458.魚の、八本釣り!

 最後に大きな宝箱を開けてみた。

 通常のサイズの宝箱の三倍程の大きさがある。


 中に入っていたのは……


 綺麗な銀色の棒のようなものだった。

 十本入っている。


『波動鑑定』してみると……


『名称』が『ミスリル銀の魔法釣竿』となっていて、『階級』が『極上級プライム』となっていた。


 なんと魔法の釣竿らしい!


 見た目は、一メートルくらいの棒なのだが、魔力を通すと……


 ——ズズズズズーンッ


 収納式の釣竿のように長く伸びて、三メートルくらいの長さになった。


 そして先端からは、糸と針が出ている。


 改めて『波動鑑定』して詳細表示を確認すると……


 竿と針の部分が『ミスリル銀』で出てきているようだ。

 糸は魔鋼でできているようだ。

 針のパーツの形状は、あらかじめ登録されている釣針、鎌、銛、小剣、斧などに変形させることが可能なようだ。

『ミスリル銀』の特性を生かし、念の力で選んで変形させるらしい。

 どうも釣りだけではなく、攻撃用の武器としても使えるようだ。


 魔鋼の糸も、念の力で伸ばしたり、巻き戻したりできるらしい。

 機能的には、リール付きの釣竿と同様のことができるのだろう。


 そして釣りのやり方も、通常の釣りとは違うようだ。

 餌をつけて魚が食いつくのを待つのではなく、水中に入れると釣針が獲物を探し出して襲いかかるらしい。

 引っ掛けて釣り上げるという、まさに一本釣り状態の機能のようだ。

 つまりこの釣竿は、水中に放り投げると勝手に獲物を探し、捕まえてくれるのだ。

 この釣竿を手に入れた時点で、漁師としての成功は約束されたようなものだろう。

 物理的に魚がいないという場合以外は、必ず魚が釣れるということだからね。


 販売用の魔法道具として仕入れたらしく、値札が付いていて、一つ三千万ゴルとなっている。

 これが仕入れ価格なのか販売価格なのか分からないが、かなりいい値段だと思う。

 ただ『階級』が『極上級プライム』だし、『ミスリル銀』でできているし、この機能を考えれば安いくらいかもしれないね。

 餌代もかからないわけだし、絶対に釣れるわけだし、おまけに武器としても使えるわけだからね。


 それにしても……こんな魔法道具を作っているところがあるのか……。

 今もあるなら……ぜひ行ってみたい。

 もしかしたら……さっきのフィギュアを作った人と同じ人だろうか……。

 まぁ普通に考えたら、全く違う系統の商品だから別人だろうけどね。



「我が魔手が疼く……神器が我の元に……むおおおっ」


 オクティが中二病を発症しつつ、魔法釣竿を手に取った。

 しかも八本の腕全てに、魔法釣竿を持ったのである。


 八本の釣竿は瞬く間に伸びて、糸と針を出す!

 船首に位置したオクティは、八本の腕で四方八方に釣竿を投げた!


「神器を従えし我に……もはや敵なし! 釣るべし! 釣るべし! 釣るべし!」


 オクティがわけのわからない叫びを発しているが、そんなこととは関係なくすぐに魚がつり上がった!

 この大河は、魚が豊富だからあっという間に釣れてしまったようだ。


 まるでカツオの一本釣りのように、次から次へと魚が釣り上がっている。

 釣り上げると、うまく針が外れてすぐまた投げるというかたちで、凄まじい勢いで釣っている。


 素朴な疑問だが……『魚使い』の仲間なんだから、釣るより仲間にした方がいいんじゃないだろうか……考えたら負けだな……無視!


 釣り上げられている魚は、川ニシンのようだ。


  五十センチぐらいあるから、俺のいた世界の海にいるニシンよりも大きい感じだ。


 オクティは、わずかのうちに百匹上を釣り上げてしまった。


 遠巻きに見守っていた川イルカのキューちゃんたちも驚いている。


 キューちゃんたちを獲物と間違えて、釣ろうとしないか心配だったがそれはないようだ。

 オクティの感じを見ていると、なんとなく狙う獲物の調整は出来るような感じだ。


 オクティに一本釣りならぬ八本釣りという凄い技を披露してもらったが、一旦止めてもらった。

 このまま放っておくと凄まじい数の魚をとってしまいそうだったからね。

 試し釣りとしては、この程度でいいんじゃないだろうか。


 そんな感じで盛り上がっていたときだ……かなりのスピードで近づいてくる船がある。


 結構大きな船で、俺たちの飛竜船の二倍ぐらいはある。

 まぁ俺たちの飛竜船は、屋形船を一回り大きくした程度のサイズなので、そもそも大きくはないのだが。


 この緩やかな大河であんなにスピードを出すなんて……

 そう思ってよく見てみると、人が両側に並んでオールで漕いでいるようだ。

 帆に受ける風の推進力だけでなく、人力の推進力も加わっているらしい。

 漕いでいる人たちは、見た感じ奴隷っぽい。


 そのまま俺たちの船に、突っ込んでくる勢いだ。

 どうも……楽しいお客さんではないようだ。


  「兄貴、あれはおそらく川賊せんぞくだ! 港で漁師のおじさんが言ってだ。川サメが減ってから、また川賊が暴れだしたって」


 ジョージがそんな指摘をしてくれた。


 そういえば俺もスカイさんにちらっと聞いていた。

 元々このマナゾン大河には、川賊と呼ばれる海賊の大河版みたいな奴らがいたようなのだ。

 それが川サメが大量に出るようになって、ここのところはおとなしくしていたようなのだが、キューちゃんたちの活躍で川サメが減って、川賊が再び暴れだしたということらしい。


 盗賊として、行商人を襲うよりも大量の商品を積んだ大型船を襲った方が、一攫千金の可能性が高い。

 川賊が出没するのもわかる気がするが……。

 だがこいつら……狙う相手を間違えてる……。

 よりにもよって俺たちを狙うとは…… 俺は逆に同情してしまった。


 かなり接近してきたが……一向にスピードが落ちない。

 激突させる気のようだ。

 川賊の船の船首には、強力な補強がしてある。


 さて……どうするか……。

 船も人もなるべく無傷で拘束するには……

 そんなことを考えていると……キューちゃんから念話が入った。


(マスター、私たちに任せてください!)


 どうも、キューちゃんたちが水中から川賊船を押し戻してくれるようだ。


 レベルが上がっているキューちゃんたちなら、普通の力勝負でも余裕だろう。


 川賊船のスピードが、どんどん落ちていく……


 うまく調整したのか、ちょうど俺たちの船ギリギリのところで川賊の船が止まった。

 急に船が止まって川賊たちは一瞬驚いていたが、すぐに我に帰って俺たちの船に乗り移ろうとしている。


「我が行く手を阻む者よ、闇の刃のうなりをその身に受けるがよい!」


 オクティが、またもやわけのわからない叫びとともに、釣竿八本を縦横無尽に操作して、川賊たちの肩に釣り針をひっかけて釣り上げだした!


 釣り上げるといっても、川賊を空中に放り投げているだけなのだが……。

 魚のように次々に俺たちの船に、空から川賊が降ってくる。

 それを仲間たちは『状態異常付与』スキルで『眠り』を付与して、次々に拘束していった。


 後方に位置していた川賊たちは矢を射ってきたが、俺たちにとっては全く脅威ではない。

 その川賊たちは、すぐにキューちゃんたちに無力化された。

 キューちゃんたちが体当たりで、次々に川に落としたのだ。

 そしてその後は、イルカショーのボールのようにイルカたちから空に打ち上げられ、俺たちの船の甲板に降ってきている。


 いきがって襲ってきた川賊たちだが……なんだか……哀れでしかない。


 こうして川賊はすべて拘束した。

 やはり船の両サイドでオールを漕がされていた人たちは、川賊に襲われて捕まった人たちのようだ。

 奴隷契約で奴隷にはされていないようだが、実質奴隷状態だったようだ。

 首と足首に鎖付きの輪がはめられている。

 俺たちは川賊の船に乗り移り、この人たちを解放してあげた。

 全部で二十人もいる。

 拘束した川賊たちは十五人だった。


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