440.新種族、誕生。
俺はキャロラインさんの肩を抱き、血の入った容器を口元に近づけた。
キャロラインさんは、ゴクリと唾を飲み込み、口をつけた。
そして一気に飲み干してしまった。
「う、うう……あ、ああ……ぐうう……」
え! 突然キャロラインさんが苦しみ出した!
どうして……
……なに!
キャロラインさんの全身から、赤黒い靄のようなものが噴出した。
そして全身を包み込んで、黒い繭のようなものになってしまった。
俺はキャロラインさんの肩を抱いていたのだが、靄がキャロラインさんの全身を包んだときに、宙に浮いてしまい、今は横たわった状態で地面に降りている。
一体何が起きているのか……さっぱりわからない……。
この繭のようなものを破壊すべきだろうか……。
だが繭はすぐに光り出した。
そして弾けるように、消し飛んだ!
なんだ……なんとなく……ニアたちがクラスチェンジするときに似ている気がする……。
横たわった状態になっていたキャロラインさんが、起き上がった。
もともと綺麗だったキャロラインさんが、より綺麗に光り輝いているように感じる。
金髪も白い肌も薄っすら光っているようにも見える。
なにか……神々しさまであるような感じだ。
「キャロライン!」
「大丈夫?」
親友のエレナさんとボニーさんが声をかける。
「え、ええ……大丈夫よ。なにか……体が軽い……そして頭もすっきりとしている感じ……。それでいて全身からは、力が漲るのを感じる。これはいったい……」
キャロラインさんは、先ほどまでとはうってかわって力強い言葉を発した。
俺はすぐに『波動鑑定』をかけてみる……
え! ……なんだ!?
『種族』が変わっている!
前は『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』だったが、今は『
まるでクラスチェンジしたかのような感じだが、どうも全く別の『種族』になったようだ。
そして…………
なに!
『状態』が『グリムの眷属』となっている……なにそれ! どういうこと!?
————新しい種族『
おお! 突然頭の中に声が響いた。
これは……久しぶりの天声だ!
それはいいけど、言ってる意味がよくわからない……新しい種族が創造されたの? ……今?
その主になりますかって? ……なにそれ!?
急にそんなこと聞かれても困るんだけど……
困った時のナビー頼みだ、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに相談しよう!
(マスター、この事態は私の想像を超えていますので、流れに任せるしかないパターンだと思います)
なんか……ナビーがあきらめムードだ……。
————『
また、天声が頭の中に響いた。
今回もまた、俺の意思確認をまともにせずに決まっちゃってるんですけど……。
なんなのよ!
だったら聞かないでほしいんですけど……。
ナビーは、このことを予見していたのかもしれない。
まぁいつものように、身を任せるしかない感じだな……。
ほんとに……この天声というシステムはどうなってるんだろう?
毎回思うけど、一体何なんだ!
気まぐれすぎるし……意思確認する感じで訊いてくるけど、完全に一方的だし……。
本当に、『天声は忘れた頃にやってくれる』って感じだよ。天災と同じか!
やっぱ考えたら負けだなぁ……無視!
(マスター、想像の域を出ませんが……キャロラインさんがマスターの血を飲んだことで、何かの変化を起こし新しい種族『
混乱している俺を見かねて、ナビーが見解を述べてくれた。
やはり俺の血が影響しちゃったわけ……普通の血にしか見えないけど……。
もしそうだとしたら……予定通り吸血鬼一歩手前の『適応体』状態の人たちに俺の血を飲ませれば、元の状態に戻せるかもしれない……。
いや待てよ……もしかしたら、その人たちも人間じゃない別の種族に変わっちゃうかもしれない……。
……ダメだ。
やっぱり飲ませられない。
今の状態を直してあげるつもりが、人族以外の種族にしてしまったら本末転倒だ。
とりあえず俺の血を飲ませるのは保留にしておこう……。
やはり吸血鬼の真祖の血統の者を探して、情報を入手するしかないかもしれない。
(これも想像でしかありませんが、吸血鬼は人の血を飲むことで活動エネルギーを得ていることから、血に対して敏感な体質を持っていると思われます。それも影響して変性したのかもしれません。まだ吸血鬼になっていない者たちであれば、マスターの血を飲んでも変性しない可能性もあります)
なるほど……これまたナビーの鋭い指摘だ。
俺の血だけじゃなくて、吸血鬼そのものの体質も影響した可能性があるわけか……。
だけど……確証が持てないから、やはり俺の血を飲ませるのはやめておこう。
違う種族になっちゃったら、取り返しがつかないからね。
まぁ今焦って結論を出す必要もないから、ゆっくり考えることにしよう。
それにしても……新しい種族ができちゃって、その種族の主になっちゃうとは……。
もう『主』はお腹いっぱいなんですけど……大森林すなわち『魔域』の主だし、もちろん『霊域』の主でもあるし、いくつものダンジョンのマスターだし、今度は種族の主って何なのよ!
まぁ……種族の主って言っても、今のところキャロラインさん一人だけだけどね。
俺は、改めてキャロラインさんを『波動鑑定』してみることにした。
『種族』の『
すると……種族の特徴が表示された。
『吸血鬼が変性して発生した新しい種族。吸血鬼の闇の属性が浄化され、聖なる属性になった種族。系統としては聖獣に近い。吸血鬼の特徴である超回復能力と高速移動能力は保持したまま、変性により弱点が克服されている。太陽光で焼かれることはなく、むしろ活動のエネルギー源となる。銀やドワーフ銀は弱点にならず、むしろそれらに類似した性質を身体に帯びている。『ヴァンパイアハンター』と同様に、吸血鬼に対して特効を持つ身体になっている。
特殊なアンデッドという存在であった吸血鬼が、聖なる属性を持つという更に特異な状態になった種族。
吸血する必要はなく、定期的に太陽光を全身に浴びることで、活動エネルギーが補給される』
という凄い内容が表示されている。
なんか……めっちゃ凄い種族になってるんですけど……。
吸血鬼の良さは維持しながら、弱点を克服している。
そして吸血鬼に特効の体質まで持っている。
まるで『吸血鬼 ヴァンパイア』と『ヴァンパイアハンター』を足したような種族だ。
吸血鬼という種族の上位互換のような種族とも言えるかもしれない……。
ドワーフ銀によって仮死状態にされることもないし、太陽光で焼かれることもない。
普通に考えたら無敵っぽいなぁ……。
この種族を倒そうと思ったら、やはり灰も残らないほど焼き尽くすしかないんじゃないだろうか……。
この種族の特性なら、キャロラインさんが『ヴァンパイアハンター』を続けようと思ったら、続けられそうだ。
というか……めっちゃ強い『ヴァンパイアハンター』になりそうだ。
(マスター、キャロラインさんと相談及び検証の上、種族として特に問題がないようであれば、保護している『正義の爪痕』に無理矢理『吸血鬼 ヴァンパイア』にされた者たちを、『聖血鬼』にしてあげるべきと考えます。彼らは、もはや人間に戻ることができず吸血鬼として生きるしかないのです。マスターの血の力で『聖血鬼』にしてあげれば強い種族になれますし、より人間に近いかたちで生活することができます)
なるほど……それはいいかもしれないなぁ……。
提案してみて希望するようなら、俺の血を飲ませてあげて『聖血鬼』にしてあげよう。
無敵の『聖血鬼』軍団まで誕生しそうで、ちょっと怖いが……。
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