425.後天的覚醒、転生者。
ジョージ君に、今までの経緯を尋ねたが、彼の可哀想な境遇が関係しているようだ。
ジョージ君によると……
彼は、北にある大砂漠地帯の入口辺りにある四十人ぐらいの小さな村に住んでいたようだ。
『砂漠の民』と呼ばれる人たちのようで、いくつもの小さな集団で村を作って、点在して生活しているらしい。
どこの国にも属していないが、『砂漠の民』同士は各村で協力しあって生きているらしい。
訪れる旅人との交易などを収入源としているようだが、かなり貧しい暮らしをしていたようだ。
砂漠地帯全体が、いわば不可侵領域のようなかたちになっているのだろう。
目立った資源もなく、砂漠特有の魔物などが突然出現したりして危険なことから、誰も領地として手に入れようと思うことはないようだ。
十四歳のとき……つまり昨年に、村が魔物に襲われて、ご両親は亡くなったようだ。
生き残った村人が十数人で、その人たちと一緒に細々と生きていたらしい。
彼自身も、魔物の襲撃のときに頭を打って、生死の境をさまよったとのことだ。
その後しばらくして、『魚使い』スキルが発現したようだ。
そしてスキルを使ってみようと、魚のいる大きな川のある地方に旅立ったところを運悪く『正義の爪痕』の構成員に見つかり、捕まってしまったとのことだ。
俺は『後天的覚醒転生者』という『称号』が気になり、その点も尋ねてみた。
「実は……悪いんだけど『鑑定』させてもらったら、君の『称号』に『後天的覚醒転生者』というのがあったけど……。もしかして、前世の記憶があるんじゃないのかい? しかも異世界の?」
俺がそう言うと、彼は驚きの表情を見せた。
「なしてそのことを!? こりゃ、まいったなぁ……。どうすっかなぁ……言っちゃうかなぁ……でもなぁ……わがんねえべ……言っでもわかんねぇべぇ……」
なぜかジョージ君は、突然訛り出した。
なんとなく……北関東というか……東北というか……
まぁしょうがない。
ここは腹を割って話すか……。
どっちみち『使い人』スキルを持っている彼を保護する必要があるし、俺が『転移者』ということを話そう。
ニアたち初期メンバー以外は、あまり知らないことだが……まぁ同じ世界から来ている可能性があるし、話してもいいだろう。
「実は……俺は『転移者』なんだ。こことは違う世界の日本というところから、突然転移してこの世界に来てしまったんだよ」
俺がそう打ち明けると……
「え!? ……ほんとが!? ほんどに日本がら来だのが!? こりゃ……まいったなぁ……。俺も日本人だったんだ! いやー日本の話がでぎる人に会うどは……。兄貴って呼んでもいいが? 」
涙ぐみながら、ジョージ君はまくし立てた。
かなり感動しているようだ。
そして隣にいた『 スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティは、俺の話とジョージ君の反応に驚いてあたふたしながら、八本足をうねらせている。
「君も前世は、日本人だったのかい?」
「んだ! 日本だ! 親が転勤族だったから、東北地方と北関東を一通り回って育ったようなもんだ。東北と北関東のなまりが、全て混ざって、自分でもわげわがんねえ状態なんだ。興奮して、昔のごどを考えっどそのハイブリッド東北弁が出ちゃうんだ! グリム兄貴は、どごの出身だ?」
ジョージ君は、泣きながらそう説明してくれた。
彼の訛りと、なぜ突然訛り出したかがわかったが……。
それにしても、“ハイブリット東北弁”って何よ!? ……まぁいいけどさ……。
「俺は……子供の頃は山形で……大人になってからは、若い頃は東京で、それ以降は静岡にいたみたいだ。ただあまり詳しいことは、思い出せないんだよね。特に人に関することはね……」
俺はそう言って、実は一部記憶喪失であることを説明した。
そして、四十五歳のおじさんだったが、突然若返ったことも打ち明けた。
なんか……オレもそうだが、彼もすっかり打ち解けてくれたみたいだ。
やはり同じ故郷というか、同じ世界の人と会えるのは嬉しい。
それに彼の『ハイブリッド東北弁』というごちゃ混ぜになって訳わからない訛りは、俺にはなんとも懐かしく心地良い言葉なのだ。
お互い一気に親しみが湧き、盛り上がってしまった。
そして陸ダコの霊獣オクティは、少しヤキモチを焼いているような感じで、時々ブツブツ言いながら俺を睨んでいる……。
ということで、お互いの秘密を打ち明けたところで、もう一度詳しく訊いてみたところ……
ジョージ君は、魔物に襲われて頭を打って生死をさまよったときに、その衝撃のためか前世の記憶を取り戻したようだ。
自分が、違う世界から生まれ変わった転生者だということが、わかったらしい。
『称号』についていた『後天的覚醒転生者』というのは、後になって転生前の記憶を取り戻したからのようだ。
俺の予想だが、多分生まれた時点ですでに前世の記憶……異世界の記憶を持っている状態を『先天的覚醒転生者』というのだろう。
異世界転生もののマンガなんかでよくある赤ちゃんの時から、転生前の記憶を持っているというのがこの状態だろう。
それからしばらくして、ジョージ君は前世で水族館の飼育員の仕事をしていたことを思い出し、『魚を飼いたい』、夢だった『イルカショーをやりたい』ということを毎日考えていたら、突然『魚使い』スキルが発現したらしい。
彼は前世では、十九歳の若さで亡くなったようだ。
高校を出て十八歳で水族館に就職して、イルカショーのお兄さんを目指して頑張っていたらしい。
だが、水族館の掃除中に滑って転んで頭を打って亡くなったという儚い人生だったようだ。
そのため……前世の記憶を思い出してからは、『イルカショーのお兄さんになる』という夢が叶えられなかったことをずっと考えていたらしい。
そして『魚使い』スキルが発現しても、そのスキルの使い方もわからないし、そもそも砂漠の小さな村では、魚は住んでいなく……スキルを使うも何もなかったようだ。
ただ突然そこに、『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティが現れて、
オクティは、棲息領域の森の水辺で普通の陸ダコとして暮らしていたようだが、突然、なぜか『魚使い』を見つけて助けなければならないという思いが湧き上がり、感覚でジョージ君を探し当てたらしい。
この点は、『虫使い』のロネちゃんの使い魔まである虫馬の『ギガボール』のだん吉に似ている。
陸ダコは珍しい動物だが普通の生物で、森の水辺などで陸上生活をするタコのようだ。
オクティは、『魚使い』を探さなければという思いに目覚めると同時に、何かの光のようなものに打たれて霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』として覚醒したようだ。
そしてジョージ君を見つけ出し、『魚使い』のスキルを使ってみるために、魚のいる水辺のあるところに旅に出たとのことだ。
残っていた村の人たちに別れを告げ、サソリ型の虫馬『サソリバギー』のスコピンを仲間にして、旅をしていたところ、偶然『正義の爪痕』の構成員たちに捕まってしまったそうだ。
運悪く『鑑定』ができる構成員がいて、スキルのことを知られてしまったようだ。
ただ話を聞く限り……どうも話をする陸ダコが悪目立ちしてしまって、『鑑定』されてしまった感じでもある……。
ジョージ君が捕まった時には、オクティはたまたま食べ物の調達に出ていて不在だったために、難を逃れたようだ。
その後必死で行方を追って、ここまでたどり着いたらしい。
中二病を患っている変な陸ダコだが、なかなかに愛情と根性もった素晴らしいパートナーのようだ……。
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