454.トマトを使った、特産品づくり。

 俺は引き続きスカイさんと商会幹部のサリイさんに、この街や周辺の産業について尋ねた。

 スカイさんはここで生まれ育っているので当然詳しいし、サリイさんはこの『サングの街』と南にあるマナゾン大河沿いの都市『アンシング市』で情報収集をしてくれていたのだ。


 ヘルシング伯爵領の資金不足を補うために、いい産業があれば提案したいと思っている。


 この『サングの街』は港町で、商人を中心に旅人が多いので経済状況は悪くないようだ。

 ただ独自の産業としては、やはり漁業が主体で川から取れる魚介類の販売が多い。

 取れすぎた魚介類は、干物にするのがほとんどで一部塩漬けなどの加工品もある。


 そういえば、『魚卵の塩漬け』は最高だった。

 俺の大好きな数の子そのものだったからね。

 マナゾン大河で獲れる『川ニシン』の卵らしい。

 ニシンが取れるなら、身の方は甘露煮にしたらすごく美味しいんだけど……。

 あゝ……『ニシンそば』が食べたいなぁ……。

 そう思ってスカイさんに訊いてみると、ニシンの甘露煮というものは無いようだ。

 普通に塩を振って焼いて食べるか、干物にするのが一般的らしい。


 ニシンの甘露煮を作ってみるかな……。


 あとは、魚を塩漬けにして発酵させて、そのエキスを濾した調味料『魚醤ぎょしょう』が特産品といえるだろう。いわゆる『ナンプラー』ってやつだ。

 日持ちもするし既に名産品になっているが、味が独特なためか取引量としては多くないようだ。


 俺を感動させてくれた『豆醤ずしょう』は、まだほとんど普及していないようだ。

 味が荒削りでかなり濃く、しょっぱくて使いにくいのかもしれない。

 醤油と言っていいと思うが、俺が思っている味ではなかった。

 醤油麹を手に入れることができたので、これから本格的に醤油を作ろうと思っていたが、ピグシード辺境伯領ではなくてヘルシング伯爵領の特産品にしもいいかもしれない。

 なにせこの街で醤油麹を手に入れることができなければ、作れない状態だったわけだからね。

『フェアリー商会』も、今後他の領に進出する場合には、その領の独自のものを活かした製品作りをしたいと思っていたから、ちょうどいいかもしれない。

 もうちょっと味のいいものを作って、食べ方を普及させれば絶対人気になると思うんだよね。

 肉に醤油をかけて焼くだけの『醤油焼肉』だけでも、めちゃめちゃ美味いからね。

 俺の好きなお弁当のおかずなのだ。


 あとは『サングの街』の特産品としては、やはりトマトだろう。

 種類が豊富で、美味しいのだ。

 ただトマトは日持ちしないので、加工品にするしかないと思う。

 『トマトケチャップ』を作ってもいいのだが、すでにピグシード辺境伯領の『フェアリー商会』で製造していて、ヘルシング伯爵領の特産品にするのは微妙な感じだ。

 あとトマトで作れるものといえば……トマトジュースかトマトジャムだが……なんとなくパッとしないな……。

 そうだ! トマトワインを作ろう!

 たしか……トマトでもワインが作れたはずだ。

 ぶどうのワインと同じように破砕、発酵、圧搾などの工程を経て、作れるはずなのだ。

 白ワインのような感じになって、すごく美味しいという評判を聞いたことがある。

 甘口の極上なトマト白ワインが作れるんじゃないだろうか!


 既に名物になっているエールビールにトマト果汁を入れた『レッドビール』は、ビアカクテルみたいなもんなので長期輸送には向かない。

 あくまでこの場所での特産品ということだが、トマトワインなら輸送して流通させられる!

 我ながら、これはナイスなアイディアだと思う。

 まぁ出来上がるワインの味次第ではあるけど……。


 トマトを栽培している人たちに、栽培面積を増やしてくれないか頼んでみよう。

 無理なら『フェアリー商会』で農園を作って、トマト栽培をやるしかないな。


 そういえば……この『サングの街』に属する街道沿いの荘園の村は、本来四つあったが今は二つになってしまっているとエレナさんが言っていた。

 二つを復活させて、ヘルシング家直営荘園にしてワイン製造までやってしまえば、トマトワインが大ヒットしたときにヘルシング家の大きな収入源となるはずだ。

 エレナさんのために、この方向で考えよう。

 無理なら『フェアリー商会』でやるが、できればヘルシング家の収入源にしてあげたいのだ。


 ピグシード辺境伯領と同じように、俺が全体的なプロデュースをしてあげて、いくらか収入を得るかたちにすればいいだろう。

 販売については、『フェアリー商会』が担当するかたちで利益を分け合う構造にしてもいい。

 トマトの生産からワインの製造までをヘルシング家、販売は『フェアリー商会』というかたちがいいかもしれない。

 実際のところ販売までやるのは大変だし、ワイン製造のところまでで十分な利益は出るはずだからね。


  二つの荘園があった場所を全てトマト農園にして、醸造場を作ってワイン作りをすれば、かなりの量が作れるはずだ。


 使うトマトによって出来上がるワインの味も変わるはずだし、トマトワインといってもいろんな種類が作れるかもしれない。

 なんかワクワクしてきた!

 やっぱりものづくりっていいなぁ!


 なんか『フェアリー商会』としても、トマト農園が持ちたくなってきたなぁ……。

 もちろんピグシード辺境伯領にある『フェアリー商会』の農園では、どこでもトマトを作っているが、この街にあるような甘いトマトはない。

 トマト専用の農園があったらいいかも!


 トマト好きの俺としては、胸躍る感じだ。

 そしてもっと美味しいトマトができないか、品種改良もしてみたい!

 本気になれば、『ワンダートレント』のレントンのスキルを使って、簡単に品種改良できちゃう感じなんだよね。

 一度やってみようと思いつつ、いまだに実現できていないからな。


 あとトマトは、冷静に考えるともっといろいろ活用法があった。

 トマト好きの血が騒ぎ、アイデアもどんどん湧き上がってきた。

 長期保存させるために、ドライトマトを作ればいいのだ!

 この街の甘いトマトなら、甘くて美味しいドライトマトができそうだ。

 お土産品に最適だ!

 甘味の少ないこの世界では、大人から子供まで絶対喜んでくれるはずだ。



 

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