405.シースルーな、軽鎧。
『植物使い』のスキルが発現した花売りの少女デイジーちゃんについては、他の『使い人』の子たちと同じように大森林で特訓して、自分を守る力をつけてあげるということで話がまとまった。
そしてこの街の警戒を強化するために、いつものようにスライムたちを配置することも決めた。
あとはここにいる『闇影の義人団』のメンバーを強化しておきたいところだが……みんな表の仕事もあるし、迷宮とかに連れて行くわけにもいかない。
とりあえずは、装備を強化するかたちで考えようと思っている。
悪徳商人から盗んで貧しい人に配るという“義賊”の活動を止め、他人のために尽くすという“義人”の活動をすることにし、チーム名も変更したことだし、ユニホーム的な装備があってもいいと思うんだよね。
『舎弟ズ』ですら、ユニフォーム装備があるからね。
俺のそんな考えを見透かしたかのように、ニアが言った。
「『義人団』のみんなはね……本当はレベル上げとかしたいとこだけど、仕事もあってそういうわけにもいかないだろうから……とりあえず装備を揃えるわ。もうすぐ着くと思うから楽しみにしてて!」
ニアがそう話したドンピシャのタイミングで、『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナが現れた。
『家馬車』のほうに、顕現してくれたようだ。
そしてどうもニアが言っていた装備というのは、ナーナが作ってくれたらしい。
この前の迷宮捜索の時に蜂魔物を大量にゲットしたので、ナーナにも渡して自由に武具を作ってみてほしいと言っておいた。
蜂魔物の素材はすごく優秀ということだったので、『フェアリー武具』のオリジナル商品の新シリーズで『ビーシリーズ』なんていうのがあってもいいかなと考えている。
どうもそれ用にナーナが試作していたものを、『闇影の義人団』のユニホーム装備に採用することを考えているようだ。
まぁ新商品のモニターという意味でも、いいかもしれないけどね。
ナーナはみんなに挨拶をすると、おもむろに武具の説明を始めた。
ナーナは、まず軽鎧の説明から始めた。
ニアから聞いたのだろうが、サイズに合わせた六セットの分が既に取り出してある。
説明しながら、装着してもらうようだ。
『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビー顕現体が、着替え用の目隠しスペースを二つ作ってくれた。さすがに気が回る。
軽鎧は装着性の良さを重視して、上下二つのパーツに分かれていて、上半身がジャンバーのように、下半身がズボンのようになっている。
ここまではいいのだが……なぜか……シースルーなデザインになっている……。
上半身のジャンバーパーツは、蜂魔物の胴体の外皮を利用した黒いノースリーブで、ベストのようなかたちになっている。
そして、肩から両腕に透明な袖がついているのだ。
したがって、本当にノースリーブというわけではない。ノースリーブのように見えただけだった。
ナーナの説明によると、蜂魔物の羽根を使って袖を作ったようでスケスケなのだ。
蜂魔物の羽根は防御力もあり、適度な柔軟性と通気性もあるらしい。
動きやすい装備にしたいとの考えから、手足は蜂魔物の羽根を使ったとのことだ。
普通の小手パーツやスネ当てパーツと違って、全体を包み込んでいるので隙間がなく防御性能は高まっているはずである。
それでいて動きやすいというのだから、ある意味画期的かもしれない。
全身甲冑と同等の防御性能があるなら、自由に動けて軽い分、遥かに優れた装備といえる。
下半身パーツも蜂魔物の外皮を使ったホットパンツに、足の付け根からくるぶしの辺りまで同様のシースルーパーツが付いている。
足が完全に見えるスケスケ状態の超絶セクシー装備なのだ。
ホットパンツの部分は黄色になっているので、上半身の黒と合わせると蜂っぽい感じにはなっている。
でもこんなセクシーな蜂さん衣装……まさにハニートラップにかかってしまいそうだ……。
まさかナーナ……そんな追加効果狙ってないよね……?
実際みんなが着てくれているのだが……スカイさんとギルドの受付嬢ジェマさんは、セクシーすぎて直視できない……。
むしろ生足を出してるよりも、スケスケのシースルーの方がセクシーさが増している気がする……。
そんな俺の気持ちを察知して、ニアが速攻で飛んできて『頭ポカポカ』攻撃を俺に繰り出した。
そしてなぜか……いつの間にか転移でやってきたサーヤが、俺の斜め後方にいて『お尻ツネツネ』攻撃を繰り出していた。
なに、この人たちのコンビネーション!? ちょっとぐらい見逃してくれよ……トホホ。
スカイさんもジェマさんも、少し恥ずかしそうにしている。
ただ装備感はいいみたいだ。
軽くて動きやすいらしい。
女性陣はいいのだが……問題は男性陣だ……というか、おっさん四人……。
おっさんにシースルー着せちゃダメでしょうよ!
俺はかなりゲンナリしている……。
気力を奪われる感じだ……。
もしかしたら、敵をゲンナリさせて、ステータスを低下させる追加効果があったりして……。
でもなぜか……筋肉自慢のイカ焼き屋台の店主マックさんと、衛兵長に復帰するフィルさんは鼻息を荒くして筋肉ポーズをとっていた。
恥ずかしいというよりも、むしろ嬉しそうな感じだ。
筋肉をアピールできるから嬉しいのだろうか……。
笑えるようで……笑えない……てかドン引きだよ!
ギルド長に復帰したレオさんと『アシアラ商会』のアシアさんは、顔に斜線が入った感じで呆然とただ一点を見つめている……なんか……可哀想すぎる……。
おっさんが黄色いホットパンツを履いて、しかもシースルーなんて……俺だったら……耐えられない。
どこか遠くに行きたい気持ちになるだろう……。
まぁレオさんもアシアさんも、実働にはあまり出ないだろうから、これを着る機会もそれほどないだろう。
それが唯一の救いではないだろうか……。
ちなみに、この軽鎧は『ビーアーマー』という名前にしたらしい。
次がヘルムだ。
ナーナの説明によると、『フェアリー武具』の商品にする予定のバージョンは、蜂魔物の頭部の下半分を切断した上部を加工して兜にしたらしい。
一応見せてもらったが……蜂魔物の頭の上半分をかぶる感じで目も触角もついているので、まるで顔を出すタイプの被り物みたいにも見える。
ヘルムだけ極端に蜂っぽい意匠になっている。
『闇影の義人団』用の装備は、顔を隠せるようにフルフェイス型になっている。
蜂魔物の頭部を上下で切断せずに、サイズをうまく調整して作ってある。フルフェイスのヘルメットを被っている感じだ。
蜂の目の一部が切り取られ、羽根を使って透けて見えるように加工されている。
これで視界を確保しているのだ。
商品用のバージョンは『キラービーヘルム』という名称で、『義人団』仕様は『キラービーフェイス』という名前にしたらしい。色は黄色である。
防具として丸盾が作られている。
これは蜂魔物の体の外皮を、蜂魔物の手足を使って補強して作ったようだ。
名称は『ビーシールド』というらしい。黒い盾だ。
武器は、いろいろ作ってくれたようだ。
最初にナーナの悪乗りというか……センスを感じさせる武器が登場した。
格闘専用の武器で名称を『ビーニードル』というらしい。
手の甲に装着する固定型の武器で、蜂魔物の針が装備されていて、拳の先に長く針が突き出た形状になっている。
敵を殴るかたちで刺し貫く、接近戦専用の武器なのだ。
ただ、よほどの格闘家というか……体術の使い手じゃないと使いこなせない武器だと思う。
やはりこれも……ロマン武器の類に入ってしまう感じがする。
ふと思ったが、このニードルの仕様を蜂魔物の針ではなく、『ドワーフ銀』にしたら吸血鬼と戦うときにいいかもしれない。
そして、そんな俺の思考を感じ取ったのか……隣で一緒に話を聞いているナビーがニヤッと悪い笑みを浮かべた……。
まさか……ナビーさん、作って自分で使うつもりじゃないよね……?
あとは同じく蜂魔物の針を使った武器として、『ビーダガー』という短剣と、『ビーランス』という槍を作っていた。
そして蜂魔物の牙顎を使った『ビーアックス』という斧もあった。
長柄斧も作ってあって『ビーロングアックス』というらしい。
そしてこの『ビーシリーズ』とは別に、『舎弟ズ』が着ている白いローブと色違いの黒いローブがある。
これは『アラクネーロード』のケニーに頼んで、作ってもらったようだ。
特攻服というか……ロングコートのようなかたちになっているので、前を開けたまま着るのが標準仕様のようだが、前を閉じようと思えば閉じることもできるようだ。
前を閉じてしまえば、シースルー装備がほとんど見えなくなるので、みんな安心するのではないだろうか……。
ただ筋肉を自慢したいマックさんとフィルさんは、開けて着そうだけどね。
そして俺が一番気になったのは……背中に文字が入っているかどうかだ……。
恐る恐る後ろに回って背中を確認すると……
……終わった……これ完全に終わったわ……。
背中に『
また『ライジングカープ』のキンちゃんの情報だろうけどさ……本当にそれなんの追加効果もないから!
唯一の救いは、黒のローブに紫で書いてあるので、あまり目立たないことだ。
夜に活動している分には、誰にも読まれないだろう……。
ちなみに、ケニーの作ったこのローブの『階級』は『
ナーナとしては、安く販売できるように『中級』を目指して作ったようだが、『上級』になってしまったらしい。
ナーナの話では、時々悪ノリで作ってしまうロマン武器の中に、思ったよりも『階級』が上がるものがあるようだ。
今回はもしかしたらシースルー装備の斬新さなど、他にない要素があるから『階級』が上がったのかもしれない。
まぁ相変わらず『階級』システムも、どういう基準でついているのかわからないけどね……。
『階級』が高くなってしまったことで、思っていたような安い値段にはできなくなるが、冒険者は派手好きな者が多いので、意外とうけるかもしれないとナーナ自身が言っていた。
俺としては安く売ってもいいのだが……あまり相場を無視した価格設定をすると、他の武具店などに迷惑がかかってしまう。
真面目に商売してる人が成り立たなくなると大変だから、適正価格を守ろうと思っているのだ。
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