453.イルカと、ご対面。

『舎弟ズ』たちは、俺と一緒にナビーが来ていないことに気がついて、テンションがだだ下がりになっている。

 ぶーたれている奴までいる。

 まったく失礼な奴らだ!

 まぁ気持ちは分からなくはないが……。


 ちなみにナビーは、ヘルシング伯爵領の各市町に出向いている。

 浮浪児たちの保護をするとともに、チンピラを撲滅しているはずだ。


『闇影の義人団』の他のメンバーは、みんな仕事に行っているようで、この屋敷にはいない。

 俺はスカイさんに、『イシード市』の移住者受け入れ準備が整ったことを告げて、移住する子供たちの準備に取り掛かってもらった。

 元々スカイさんと一緒に暮らしていた子供たちはここに残るが、他の子供たちは皆移住してくれるようだ。

 それから初代『舎弟ズ』十六人は、この町に残ってもらうことにした。

 『二代目舎弟ズ』六人と元街道の盗賊である『三代目舎弟ズ』二十六人は、『イシード市』に移ってもらおうと思っている。

『サングの街』でスカイさんが面倒を見てくれているように、『イシード市』でも『舎弟ズ』を教え導いてくれる人が必要だが、とりあえずエリンさんの母親のトルーディさんにお願いしようと思っている。

 母の愛的な優しさと厳しさで、指導してもらえるんじゃないだろうか。



 そんな段取りを終え、俺は『魚使い』のジョージたちを連れて港に行った。

 港の端のほうに行って、『川イルカ』のキューちゃんたちを呼んだのだ。


 すぐにキューちゃんとその仲間たちが、水面から顔を出した。

 ジョージは満面の笑みだ。

 やはりイルカが大好きなようだ。

 しかもそのイルカと念話で話ができるのだから、ジョージじゃなくてもニヤけちゃうよね。


 このイルカたちは、今後ジョージに協力してくれることになった。

 キューちゃんたちも、ジョージや『スピリット・グラウンドオクトバス』のオクティや、虫馬『サソリバギー』のスコピンが気に入ったようだ。


『イシード市』に、ジョージの夢であるイルカショーを実現するために水族館を作ろうと思っている。

 イルカたちは、きっと大活躍してくれることだろう。

 イルカを調教するというよりは、ジョージが調教されてしまいそうだが……。


 ジョージの希望通り、大河を満喫してもらうためにジョージたちにはしばらくこの『サングの街』にとどまってもらうことにした。


 やはり『魚使い』スキルを試すには、魚がいるところが一番だからね。


 ジョージに飛竜船を与え、自由に使ってもらうことにした。

 魚釣りをしたり、網での漁をしてみたり、水中に潜って魚と触れ合ったり、いろいろ楽しめるのではないだろうか。

 あと水族館で展示する魚なども確保できれば、最高だ。

 その点は、ジョージも考えているようだ。


 少し気になって尋ねてみたが、ジョージは泳いだことがないようだ。

 砂漠の村で生まれ育ったのだから、無理もない。

 ただ前世では泳ぎは得意だったようなので、その記憶があるから多分泳げるだろうとのことだ。

 まぁ『川イルカ』のキューちゃんたちがいるから大丈夫だろう。



 屋敷に戻ると、リリイとチャッピーが子供たちと楽しそうに遊んでいた。

 そして『フェアリーパン』の立ち上げ指導に来ている商会幹部のサリイさんも、一緒になって遊んでいる。

 子供が好きなようだ。

 特にリリイとチャッピーのことが大好きなようで、会うといつも楽しそうに遊んでいる。


 俺は、立ち上げ指導をしながら街の情報収集を行っていたサリイさんと、『闇影の義人団』のメンバーでこの屋敷の責任者のスカイさんと打ち合わせを行った。


 まずスカイさんに、正式に『フェアリーパン』の責任者と今後『ぽかぽか養護院 サング分院』の責任者になってもらうことにした。

 この屋敷は予定通り、『ぽかぽか養護院』にしようと思っている。

 ここに残る子供たちは元々スカイさんと一緒に暮らしていた子供たちだけなので、必ずしも養護院にする必要はなかったのだが、今後のことを考えて養護院にすることにした。

 将来的に、孤児ではないが貧しい家の子供たちを預かってあげたり、読み書きを教えてあげたりなどということも考えているのだ。

 子供でも大人でも希望者には、読み書きを教える『ぽかぽか塾』も併設するかたちになりそうだ。


 そして熟慮の結果、『フェアリーパン』だけでなく『フェアリー商会』もこの街に立ち上げることにした。

 その『フェアリー商会 サング支店』の総支店長もスカイさんにお願いすることにしたのだ。


 元々ヘルシング伯爵領には、『フェアリー商会』を大々的に進出させるつもりはなかった。

 だが、『正義の爪痕』によりほとんどの財産を失ってしまったこの領の財政を助けるため、協力することにしたのだ。

 それには資金源となる産業を育成したり、特産品を作ったりする必要がある。

 そうなるとやはり、『フェアリー商会』を立ち上げてしまった方が、何かとやりやすいからね。


 だがピグシード辺境伯領のときのように、大きな雇用を作る必要性はあまりないから、必要な事業だけに絞ろうと思っている。

 ピグシード辺境伯領のときはやむを得なかったけど、本当はなるべく手を広げないでコンパクトにやりたいのだ。


 もっとも、最終的にはサーヤとケニーとナビーに任せるつもりなので、普通に大規模な総合商会にしてしまいそうな気もするが……。


 それから『闇影の義人団』も、形だけでもリーダーがいた方がいいので、スカイさんにお願いすることにした。

 この件は、実は以前にも話していたことで、他のメンバーもそう希望していたのだ。


 以前のように悪政が敷かれることもないと思うので、あまり『闇影の義人団』としての活動はする必要がないと思うが、この街は港町でいろんな人の出入りがあるから、多少は活躍する必要があるかもしれない。

 今でも連絡の窓口はスカイさんになっていて、実質取りまとめているので、正式にリーダーというかたちにした方がいいと思ったのだ。

 

 スカイさんの負担が大きくなるが、商会の運営も『闇影の義人団』の他のメンバーが協力してくれるので大丈夫だろう。

 ただフィルさんは衛兵長だし、レオさんは『商人ギルド』のギルド長、ジェマさんはその受付嬢なので、商会の運営には表立っては協力しづらい立場である。

『闇影の義人団』の活動同様、影からの協力ということになるだろう。

 『アシアラ商会』の会頭のアシアさんは、『フェアリー商会』と協力してやれる立場なので大きな助けになってくれるはずだ。

 『アシアラ商会』は、食品販売が中心の商会なので、『フェアリー商会』でいうと食品販売事業の『フェアリー商店』とかぶることになる。

 したがって、この街では『フェアリー商店』を立ち上げずに、すべて『アシアラ商会』に卸して販売してもらおうと思っている。

 ウインウインの協力関係が築ける。

 イカ焼き屋台の店主のマックさんは、一番フリーに動ける立場なので、『フェアリー商会』に入ってくれないか頼んでみたが、彼は屋台を取り仕切る世話役の一人にもなっているので、フリーな状態がいいということで断られてしまった。

 確かにフリーな状態の方がいいと思うので、俺も無理には誘わなかった。

『フェアリー商会』に入らなくても、彼なら親身になって協力してくれるのわかってるからね。


 『舎弟ズ』たちも『フェアリー商会』で正式に雇用してあげようと思っているが、いろんな事業に割り振るというよりは、このまま『舎弟ズ』として活動させたい感じなんだよね。

 なんだかんだ言って、俺も『舎弟ズ』に愛着が湧いてきているらしい……。


 そこで『フェアリー商会 サング支店』の支店本部の直属の人員として、フリーにいろんなことをやってもらおうと思っている。

 炊き出しを行ったり、養護院の子供たちの面倒を見たり、『フェアリーパン』の手伝いをしたり、治安維持のために街の見回りをしたりと忙しく働いてもらう予定だ。

『フェアリー軽食』を立ち上げて、特産品のテスト販売を含めた屋台をやりたいと思っているので、その人材としても有望だ。

 マックさんに頼んで、仕込んでもらおうと思っている。


 俺としては、『舎弟ズ』に目をかけて優遇しているつもりだが……冷静に考えると、こき使っているだけのような気もしてきた……。

 俺は、絶対にブラックな商会の会頭にはなりたくないのだが……

 でもあいつらは、そんな忙しい状態が嬉しいようだからまぁいいか。

 休みをしっかり取らせてあげればいいだろう。

 あとは時々ナビーが褒めてあげたり、叱ってあげれば、それだけであいつらは満足するはずだ……。

  いや、やっぱりダメだ! ……変態育成が加速してしまう!

 ここは心を鬼にして、ナビーをあまり近づけないようにしよう。


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