462.親友三人で、力を合わせて。
正式に領主になることが承認されたエレナさんから、今後の領運営の体制について説明があった。
エレナさんとバラン=ヘルシング伯爵は、ヘルシング家が存続できる場合に備えて、今後の体制について打ち合わせをしていたようだ。
それによると執政官には、『血の博士』に殺された前執政官の娘であるキャロラインさんが就任するとのことだ。
そして領主夫人のボニーさんも、子育てをしながらではあるが補佐官として、協力するということにしたらしい。
この三人は元々幼馴染で親友だから、深い絆と信頼がある。
一丸となって、領運営の再建に取り組めるだろう。
もちろん他の古参の家臣たちも、忠誠心が厚く皆エレナさんに従うようだ。
彼らも皆『暗示』をかけられ、領の危機に何もできなかったという
そんな家臣たちにも、しっかりと役割を与えて登用するとのことだ。
また今回の反省も込めて、『ヴァンパイアハンター』やその従者の育成も復活させるらしい。
ここ数十年は、積極的には育成してこなかったようだ。
その背負う運命が過酷であるために、決死の覚悟の者以外は育成していなかったそうだ。
ただ今回も、自ら強く希望する者のみ選抜するとのことだ。
まずは『ヴァンパイアハンター』の従者となるべき者の募集をかけ、育成して行くそうだ。
その中で特に優れた者は、『ヴァンパイアハンター』になる可能性もあるらしい。
ただ血筋として『ヴァンパイアハンター』の特殊能力を受け継いでいるのはヘルシング家と、系統的にその縁戚にあたるスニク子爵家とクルース子爵家だけらしい。
スニク子爵家は領主夫人のボニーさんの実家で、クルース子爵家はキャロラインさんの家だ。
この三家以外の者でも訓練を積むことによって、『ヴァンパイアハンター』として活動できるほど強くなることもあるようだ。
ただエレナさんのような生まれ持っての超絶な能力ではなく、あくまで訓練によってヴァンパイアと対抗できる存在になるということのようだ。
また『ヴァンパイアハンター』の従者を多く輩出している貴族の家系もあって、特にサルバ準男爵家とトーレ準男爵家は代々多くの従者を出している勇敢な家系とのことだ。
『闇影の義人団』のリーダーのスカイさんが前に言っていたが、彼女はサルバ準男爵家の血縁に当たるそうだ。
父方の祖父が、先々代のサルバ準男爵の弟に当たると言っていた。
他の貴族たちも、基本的に勇敢な家系ばかりのようだ。
そんな勇敢な家系が多いヘルシング伯爵領も、ヴァンパイアの『暗示』にかかり骨抜き状態になっていたのだから、恐ろしい話である。
『ヴァンパイアハンター』の従者を希望する貴族の子息は、実は今でも多いらしい。
ボニー夫人によると、エレナさんやキャロラインさんの美貌もあって、従者希望者はかなり多いようだ。
それを今までは従者を取る気はないと言って、二人とも断っていたそうだ。
そんな状態だから、正式に公募すれば、領内のほとんどすべての貴族の若い子息は応募するのではないかとボニー夫人は見ているようだ。
特に家督の継承権のない次男三男などは、かなりの確率で応募するだろうとのことだ。
また女性でも勇敢な者が多いので、多くの応募が予想されるそうだ。
そんな話が出たからか、キャロラインさんが突然俺の前に来て、手を握った。
「わ、私はグリムさんの眷属ですから……グリムさん一筋です。従者などいりません。私がグリムさんの従者のようなものですから……一生の……ふふ」
キャロラインさんは、頬を赤らめながら俺を見つめている。
冗談じゃなく本気で言ってる感じなんですけど……どう反応していいか全くわからない……。
「わ、私だって一筋ですわ! 別にグリムさんのことが、好きなわけではありません! “一筋”なら負けないということを言いたいだけです! それに従者にだってなれます! でも別に……グリムさんのことが好きなわけではありません!」
今度はエレナさんが、わけのわからないことを口走っているが……。
俺にどうしろというのだろう……。
困っている俺に、すかさずニアが飛んできて『頭ポカポカ攻撃』を発動した。
こんな変な雰囲気のときは、逆にニアのこの攻撃で場の空気も破壊されて助かる感じだ。
そして当然のことのように、連携技でクリスティアさんとエマさんの『お尻ツネツネ攻撃』も発動した。
この二人……完全に連携をものにしてる。
サーヤとミルキーの代役のような感じだったはずなのに……この人たちがレギュラーみたいになってるし……トホホ。
従者候補の選考と育成は、補佐官となるボニー夫人が担当するらしい。
彼女は若くしてバランさんと結婚したので、『ヴァンパイアハンター』として活動することはほとんどなかったようだが、実はかなりの腕前だったようだ。
エレナさん、キャロラインさんと肩を並べていたらしい。
そんな話を聞くと……少しビビる。
なんて恐ろしい幼なじみ三人組だ。
ボニー夫人は、どうせなら間口を広く受け入れて、育成学校のようなかたちにして人材育成を兼ねて本格的に総合教育をするつもりのようだ。
そんな話を聞いていたユーフェミア公爵が、ニヤニヤしながら言った。
「エレナ、ボニー、キャロライン、この際だからあんたたち、気合い入れてやりな! 従者の軍団を作ったらどうだい!? 二度とこの領が侵食されることがないように、従者騎士団を作ったらどうだい? 国王に認められれば、領独自の騎士団を作ることもできるんだよ」
そんな提案をしたユーフェミア公爵に詳しく尋ねると……
騎士団は、基本的には王国を守る精鋭部隊として、国の直属の騎士団が王都にいくつかあるそうだ。
王族を守る『近衛騎士団』、王国軍の中核となる『王国聖騎士団』、独立行動が許された特別部隊『コウリュウ騎士団』があるそうだ。
ちなみにクリスティアさんの護衛官のエマさんは、『近衛騎士団』の所属になる。
そして前から聞いていた通り、『近衛騎士団』で『第三位』の格付けを持っているらしい。
『近衛騎士団』の中で、三番目に強いという序列になるのだ。
この他に、四公爵家がそれぞれ独自の騎士団を持っているとのことだ。
建国当初から代々伝わる由緒ある騎士団のようだ。
ちなみにセイバーン公爵領の騎士団は、『セイリュウ騎士団』というらしい。
他の領主も国王に申請して認められれば、独自の騎士団を持つことができるそうだ。
ただ実際には、独自の騎士団を持っているは極少数のようだ。
普通に考えれば……領軍があるわけだから、その中で特別に騎士団を組織する必要はないのだろう。
ただ今回のユーフェミア公爵の提案は、『ヴァンパイアハンター』やその従者のみを集めた特別な軍団ということなので、意味はある気がする。
「そうですわね。どうせなら騎士団創設を目指します!」
エレナさんは一瞬躊躇していたが、意を決したようにユーフェミア公爵を見つめた。
「それがいい! 今回の件もあるから、逆に認められやすいはずだ。私が騎士団の名前をつけてあげるよ。『
ユーフェミア公爵は、ご機嫌で名前まで考えてくれたようだ。
「素晴らしい名前です。ありがたく頂戴いたします」
エレナさんが、輝く笑顔で頭を下げた。
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