461.女領主連合、発足!?

 それからもう一つ、一時的だが即効性がある資金作りの方法があるので、それも提案した。


 衛兵隊や領軍で魔物狩りをするというものだ。

 この領内にもいくつか魔物の領域があり、その周辺には魔物が出没する。

 完全な魔物の領域に入らなくても、周辺の魔物を狩るだけでも、かなりの数になるだろう。

 この周辺に出没する魔物は、人々と遭遇する場合もあり危険なのだ。

 そこでこれらの魔物を退治するのである。

 人々が安全になるし、魔物を倒せば『魔芯核』が取れる。

『魔芯核』は、魔法道具の材料になったり燃料になったりするので、国が決まった値段で買い取ってくれるのだ。

 通常は、各領で買い取って、その各領が税金の一部として収めたり、国に買い上げてもらうという構造になっているようなのだ。

 確実にお金になるのだ。

 もちろん『魔芯核』以外にも、魔物のパーツを販売すればお金になるし、肉も販売することができる。

 パーツの販売や肉の販売については、衛兵隊や領軍で行うのは大変だと思うので、必要なら『フェアリー商会』で引き受けるという話をした。

 そして何よりも、衛兵隊や領軍を実戦訓練で鍛えることができると付け加えた。

 この件も当然了承され、エレナさんなどは、自分で魔物退治に赴くつもりのようだ。

 やる気満々になっていた。

 確かにエレナさんの実力なら、普通の魔物なら余裕で瞬殺だろう。


 それから、もう一つ提案というか、お願いしたのが、悪徳商会『ヤーミン船商連合商会』の取り締まりだ。

 昨日存在を知った時点で、ナビーに念話して調査を頼んだら、今朝までの間に盗品の買取の帳簿や各種違法行為の資料を手に入れてくれたのだ。

『ヤーミン船商連合商会』は、盗品の買い取りや闇取引だけでなく、不当な人身売買、役人への賄賂、地上げ、殺人など様々な犯罪行為を行っていて、その証拠もナビーが見つけてくれたのだ。


 川賊との関係とともに、これらの犯罪行為の証拠を提出した。


 ヘルシング伯爵もエレナさんも、これだけの犯罪を犯している証拠があるから、『ヤーミン船商連合商会』は確実に解散となり会頭や幹部は逮捕されるだろうと言っていた。

 エレナさんはかなり憤っていて、もしエレナさんが逮捕に行ったらボコボコにしてしまいそうな雰囲気だった。


 犯罪行為で解散となれば、その資産は全て没収されることになる。

 領の資産になるので、運営資金に充てることができるだろう。


 この件は、エレナさんが担当することにしたようだ。

 やはりボコボコにする気満々らしい。


 取引している川賊については、俺の方で引き続き退治することを引き受けた。

 元々そのつもりだったからね。

 衛兵隊や領軍には、盗賊の取り締まりに力を入れてもらった方がいいだろう。


 ちなみに川賊退治は、今日中に終わってしまうかもしれない。

 この『領都ヘルシング』に来ているのは俺とニアだけで、他のメンバーは現在……絶賛川賊退治中なのだ。

 昨日アジトの捜索を頼んだ川イルカのキューちゃんたちが、早速いくつかの怪しい場所を見つけてくれたのだ。


『魚使い』のジョージを中心とした俺の仲間たちが、昨日同様川賊退治に向かったのだ。

 昨日のジョージたちの戦いぶりを見て任せても大丈夫だと思ったし、念のために今日は『アラクネロード』のケニーが同行してくれている。

 もちろんリリイ、チャッピーも含めて俺の仲間たちも一緒なので安心だ。

 今日中にすべての川賊を殲滅してしまう予感しかしない。


 エレナさんからは、『ヤーミン船商連合商会』が所有している店や不動産を『フェアリー商会』で引き継いでくれないかという提案をされた。

 もし引き継いでくれるなら、この件の報奨として全て無償で提供するとのことだった。

 そして、できれば事業も引き継いでほしいとのことだった。


 不動産は売って現金化することもできるだろうが、事業は領やヘルシング家が引き継ぐわけにはいかないだろう。

 大規模の商会だし、かなりの人数を雇用しているはずだ。

 末端の従業員は善良な可能性もあるから、その人たちまで職を失うのは気の毒だ。

 雇用を維持してあげる必要性はあるといえる。


 ということで、俺はその提案を受けることにした。

 そして問題のない人については、継続雇用することを約束した。


 エレナさんは俺のこの報告に触発されたのか、他にも人々を苦しめている悪徳商会がある可能性があるので、調査をすると宣言していた。

 全市町で調査をすると言っていたから、かなり本気のようだ。


 確かに悪徳商会は、他にもある可能性が高い。

 調査をすることは、凄くいいことだと思う。

 悪徳商会を排除して、不当に稼いだお金を没収し領政に当てることで、人々に還元するのは非常にいいことだ。



 話が一段落した頃に、なんと王都に行っていたユーフェミア公爵たちが帰ってきた。

 帰りは転移の魔法道具を使って、一瞬で戻ってきたようだ。


 ユーフェミア公爵と長女のシャリアさん、第一王女のクリスティアさんと護衛官のエマさんが、打ち合わせをしている会議室にノックとともに入ってきたのだ。


 今回の事件の報告と、ヘルシング家に寛大な処分が下るように上申するために、赴いてくれていたのだ。

 王都での国王及び重臣たちとの話し合いの結果が報告された。


 ヘルシング伯爵領が事実上『正義の爪痕』に乗っ取られた状態になっていて、全市町で強化された吸血動物『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』による襲撃事件があったことの報告は、驚きを持って受け止められたようだが、査察官に任命されたクリスティアさんの報告に対し、特に異論は出なかったようだ。

 まぁ第一次報告ということで、さらに調査することになっているからかもしれないけどね。


 ヘルシング家の責任問題については、やはり責任は重く、取り潰すべきとの意見も出たようだが、ユーフェミア公爵とクリスティアさんの強い働きかけで回避できたようだ。

 当初考えていたように、エレナさんに代替わりすることで何とかまとめられたらしい。

 バラン=ヘルシング伯爵は責任を取って領主の座を退く。

 そして、領を救った英雄である妹のエレナさんが領主として再建するというかたちだ。

 密かに侵食されていた領の危機に気づき、幹部である『血の博士』を倒し、『正義の爪痕』のアジトを全て壊滅させ、組織に大打撃を与えたことが評価されたようだ。

 バラン=ヘルシング伯爵個人の責任についても、当面の間謹慎するとともにその後は『ヴァンパイアハンター』として人々のために尽くすということが認められた。

 事実上処罰がないという極めて寛大な処置だそうだ。

 これには夫人のボギーさんも、安堵の表情を浮かべていた。


 そして正式にユーフェミア公爵と妖精女神のニアまでが、後ろ盾になるということも確認されたらしい。


 全てこちらが想定した内容で決着してくれたようだ。

 さすがユーフェミア公爵とクリスティアさんだ。

 この二人に弱い国王はともかく、重臣たちからは厳しい意見も出たようだが、何とかまとめてくれたようだ。


 これで正式に、エレナさんは女伯爵となる。

 セイバーン公爵領のユーフェミア女公爵、ピグシード辺境伯領のアンナ女辺境伯、ヘルシング伯爵領のエレナ女伯爵という女領主連合の完成といったところだ。

 これに第一王女のクリスティアさんも加わっているようなもんだから……なんかいろんな意味で無敵な気がする……。


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