456.サルベージ、はじめました!

 『フェアリー商会 サング支店』の総支店長に就任予定のスカイさんと商会幹部のサリイさんからは、もう一つ興味深い話を聞くことができた。


 それは最近、マナゾン大河に巨大な川サメが出没するようになり、船が襲われて沈没する事件が多発していたということだ。


 川サメが増えて、川に住む生物たちが困っているという話と人族の船も襲われているという話を、前に川イルカのキューちゃんからも聞いていたが、実は相当な被害が出ていたらしい。


 そのせいもあって、各港を訪れる商人も以前より減っていたらしい。


 ただ、このサメの被害については、キューちゃんたちが退治しまくっているので、今後は心配ないだろう。


 そんな話を聞いて、俺は思いついたことがある。

 多くの船が沈んでしまったということは、船が積んでいた硬貨や装飾品、商品なども一緒に沈んでいるはずだ。

 それらを引き上げたら、面白いかもしれない。

 沈没船を引き上げて、お宝発見なんて……めちゃめちゃテンションが上がる!

 硬貨や装飾品はもちろん、水に濡れても大丈夫な商品なら再利用もできるはずだ。

 それに大きな損傷でない船は、修理して再利用することもできるかもしれない。


 スカイさんの話では、沈没した船から引き上げた物は、引き上げた人間の所有物になって、元の所有者に返す必要は無いとのことだ。

 これはもうやるしかない!


 俺は考えているうちに、ワクワクしすぎちゃって、『フェアリー商会』にサルベージ部門を作ろうかと思い立ってしまった。

『フェアリーサルベージ』……沈没船の引き上げ……いいね!

 もしかしたら……思わぬお宝を発見できるかもしれない!


 そしてこれには、最高にマッチングする人材がいる!

 それはジョージだ!

 マナゾン大河を満喫しながら……魚たちと戯れながらお宝を発見する!

 あいつなら絶対にワクワクして、賛同してくれるはずだ。


 そして何よりも、川イルカのキューちゃんたちがいるから、簡単に沈没船を発見してくれると思うんだよね。


 これは個人的な楽しみとしても、ぜひやりたい。

 ちょっと落ち着いたら、ジョージと一緒にやろう!

 ジョージには、自由に過ごしてもらいつつ、『フェアリー水族館』の立ち上げの責任者を任せようと思っていたが、サルベージ部門も任せてもいいかもしれない。

 なんかめっちゃ面白そうだ!

 川や海に沈んだ沈没船からお宝を探し出す“お宝ハンター”は、『魚使い』のジョージにぴったりだ!



 俺は早速この話をジョージにした。

 予想通りジョージも目をドルマークにして、ハイテンションになっていた。

 ちなみに当然のことながら、ニアさんも目をドルマークにさせている。

 まぁ正確には、金貨マークと言ったほうがいいのだろうが……。


 とにかくみんなでノリノリで港に行った。


 そして川イルカのキューちゃんたちを呼んだ。


 沈没船の話をしてみると、やはりキューちゃんたちは船が沈んでいる場所を把握しているようだ。

 この港のすぐ近くにもあるらしい。

 これはもう行ってみるしかない!


 俺たちはすぐに船を出し、キューちゃんに案内してもらった。


 港を出て、少しだけ南に下った大河の中央付近に沈んでいるらしい。


 俺は試しにキューちゃんにつかまって、一緒に潜ってみることにした。

 素潜りでどのぐらいいけるかかわからないが、ワクワクには勝てなかった。


 ジョージや他の子たちも一緒に行きたいと言ったのだが、最初はまず俺が様子を見てくるということで我慢してもらった。


 この大河は、大きさもさることながら深さもかなりあるようだ。


 潜っていくと……たしかに、川底に大きな船が沈んでいる。

 この大河は流れが緩やかなので、川底の水流もゆったりとしている。


 それゆえに積荷は大きく流されることがなく、残っている可能性が高い。

 ただこの船は、最近沈んだ船ではないようだ。

 かなり前に沈んだものだろう……。

 相当朽ちているし、海藻が生えたり貝が無数についている。


 沈没船の中に入ると、川底の砂に埋もれているが宝箱らしき物がいくつかある。

 中には箱が壊れてしまっているものもある。


 そんな確認をしたところで、息が苦しくなってきたので、一旦戻ることにした。


「どうだった? あった?」


 ニアが真っ先に声を上げた。


「うん、確かにあったよ。大きい船だったけど、結構古いようでだいぶ朽ちてたよ。中を覗いたら宝箱がいくつかあった」


 俺がそう答えると、ジョージが鼻息荒く近づいてきた。


「兄貴、ほんどが! んだば、すぐ取りいご!」

「水面の奥深く……我を呼ぶ声が……水底王が我を呼んでいる……」

「すばらしいですね。ぜひ私もお宝を見たいです!」

 ジョージと、その使い魔ファミリアである『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティと仲間の虫馬『サソリバギー』のスコピンが、それぞれに意気込んでいる。

 オクティは、相変わらず中二病をこじらせているようだ……。


「リリイも、川の中を見てみたいのだ!」

「チャッピーも、潜りたいなの!」


 リリイとチャッピーも我慢できないようで、船から飛び込そうになっていたので、慌てて止めた。


「みんな、行きたい気持ちはわかるけど、かなり深いから普通に潜っていっても、ほとんど何もできないよ。宝物を回収する方法を考えよう!」


 俺はそう言ってみんなを引き止めつつ、問題を提起した。


 やはり、問題はどう引き上げるかだ。

 一番簡単なのは、全体を俺の『波動収納』に回収することだが……。


 やってみないとわからないが、周りの水もある程度一緒に収納してしまうかもしれない。

 そうなると……突然海底の水がなくなって波が起きる可能性がある。

 もし津波のようになったら大変だ。

 迂闊にはできない。

 キューちゃんたちに引き上げてきてもらうのが、一番安全で確実かもしれない。

 ただかなりの手間だし、宝箱が壊れて散乱しているような場合、拾い集めるのは相当大変だ。


 折衷案としては、俺の『波動収納』やキューちゃんたちの『共有スキル』の『アイテムボックス』で、宝箱単位のように小さな単位で、マメに収納する方法が考えられる。

 これなら、もし水も一緒に回収されてしまうとしても、一回が少ない量なので津波を発生させるようなことにはならないだろう。

 現時点では、この方法が一番確実かもしれない。


 もっとも実際にやってみたら、俺の『波動収納』にしろ『アイテムボックス』にしろ、周りの水は回収しないかもしれないけどね。

 普通に『波動収納』に回収するとき、周りの空気は回収されないからね。

 水も空気と同じような扱いになるのだとすれば、回収しないで済むかもしれない。

 こればかりは、やってみないとわからない。


 とりあえずもう一度潜って、宝箱一つだけ回収してみて周りの水も回収されてしまうか確認してみよう。


 キューちゃんと一緒に沈没船の場所に戻り、目についた宝箱を一つ『波動収納』に回収してみた。

 その場で『波動収納』の状態を確認すると、どうも周囲の水は回収していないようだ。

 宝箱のみ回収できている。

 おそらく損傷などで箱の中に水が入ってしまっている場合は、箱の内容物として一緒に回収されてしまうだろうが、周りの水は大丈夫のようだ。

 キューちゃんにも、『アイテムボックス』スキルに宝箱を一つ回収してもらった。

『アイテムボックス』スキルでも同様に、周囲の水は回収されないようだ。

 やはり意識的に水に焦点を当てなければ、回収されないらしい。


 これなら問題なく沈んでいるお宝を回収できるし、俺がいないときもキューちゃんたちがサルベージ部隊としてどんどん回収してくれそうだ。

 まぁキューちゃんたちに許可を出すと、キューちゃんたちだけで全部回収してしまいそうなので、お宝回収の指示は出さないことにした。

 俺たちの楽しみがなくなっちゃうからね。

 できればみんなで潜りながら、楽しみつつお宝発見をしたいんだよね。



 俺は残り宝箱を回収した。

 キューちゃんたちは、壊れた宝箱に入っていた物や川底の砂の中に残っている物がないか探してくれることになった。


 

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