460.残念B組、ナビ八先生!
俺は、
闇ブローカーの役割を果たしている悪徳商会は、ヘルシング伯爵領の『サングの街』を南下したマナゾン大河沿いの都市『アンシング市』にある商会だとわかった。
『ヤーミン船商連合商会』という商会で、『アンシング市』の商売を牛耳る大商会らしい。
『領都ヘルシング』を含めた各市町に支店がある領内最大規模の総合商会だそうだ。
もっとも、大きな商売をしているのは、本部のある『アンシング市』と人口の多い『領都ヘルシング』だけのようだ。
俺のヘルシング伯爵領での活動拠点となっている『サングの街』にも、一応支店はあるようだが規模としては小さいらしい。
盗品を一手に引き受けているわけだから、かなりの物量をさばくために支店が多く必要なのかもしれない。
盗品を闇取引で安く仕入れて、ボロ儲けして大きくなった商会なのかもしれない。
実際どうやって盗品を買ってもらうのかと訊いたところ、なんとマナゾン大河の各川賊たちは『ヤーミン船商連合商会』の船商連合の一員という扱いになっていて、商船札を持っているとのことだ。
その商船札を使って、正規の手続きで港に入り荷揚げしているらしい。
いわば各川賊を、丸ごと傘下に収めているようなものだ。
そういうことなら、やはりこの悪徳商会を潰せば、川賊は盗品の売先がなくなるし、まとめて壊滅させることもできそうだ。
ただ盗品は、適宜持ち込まれるとのことなので、商会ではアジトの場所までは把握していない可能性が高い。
そうなると各川賊のアジトは、独自で探したほうが早いかもしれない。
川イルカのキューちゃんたちにお願いすれば、怪しい場所をすぐ見つけてくれそうだ。
普通はこの川賊のアジトのように、入江などに作っているはずだから見つけられるだろう。
俺は早速キューちゃんたちに、マナゾン大河とその支流のアジト探索をお願いした。
『アンシング市』にある悪徳商会『ヤーミン船商連合商会』の調査については、各市町に浮浪児保護とチンピラ排除に行っているナビーにお願いした。
盗品を買い付けている闇取引の証拠を見つけて、ヘルシング伯爵と妹のエレナさんに報告し直接対処してもらおうと思っている。
◇
翌日、俺は『領都ヘルシング』を訪れ、エレナさんたちと面会をしていた。
資金難に陥っているヘルシング伯爵領の、新たな資金源を作るための俺の考えを提案するためだ。
俺は、新しい特産品づくりや一時的ではあるが即効性がある資金作りの方法を提案した。
全ての提案は、あっさり了承されてしまった。
ヘルシング伯爵は優しく頷き、妹のエレナさんは目をキラキラさせて「わかりました。素敵です!」を連発するだけだった。
素直すぎて調子が狂っちゃう感じだった。
『聖血鬼』となって、俺の眷属になってしまったキャロラインさんは、うっとりしながら「さすがです。従います」を連発していた。
ほんと調子狂っちゃう……。
具体的な提案の一つ目は、『サングの街』のトマトを利用した『トマトワイン』作りと、それをヘルシング家の収益源にするための直営荘園作りの提案だ。
荘園の場所は、現在廃村状態になっている二つの村の跡地にして、ヘルシング家で直接運営することになる。
人を雇用して、トマトの栽培とワインの製造までを行うのだ。
販売については、『フェアリー商会』で行うかたちで協力する予定だ。
もちろんトマト栽培とワイン製造についても、俺の方で指導などをすることにしてある。
二つ目は水産資源を使った特産品づくりの件だ。
ヘルシング伯爵領のマナゾン大河に面した『ヨングの街』『ハンシング市』『サングの街』『アンシング市』に、新たな特産品を作るのである。
『ヨングの街』には『カマボコ』、『ハンシング市』には『ちくわ』、『サングの街』には『揚げカマボコ』、『アンシング市』には『魚肉ソーセージ』というかたちで割り振る。
そして肝油ドロップと歯と皮の加工品は、それぞれの市町で作るという昨日つめた案を提案した。
もっとも『カマボコ』とか『ちくわ』といっても、当然何のことかわからないだろうから、俺を信用して承認してくれたという感じだろう。
それぞれの市町に、『フェアリー水産』と『フェアリー食品』を作って、魚介類の確保と水産加工施設を作り、全面的に協力というか、先頭に立って特産品づくりをやろうと話した。
エレナさんたちは凄く喜んでくれて、スムーズに準備ができるように領としても協力してくれると言ってくれた。
マナゾン大河に面していない他の市町については、今のところ思い浮かんでいないので特に提案をしていない。
ただ内陸の特性を活かしてやれることもあると思うので、その提案をした。
それは一時的ではあるが、即効性のある資金作りの方法だ。
各市町を繋ぐ街道には、盗賊が相当数いるはずなので、それの退治を提案したのだ。
今までの領の状態を考えれば、どこの街道沿いにも盗賊が出没するはずだし、近くにアジトがあるはずだ。
それらを衛兵隊や領軍で退治するのだ。
俺たちが引き受けてもいいのだが、俺たちがやると報奨金とか領の出費がかさむし、押収物は基本的に俺たちのものになってしまう。
それよりは、領自体で取り締まった方がいいと思うんだよね。
人手が回らなければ、少数精鋭の専門のチームを作ってもいいだろうし。
まぁエレナさんとキャロラインさんの二人だけで、すべての盗賊が退治できちゃう気はするが……。
アジトを潰せば、そこにある資産を没収できるので、武力に自信がある人なら盗賊退治が一番稼げると思うんだよね。
これは俺の実感だ。
この世界に来て、初期に自分の力で大量にお金を稼いだのは、盗賊退治だったからね。
今回は、それを領自体がやって、資産を没収し領の運営資金に当てようということだ。
盗賊たちが莫大な金銀財宝を隠しているとも思えないが、それなりにはあるはずだ。
今の領にとっては大きいと思うし、何よりも人や物の流通を阻害している盗賊を退治することは、経済の活性化の上で非常に重要なのだ。
盗賊のアジトを見つけることは、結構大変かもしれないが、その点については俺たちが協力すると申し出た。
各市町に、『スライム軍団』『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』を作るので、その仲間たちにアジト探しを協力してもらおうと思っているのだ。
まぁ実際に街道沿いを探すのは、スライムや野鳥たちになると思うが。
キャロラインさんは『絆』メンバーなので、念話が通じる。
この件はキャロラインさんが先頭に立って指揮するようなので、アジトの情報は随時彼女に念話で教えてあげようと思っている。
盗賊の中には、貧しさなどで止む無く盗賊に身を落とした者もいると思うので、更生可能な者たちは、『フェアリー商会』で引き受けるという話もして、了承してもらえた。
犯罪奴隷にするよりは、更生させた方がいいだろう。
まぁ実際引き受けるのは、『フェアリー商会』というよりはナビーだけどね。
すぐに更生できそうな者は、ナビーさんのちょっとした有形力の行使の後で『舎弟ズ』入りになるだろう。
性根の捻じ曲がり具合が進んだ少し更生に時間がかかりそうな者も、今後は社会復帰を目指してナビーさんの矯正施設送りにするようだ。
根っからの悪党と思えるような者や、重大な犯罪歴のある者については、通常通り国法にしたがって犯罪奴隷になったり、処刑されたりということになるだろう。
本当はすべての人間に更生の機会は与えられるべきかもしれないが、さすがのナビーもそこまではやるつもりはないようだ。
ちなみにナビーは、何故か……教師魂に火がついてしまったようで……
ナビーが作る矯正施設を『残念B組 ナビ八先生』というわけのわからない名前にするようだ。
ちなみになんでそんな名前なのかと訊いてみると……
残念なB組……というか負け組から、A組……というか勝ち組になろう! という意味のようだ。
あと、ナビーとの八つの約束を守るという意味があるらしい。
八つの約束というのは、内容が少し気になるが……。
……てか、そんなことよりも、その理由はただのこじつけだと思う。
ただ単に名前で遊んでいるだけだよね……?
ナビーも俺自身ではあるので、元ネタは熱血教師ドラマからきているはずだ……。
なんか最近のナビーさん、自由すぎるんですけど……。
というか……ふざけすぎでしょ!
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