさんもどうしても一緒に行きたいというので、止む無く連れて行くことにした。
まぁキャロラインさんは俺の眷属だし、エレナさんももはや身内のようなもんだからいいだろう。
『竜羽基地』は秘密基地というものの、それほど秘密な基地でもなくなってきてるしね。
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