463.王命、下る。

「今回一番大変だったのは、グリムとニア様の件だったよ! まったくド派手なことをやらかしたからね。『領都ヘルシング』を含めた全市町を救ってくれたからね。しかも死者を出さずに。まぁ普通は信じられないから、本当なのか何度も念押しされたよ」


 打ち合わせが終わるのかと思いきや、ユーフェミア公爵が腕組みしながら苦笑いした。


「いいことじゃない! それの何が問題なわけ?」


 ニアは、意味不明と言いたげに手を上に向けた。


「今回も、あんたたちを王都に召喚すべきだという意見が出てね。ピグシード辺境伯領に引き続きヘルシング伯爵領まで救ったことになるからね。国王直々に、報奨を与えたり勲章を授与するべきだという話になったのさ。それと、元々あんたたちを危険視する重臣もいたから、今回の件でより危険視されてしまったというのもある。いかんせん、あんたたちが本気になったら、コウリュウド王国を一捻りできそうな戦力を持ってるわけだからね。ハハハハハ!」


 ユーフェミア公爵は、豪快に笑った。


「私たちに王都に来いっていうわけ? なんか面倒くさそうだから嫌よー。遊びに行くならいいけど。それに、人助けしてるのに、なんで危険視されるわけ? 全くわけわかんない!」


 ニアが不満顔だ。


 ユーフェミア公爵の言っていることというか……王都の重臣たちが心配してることも、彼らの立場に立てばわからなくはない。

 確かによくわからない者が、強大な軍事力を持っていたら警戒してしまうだろう。

 今のところ人助けをしているといっても、その相手のことをよく知らなければ、いつ自分に刃が向くか不安になる気持ちはわかる。

 実際に会って確かめるべきというのは、普通の発想と言える。

 まぁユーフェミア公爵や第一王女のクリスティアさんの信用があるから、何とか召喚されずに済んでいるのだろう。

 俺は別に王都に行ってもいいけど、色々と面倒くさそうなんだよね……。


「私もね、もう面倒くさくなっちまって、ブツブツ言う重臣どもに言ってやったのさ。グリムたちがこの国を滅ぼすなら、とっくに滅ぼされているよって。対抗しようなんて変な気を起こして、妖精女神のニア様にへそでも曲げられたら、この国は終わる。責任取れんのかって、久々に脅しちまったさね。ハハハハハハ」


 ユーフェミア公爵はそう言うと、また豪快に笑った。


 重臣たちを脅しちゃまずい気がするが……大丈夫なんだろうか……。


「私たちは、困っている人を助けたいだけで、国をどうこうなんて面倒なことは考えてないんですが……」


 俺がそう言うのを、ユーフェミア公爵は右手を突き出して途中で止めた。


「そんなことはわかってるよ。私も冗談で言ったけど、あいつら割と真剣にびびってたね……。青ざめてた奴が何人もいたよ。自分たちの手に負えない力を持つ存在なんて、この世界にはいくらでもいるのに。何を今更って感じさね。悪魔、魔王、ドラゴン、災害級魔物、どれも国を潰せる戦力さ。それと同じと思えば、何も慌てることなんかないじゃないか! 話が通じるだけ、余程安全だよ!」


 ユーフェミア公爵はそう言って、笑っていた。

 なんか……無茶苦茶なことを言っている気がする……。

 それにしても俺たちって……悪魔とか魔王と同じ扱いなわけ…… トホホ。


「グリムさんやニア様を好意的に捉えている重臣たちがほとんどですし、何よりも国王であるお父様が好意的ですから、そこはご安心下さい」


 クリスティアさんが、苦笑いしている俺とニアを見かねてそう言ってくれた。


「それはほんとだよ。あんたたちを危険視するマヌケな重臣は、そんなに多くはないよ。ほとんどの重臣たちは直接褒美を取らせるべきとか、もっと爵位を上げて厚遇すべきとか、領地を与えるべきとか、そんな意見さ。領地を与えるといっても、この国に新たな領地はないから、ヘルシング家を潰してグリムに領主を引き継がせるなんてバカなこと言いだした奴もいたけどね。まぁヘルシング家を助けたいあんたたちが、受けるわけがないって一喝しといたけどね」


 ユーフェミア公爵は、今度は苦笑いした。


「私たちのためにご苦労をおかけし、申し訳ありません。そして私たちの心情を配慮していただいて、ありがとうございます」


 俺は改めて、ユーフェミア公爵やクリスティアさんに礼を言った。


「いいのさ、あんたたちのためにできることをしただけさね。ただ今回の件で、国王は確信してしまったようだ。あんたは完全に、父としてのアイツに目をつけられちまったね。クリスティアが今回も一生懸命になりすぎてたからね。アイツは密かに私のとこに来て、グリムがどんな性格だとか、変な癖はないかとか、いろいろ訊いてきたからね……」


 ユーフェミア公爵がニヤニヤしながら、クリスティアさんを見つめた。

 クリスティアさんは、なぜか真っ赤になっている。


 なんだろう……凄く不穏な話な気がする……嫌な予感しかしないが……。


「まぁそれはともかく、なんとか話はまとめたが、そのために一つ手を打った。あんたたちが王都に召喚されなくて済むように、王命を下してもらったのさ」


 ユーフェミア公爵は、一転真剣な表情になった。


「王命ですか?」


 俺は少し驚いた。

 突然の王命なんて……


「そうさ、…………『正義の爪痕』の首領のアジトを突き止め、組織を壊滅せよ…………という王命を下してもらったのさ。今の我が国の最優先事項は、『正義の爪痕』の完全な壊滅だよ。それは何よりも優先される。だから王都への召喚はなしってわけだ。聞き出した情報では、我がセイバーン領内に首領のアジトがあるって話だから、今後は私と一緒に行動するということになっている。まぁあんたたちのことだから、どのみち首領のアジトを探すつもりでいたんだろう。だからやることは変わらない。むしろ堂々とできるし、国とセイバーン領が全面的に支援する。なにせ王命だからね。どうだい? これなら問題ないだろ?」


 ユーフェミア公爵は、ドヤ顔を俺に向けた。


「は、はい。ありがとうございます」


 俺はそう返事をし、頭を下げた。


 確かにユーフェミア公爵の言う通り、なんとしても首領のアジトを見つけ出して倒してしまいたいと思っていたから、好都合かもしれない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る