442.眷属希望、殺到。

 微妙な感じではあったが、キャロラインさんに対する仲間になる上での説明も無事に終わった。

 打ち合わせをしていた会議室に戻ると、まだみんな残っていた。


 改めてユーフェミア公爵たちの顔を見ると、少し後ろめたい気持ちになる。


 ユーフェミア公爵たちとは、深く交流させてもらっているのに、俺の『絆』登録メンバーではないので、まだ打ち明けていない。

 いつも思うが、心苦しい感じだ……。

 完全に信用できる人たちだし、そろそろ打ち明けてもいいような気もしているが……踏み切れないでいる。

 お願いすれば秘密は守ってくれると思うが、立場的に国王とかに質問されたときに嘘をつかせるわけにもいかないので、打ち明けないで済むうちは、そのままの方がいいと思っているのだ。


 そんな俺の気持ちをよそに、第一王女で審問官のクリスティアさん、護衛官のエマさん、セイバーン公爵家長女のシャリアさん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃん、ヘルシング伯爵の妹で『ヴァンパイアハンター』のエレナさんが俺に詰め寄ってきた。


「私たちの分の血は無いのかしら?」


 代表してクリスティアさんが、そんなことを訊いてきた。


 はて……?

 俺の血のことか……?


「あの……血とは……?」


「もちろん、あなたの血ですわ! この際……私も覚悟を決めました!」

「私もお供いたします!」

「私もですわ! ほんとに、何者ですの!」

「私もこんなに若くして嫁ぐとは思っていませんでした……ふふ」

「わ、私は……キャロラインが心配なだけで……それに強くなりたいし……。決してあなたのことが好きなわけではありません! ……好きなんかじゃありませんから……」


 クリスティアさん、エマさん、シャリアさん、ドロシーちゃん、エレナさんが顔を真っ赤にしながらそんなこと言っている……。


 はて……?

 これどうなってるわけ……?

 なんか……やばい予感しかしない……。

 俺にどうしろって言うのよ……


「だから、ダメだって言ってるでしょう! あれはグリムの血に特別な秘薬が入っていたからだし、変性したのも血に敏感な吸血鬼のキャロラインさんだったからって可能性が高いんだから。あなた達が飲んだって、眷属にはなれないわよ! それにもしそうなったとしたら、人族じゃなくなっちゃうかもしれないんだから!だからこんな無謀な方法はやめなさいって。正攻法でいくべきよ! 私に任せておけば、そのうちなんとかするから!」


 ニアが俺の前に飛んできて、詰め寄るクリスティアさんたちを両手を広げながら止めてくれた。

 止めてくれたのはいいのだが……なんか変なことを言っている気がする……。

 これ絶対に、いつも安請け合いでしょう……大丈夫なのか……?


「ニ、ニア様がそう言うなら……」

「私も従います」

「ニア様、絶対ですよ!」

「まぁ私はまだ若いですから、待ってますけど……」

「私はもう二十八です。そんなには待てませんが……ニア様を信じます」


 俺としては微妙な感じだが……とりあえずおさまってくれたようだ。


 ここはあえて、関わらないようにしよう……。

 そして俺の頭の中で、事態を認識しているはずのナビーも全く反応してくれないし……。

 相変わらず、この事態を楽しんでいるに違いない……。


 ちなみにリリイとチャッピーと『ドワーフ』のミネちゃんもみんなと同じように、俺の血を飲みたいと言っていたようだが、ニアに諭されたらしく、この訴えには混ざらなかった。

 さっきから、俺に抱きついたりして戯れている。

 この三人、とっても可愛いのだ。



 俺の血を飲みたいという変な訴えが終了したところで、俺はヘルシング伯爵とエレナさんに提案というかお願いをした。


 それは、ピグシード辺境伯領への移住者募集についてだ。

 もうすでに国王の許可を得て、王国全土にピグシード辺境伯領への移住者の募集の情報が流れているはずだが、このヘルシング伯爵領では、混乱していたので全く手付かずだったはずだ。


 そこで俺は、ヘルシング伯爵領内の浮浪児や貧しい人たちを移住者として連れて行く許可を求めた。


 王国内は基本的に移動が自由なので、違う領に移住しても基本的には問題ないらしい。

 だから本来許可を得る必要は無いのだが、一応正式に話しておきたかったのだ。

 自分たちの領民を連れていかれるのは、面白くないと思うんだよね。


「わかりました。本来的には、そのような者たちはこのヘルシング伯爵領で救うべき者たちですが、今の我々には引き止める資格はありません、その者たちが希望するのであれば、どうぞお連れください」


 ヘルシング伯爵は愁いを帯びた表情で、了承してくれた。


「ありがとうございます。まず浮浪児となっている子供たちを保護して、希望する子たちは移住者として連れて行きたいと思います。ただ希望しない子たちについては、お許しいただけるなら養護院を作って、その市町で保護したいと思います」


 俺はお礼を言いつつ、もう一つ許可を求めた。

 まぁ養護院の設立も、領の財政的な支援などを求めないのであれば、許可を得る必要は無いようなのだが。


 あと、俺としても子供たちの意思を無視して、無理矢理移住させる気は無い。

 身寄りがなくても、家族の思い出がある場所から離れたくないというような子供たちについては、無理に連れて行くつもりはないのだ。

 その場合は、『ぽかぽか養護院』を作って面倒を見ようと思っていた。


「養護院をあなたが作るのですか?」


 エレナさんが少し驚きながら、訪ねてきた。


「はい。ピグシード辺境伯領の『マグネの街』では養護院を一つ持っていますし、『領都』と『ナンネの街』では、領立養護院の運営に協力させていただいてます」


 俺がそう答えると、エレナさんはさらに驚いた表情になっていた。


「そ、そうなんですか……。もともと各市町にあった孤児院は、どこも切り捨てられ閉鎖されている状況です。身寄りのない子供たちを救うのは、本来、我々がすべきことです……」


 エレナさんが、苦々しげに唇をかんだ。


「もちろん、領として孤児院を再建されるのであれば、私たちが養護院を作ろうとは思いません。ただこれから各市町の立て直しも大変だと思います。整備して受け入れ体制が整うまでの臨時的なものでもいいのです。困っている子供たちを、今すぐ助けたいのです」


「わかりました。エレナ、ここはグリムさんにお任せしよう。確かに我々のやることだが、我々の気持ちよりも、子供たちの方が最優先だよ」


 ヘルシング伯爵が、エレナさんを諭すように優しく言った。


「わかりました。兄上」


「それから……グリムさん、ユーフェミア様からも伺いましたが、商会を経営なさっているとのこと……無理にお願いはできませんが、もし我が領内に商会の支店を出して下さるなら、全面的に支援いたします。これは今後領主になるエレナの仕事になりますが」


 ヘルシング伯爵がそんな申し出をしてくれた。


「もちろんです。ヘルシング家の存続が許され、私が領主になるのであれば、グリムさんには全面的に協力いたします。できれば……我が領の運営にも協力いただけると……。決してあなたを好きなわけではありません! 好きだなんて全然思ってませんから!」


 エレナさんは、ヘルシング伯爵の言葉におおきく頷き、協力を申し出てくれたのだが……なぜか最後にはキレ気味になっていた……。

 そんなに心配しなくても……俺のことを好きだなんて思っていないのに……。


(朴念仁とは、マスターのためにある言葉ですね……)


 え……ナビーが突然頭の中でツッコミを入れた。

 どういうこと……?

 朴念仁って……頭が固いってこと……わからずやってこと……意味分かんないんですけど……。


 あれれ……ナビーは一方的にツッコミを入れた後は、完全にスルーしている……トホホ。

 最近のナビーさん、意図的に俺を放置プレイするんだよね……。

 まぁそんなことはどうでもいいが……。


「ありがとうございます。商会の事業はどの程度進出するか分かりませんが、先程の打ち合わせでも出たように、この領で収益源になるような名産品などを、私なりに考えてみたいと思います」


 俺はそう答えて、改めて商会を出店する際には協力をお願いした。



 ということで、移住者募集も問題なく受け入れてもらえたので、まずは各市町を巡って浮浪児になっている子供たちを救いたいと思っている。

 あの『サングの街』の浮浪児だった子たちと同じような境遇の子たちが、各市町に大勢いるはずだからね。


 浮浪児たちの保護は、『サングの街』の時と同様にナビーが担当してくれることになった。

 ナビーが各市町を訪れて、養護院にするための大きな物件を購入し、浮浪児たちを保護する段取りだ。

 そしてナビーは、その過程で絡んでくるだろうゴロツキたちをも一掃するつもりのようだ。

 重罪を犯した者などは衛兵に突き出し、更生可能と思われる者たちは、また更生させるつもりらしい。


 ということは……各市町に『舎弟ズ』の支部ができるということだろうか……。

 そしてナビーに叱られたいという変態が、どんどん増えていってしまうのだろうか……。

 一抹の不安を覚えるが……考えたら負けだなぁ……。


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