406.カッコ悪い、武具。

『闇影の義人団』の装備は、『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナが作ってくれた『ビーシリーズ』の装備と『アラクネロード』のケニーが作ってくれたローブに決まった。


 ニアからのプレゼントであるため、『義人団』のメンバーには、拒否権なんてなかったわけだ……。


 武器については、元衛兵のスカイさんは短剣『ビーダガー』を選び、『商人ギルド』の受付嬢のジェマさんはなぜか格闘武器である『ビーニードル』を選んでいた。

 ジェマさんは、もちろん戦闘要員ではないのだが……多少の体術の心得があるということで選んだようだ。

『商人ギルド』のギルド長に復帰したレオさんは槍の『ビーランス』、イカ焼き屋台の店主マックさんは斧の『ビーアックス』、『アシアラ商会』の会頭のアシアさんは短剣『ビーダガー』、衛兵長に復帰するフィルさんは長柄斧『ビーロングアックス』を選んだようだ。


 あと全員に『舎弟ズ』に配布したのと同じ『竹光刀 脇小太刀』を渡した。

 顕現状態の『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーが、早速『魔竹の刺又さすまた』を改良してくれた。

 折りたたみ式でコンパクトになる『魔竹の刺又さすまた 折りたたみ式』を完成させたので、それも各自に配布した。

『舎弟ズ』にも配ってあげた。

 竹光刀と同じくらい短くなったので、かなりコンパクトになったと思う。



 ちなみにナーナは、『魔竹』を使った装備も一式開発していた。

 安く販売するために、『下級イージー』の『階級』にしたかったらしいが、『中級ミドル』になってしまったようだ。


 それはいいのだが……この装備も独特すぎる……。

 これもナーナが悪ノリして作ってしまった渾身の作のようだ……。


 まず軽鎧だが、『魔竹アーマー』という『名称』になっている。

 上半身は剣道の胴のような形状で竹を編み込んだものになっていて、ある意味『竹籠』を着ているような感じになっている。

 ナーナには言えないが、冷静に見ると……かなり……かっこ悪い。

 ただ『魔竹』の色が赤黒いお陰で、パッと見は、それほど悪くない感じだ。

 なんとか誤魔化せている感じなのだ。

 小手とスネ当ては、『魔竹』をちょうどいい形状に裁断して加工してあり、それなりにいい感じにできている。

 腰の部分も剣道のたれのような感じに、『魔竹』を編み込んだパーツが下げられているのだが……竹のスダレというか……俺的には『ざるそば』の下にひいてあるやつにしか見えない……。

 これも……はっきり言って……めっちゃかっこ悪いんですけど……。


 そして『魔竹の面』という『名称』のヘルムは、深型の目の荒いザルを被っている感じだ……正面から見ると剣道の面に見えなくもない……いや……大分遠いな……。

 形状的には……虚無僧が被っている深編笠に見えなくもないが……隙間が大き過ぎて、あの渋さは全く出せていない……残念。

 虚無僧のスタイルって、俺的には中々渋くてかっこいいと思うんだよね。

 そうだ! 虚無僧スタイルの武具を作ってみるかなぁ……。

『虚無僧アーマー』とかいいかもしれない。

 武器は尺八がいいな!

 棍棒としての打撃攻撃と音波攻撃ができたら面白いかもしれない。

 そうだ! 吹き矢機能も追加しよう!

 やばい……なんか本格的に作りたくなってきた!

 異世界の人に売れるかはわからないが、今度検討してみよう!


 防具は丸盾のようだ。

『魔竹の丸盾』という『名称』だが……見た目は……まんまザルだ!

 もう竹ザルにしか見えない……収穫した野菜とかをのせて並べたい感じだよ……トホホ。

 まぁこれも赤黒い色が誤魔化してくれているから、俺以外の人にはそれほどかっこ悪くは見えないかもしれないけどね。


 武器は『魔竹の竹刀しない』を作ったようだ。

『魔竹』のパーツを四つ合わせてあり、剣先と途中の結びと柄を蛇魔物の皮で作ってあるらしい。

 これの完成度は高い。俺が知っている剣道の竹刀とそっくりにできている。


 他にも『魔竹の竹槍』『魔竹の棍棒』『魔竹の長竿』という武器を作っていた。

 竹槍と棍棒はわかるが、長竿は……ただの『物干し竿』にしか見えない……。

 一応コンセプトとしては、敵を近づかせないで中距離攻撃する武器とのことだ。

 取り回しも悪いし、使う場面も限定される気がする……完璧なロマン武器と言えるだろう。


 ナーナには申し訳ないが……この『魔竹シリーズ』……あまり売れる気がしない……。


  『中級』ということは、それなりの値段にしなきゃいけないから……買わないんじゃないかなぁ……。

『下級』で安くできるなら、お金のない駆け出し冒険者には売れるだろうけど……。


 おそらくだけど……『魔竹』という良い素材を使っていることと、ナーナが手の込んだ加工をしたことで『中級』になってしまったのだろう。



 それにしても…… ナーナはどうして、このいかにも剣道スタイルの装備を作ったのだろうか……。

 やはり『ライジングカープ』のキンちゃんの『ランダムチャンネル』で得た情報を基にしているのだろうか……。

 一応、ナーナに確認してみると……


「英雄譚の『魔法機械帝国と九人の勇者』に出てくる『斬撃の勇者』という剣を使う勇者の初期装備を参考にしました。一度作ってみたかったんですよね」


 ナーナは、そう言いながら満足そうな笑みを浮かべた。


「や、やっぱりそうなの! そうじゃないかと思ったのよね!」


 ニアが嬉しそうに飛び回りながら言った。

 さすが本の虫のニアさんは、知っていたようだ。


 『魔法機械帝国と九人の勇者』の話は、今まで何度か出ている。

 俺が使っている『魔盾 千手盾』は、英雄譚の完全版のみに記載されている情報だが『守りの勇者』が使っていた装備ということだった。

 『斬撃の勇者』の初期装備が、剣道の道具にそっくりというのは……おそらく俺と同じように異世界から来た転移者か転生者ではないだろうか……。

 俺の勝手な想像だが……なんとなく剣道部で部活をしているときに、異世界に召喚された的な……異世界召喚青春ストーリーっぽい気が……まぁそんなことはどうでもいいが。


 今回の悪ノリロマン武器のネタ元は、キンちゃんではなかったようだ……。

 濡れ衣だった……ごめんキンちゃん!


 今回の剣道部装備はともかく、『魔竹』自体はいい素材だし、ダークな感じの赤黒い色を活かして意匠を渋いものとか、かっこいい感じにすれば、かなりいい武具が作れるのではないだろうか。

 暗黒騎士みたいなかっこいいものも作れる気がする……。

 和風で暗黒武士みたいなデザインを考えてみるのもいいかも……。



 装備の確認が終わって、俺はスカイさんたちと今後のことを少し打ち合わせした。


 今保護している子供たちは基本的に、これから復興する予定のピグシード辺境伯領の『イシード市』に移民として、移ってもらう予定だということを改めて話した。


 ただ強制するつもりはないので、ここに残りたいという子供たちについては、スカイさんたちに引き続き世話を頼みたいという話もした。

 スカイさんと元々一緒に住んでいた子供たちは残りたいと言うだろうし、新たに保護した子供たちも何人かは残りたいという可能性はあるからね。


 スカイさんたちにも、一応『イシード市』への移民を進めてみた。

 だが、みんな仕事も持っているし、当面はこの街で頑張るという返事だった。

『舎弟ズ』については、本人たちの希望に任せようと思っているが、残る場合は引き続き面倒をみてほしいとスカイさんに改めてお願いした。

 スカイさんは、苦笑いをしていた……。


 移民できるのは、『イシード市』で受け入れ体制が整ってからになるので、もう少し後になる。

 しばらくは、この状態が続くことになるだろう。


 それから俺が購入したメイン通りに面した店舗物件も、自由に使ってもらいたいという話をした。

 なにかやりたい商売がないか尋ねてみたが、みんなすぐには思い浮かばないようだ。


 そこで俺は一例として、パン屋さんを提案してみた。

 パン屋さんなら、子供たちもパン作りを手伝ったりできて、みんなで一緒に運営できる気がしたんだよね

 そしてパンの販売なら、年嵩の子供たちが接客できるのではないかと思ったのだ。

 場合によっては、一画に別コーナーを作って、デイジーちゃんのお花も販売してもいいだろうと思っている。


 俺のそんな提案に、みんな賛成してくれた。

 一番の決め手は、子供たちと一緒にできそうだということだったようだ。

 スカイさんが、お店を見てくれることになった。

 当然屋敷の子供たちの面倒も見なければいけないが、そこは『舎弟ズ』がメインになってがんばってもらう予定だ。

 もちろん『義人団』の他のメンバーも、交代でフォローしてくれるとのことだ。


『フェアリーパン』の『サング支店』ということにして、『フェアリーパン』のパン作りのノウハウを提供しようと思っている。


 そういう話をしたら、当面パン屋さんだけでもいいので、『フェアリー商会』として正式にこの街の『商人ギルド』のメンバーに入ってもらいたいとギルド長のレオさんと、受付嬢のジェマさんから依頼された。


 俺としては『フェアリー商会』を、この街で大々的にやる予定はないので、商会として届け出る必要はないとも考えていたが、無碍に断る理由もないので了承した。

 手続きは、すべてジェマさんの方でやってくれるとのことだった。


 ということで、一応スカイさんや手伝ってくれる子供たちを『フェアリー商会』の職員にすることになった。

 場所だけ提供して自由にやってもらおうかとも思ったが、職員にして安定した給料を払ってあげた方がいいだろうと判断した。

 この街にだって既存のパン屋さんはあるわけだから、利益がたくさん出るかは分からないからね。

 まぁ今までの感じからすると、大ヒットするとは思うけどね……。


 今いる子供たちの面倒を見るための運営費は、もともと俺が払おうと思っていたから無理にパン屋さんで儲けてもらう必要はない。

 楽しんでやってもらえればいいのだが、どうせやるなら、ちゃんと利益が出た方が楽しいだろうと思う。


 あと、子供たちの移民が落ち着いたら、この『サング屋敷』を『ぽかぽか養護院』の『サング舎』か『サング分院』という名前にして、正式に『フェアリー商会』傘下の養護院として運営してもいいかもしれない。

 地域の子供たちに、読み書きも教えてあげたいしね。




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