443.虫馬、サソリバギー。

 各市町で子供たちを保護したり、移住のために連れ出すときに問題にならないように、ヘルシング伯爵が許可状を一筆したためてくれた。

 これでスムーズに、衛兵隊などともやりとりができるだろう。


 それから以前、『薬の博士』のアジトで保護した女性たちが百八人いて、そのうちの七十人は『ヘルシング伯爵領』出身で、尋問が終わって出身の市町に送り返してあげることになっていた。

 馬車で帰るとかなり時間がかかるので、飛竜船で送ってあげることにしていたが、ここ最近立て込んでいて、彼女たちは領城に滞在したままの状態になっていた。

 まぁ食事も与えられるし、街の見物もできてゆっくりしていたようなので、不満は出ていなかったようだが。

 この際、彼女たちも出身の市町に送り返してあげようと思う。

 このことも、ナビーにやってもらうことにした。

 そして彼女たちの中で希望者がいれば、『フェアリー商会』の人間として養護院で働いてもらったり、支店の立ち上げ準備をしてもらってもいいと思っている。

 ただ支店は、各市町に無理に出店しようとは思っていない。

 必要もないのに、事業拡大しようとは思っていないのだ。

 したがって、養護院しか作らない市町もあると思う。


 ただ……ナビーとサーヤとケニーという最強チームが、最近頻繁に打ち合わせをしていて、いろいろなことを取り仕切っているので、支店を出す準備も普通にしてしまいそうだけどね。

 各市町で『舎弟ズ』もできそうだし、炊き出しなどの活動資金もその市町で作れたほうがいいからね。

 それに今回送り届けてあげる女性たちが、働くことを希望してくれるなら人材も確保もできるわけだからね。


 ちなみに、保護していた女性たちのうち、三十八人は『アルテミナ公国』出身だった。

 彼女たちも、今度飛竜船でまとめて『アルテミナ公国』まで送ってあげようと思っている。

 ただサーヤの話によると、『アルテミナ公国』は政情不安なところがあるので、できればピグシード辺境伯領で暮らしたいという意向をみんな持っているようだ。

 ただ家族が心配なので、できれば家族を呼び寄せたいと思っているらしい。


 そういうことなら、俺としては願ったり叶ったりだ。

『イシード市』への移住者として、受け入れたいと思っている。


 『アルテミナ公国』出身で『フェアリー商会』の幹部となっているサリイさんに、家族を呼び寄せる手配をしてもらおうと思っている。

 サリイさんは、『アルテミナ公国』に知人が多く顔が広いので、なんとかしてくれるはずだ。

 本人が一度故郷に帰って、家族と話す必要がある場合もあると思うが、その辺の手配も含めてサリイさんに任せようと思っている。

 サリイさんは、ヘルシング伯爵領の『サングの街』で、『フェアリーパン』の立ち上げのための指導に当たってくれているが、幹部には転移の魔法道具での転移を解禁してあるので、サーヤとともに転移で移動できる。

 ピグシード辺境伯領の『マグネの街』にもすぐに戻れるので、両方こなしてくれると思う。






  ◇





 翌日の朝、ユーフェミア公爵とその長女のシャリアさん、第一王女で審問官であり今回の事態の査察官のクリスティアさんと護衛官のエマさんは、すぐに王都に向かうとことになった。

 本来であれば、もう少し詳しく尋問したりアジトの調査をしたいところだが、まずは第一報の報告をしに行くとのことだ。

 そして何よりもヘルシング家の存続を願い出るために、向かってくれるということだった。


 俺はちょうどいい機会なので、ユーフェミア公爵に元々渡そうと思っていた転移の魔法道具を渡した。

『ドワーフ』の族長から貰い、その孫のミネちゃんに改良してもらった『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』だ。


 そして、妖精族から特別に借りた魔法道具であることや機能の説明をした。

 腕時計型なので、腕にはめて使うということも、もちろん説明した。

 ベースの素材が『ドワーフ銀』と『金』のようで、意匠的にも優れている。

 結構おしゃれなアクセサリーとして、装備できるのだ。


『ドワーフ』のミネちゃんが持っているものが一号機、リリイが二号機、チャッピーが三号機、俺が持っているのが四号機、アンナ辺境伯経由でドロシーちゃんに貸しているのが五号機、ユーフェミア公爵に渡したのが六号機、であることも説明した。

 そして通信機能も付いているので、このメンバーにはいつでも通信することができるということも説明した。

 ちなみに、残りの七号機と八号機については、予定通り臨機応変に俺の仲間たちで使用している。





  ◇





 俺は『正義の爪痕』のメインのアジトに向かっている。

 目的は、秘密の隠し部屋を見つけるためだ。

『魚使い』のジョージ君とも、ゆっくり話をしたいと思っている。

 ジョージ君たちには、このアジトで待機してもらっていたのだ。



 俺は、ジョージ君に『十二人の使い人』という伝承と、『使い人』は狙われているという話をした。


 ジョージ君は、『使い人』が狙われているということよりも、『十二人の使い人』の伝承の中で、『魚使い』が十二人の中に入っていないサブキャラということにショックを受けて、ハイブリッド東北弁全開でヤサグレてしまった……。

 まぁ気持ちはわからないでもない……。

 イロモノ装備としか言いようがない武具を手に入れたり、何かと不憫な奴だ……。

 これは本当に弟のように可愛がるしかない……。


 ちなみに、伝承の弾き語りの中にも、『使い魔ファミリア』として、タコの『使い魔ファミリア』が登場していたが、ジョージ君の『使い魔』の『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティとは、別の生物のようだ。

 オクティの話からすると、突然『スピリット・グラウンドオクトパス』として覚醒したらしいからね。

 過去の記憶とか、引き継いでいる記憶とかは、今のところ無いらしい。

『魚使い』を助けなければならないという気持ちだけが、猛烈に沸き上がったようだ。

 ちなみに、オクティがなぜ中二病のようになっているのかについては……怖くて訊けていない。


 そして、もう一体の仲間である虫馬『サソリバギー』のスコピンは、伝承の中に登場していないということを知り、どんよりと落ち込んでいた……。

 ちなみに『サソリバギー』は、砂漠に多くいる虫馬のようだ。


 サイズ的には軽自動車くらいのサイズがあり、体高が低いので小さなF1カーのように見えなくもない。

 サソリの背の部分に、専用の鞍を取り付けて騎乗するのだが、その専用の鞍はまるでゴーカートやF1カーのコックピットのような感じになっている。

 椅子の形状になったボックス型のユニットを背中に固定する構造なのである。

 椅子が縦に二つセットされていて、二人乗りすることができるのだ。

 砂漠などの悪路でも、かなりの高速で移動ができる優秀な虫馬のようだ。

 二本の大きなハサミと毒針を持つ尻尾があり、戦闘力も結構高い虫馬なのだ。

 砂漠に近い国には、この『サソリバギー』に騎乗した騎馬隊を持つ国もあるそうだ。


 今度機会があったら、俺も是非スコピンに乗せてもらいたいと思っている。

 もし『サソリバギー』が他にも仲間にできたら、みんなでレースをしたら面白いかもしれない。

 ゴーカートみたいな感じで面白いかも!


 それからジョージ君は、俺のことを兄貴と呼び慕ってくれている。

 そして俺も、なにかと不憫なジョージ君を弟のように可愛がることに決めた。

 ジョージ君からは、ジョージと呼んでくれと言われたので、今後はジョージと親しみを込めて呼び捨てにすることにした。


 そして俺はジョージたちに、『使い人』の人たちを保護していることを伝え、俺の仲間になるようにお願いした。


 それに伴っていつも説明しているように、『絆』スキル、『共有スキル』、『念話』、大森林や仲間たちのことについて一通り説明した。

 ジョージは、違う世界からの転生者で、俺と同じ日本の出身ということまでわかっているので、彼に隠す必要もない。


 ジョージは少し驚いていたが、途中からは納得していたようだ。

 そして喜んで仲間になってくれた。

 彼も、転生前の記憶の話もできる頼れる兄貴ができて嬉しいと言ってくれていた。


 ということで、ジョージとオクティ、スコピンを俺の『心の仲間チーム』メンバーとして早速登録した。


 これによって、『サソリバギー』のスコピンと念話ができるようになった。

 今まではオクティが、スコピンの気持ちを代弁してくれていたのだ。

 オクティは霊獣であり、霊獣はいろんな生物とコミニケーションが取れるのだ。


 ジョージは、スコピンと念話で直接話ができることに驚いていた。

 スコピンも同様に嬉しそうに話していた。


 ちなみにスコピンは、話し方がすごく大人な感じで、一番まともな感じだった。


 (グリム様、我が主人のことをよろしくお願いいたします。主人と共にグリム様のお仲間に加えていただき、嬉しく思います)


 スコピンが挨拶してくれた。


 (ところで、君たちの『サソリバギー』という種族は、砂漠の方にしかいないのかい?)


 俺はカートレースを夢見て、思わず訊いてしまった。


 (はい、基本的には砂漠地帯に住む者が多いので、この近くにいる可能性は低いと思います)


 (そうか……残念だなぁ……。もし近くにいるなら、仲間に誘おうかと思ったんだけど……)


 (グリム様のお仲間になるのは、どの虫馬にも幸せなことです。皆喜んで仲間になるでしょう。今後同族を見つけましたら、すぐに勧誘いたします)


 スコピンはそう言って、頭を下げてくれた。

 見た目は、めっちゃいかついのに、結構律儀で丁寧な奴だ。



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