404.突然の、スキル発現。
もう日が暮れていたが、みんなに少し出かけてくると言って、サーヤを呼んで大森林と『ナンネの街』を回ってきた。
大森林にいる『石使い』のカーラちゃん、『ナンネの街』の『フェアリー商会』の幹部になっている俺の奴隷状態のカイラーさん、メリッサさん、タイラーの大人メンバーと、十三歳のアレックスちゃん、十一歳のレナちゃん、ハ歳のマギーちゃん、六歳のモン君の子供メンバーに会ってきたのだ。
奴隷紋を消してあげるためだ。
奴隷紋が消せるようになった経緯を簡単に説明し、各自の奴隷紋を解消してあげた。
子供たちは皆無邪気に喜んでいたが、大人メンバーのカイラーさんたちは若干複雑な表情をしていた。
不思議に思い尋ねてみると……
「奴隷でなくなっても、今までのように機密性の高い仕事をしても大丈夫なのでしょうか? このまま商会でお世話になってもいいのでしょうか?」
いつも元気なカイラーさんが、珍しく不安げな表情でそう言った。
「もちろんです。奴隷だから縛り付けられるとか、秘密を守らせられるなんて思っていませんよ。それに初めに、必ず奴隷紋を消してあげると言ったじゃないですか。どうか、これからも今まで通り働いてください。頼りにしていますよ」
俺がそう言うと三人はホッとした表情になって、「はい!」と大きな声を上げてうなずいた。
俺はすぐに『サングの街』の屋敷に戻ってきた。
これから、念願のチャッピーの奴隷紋の解消をしてあげるのだ。
「うれしいなの〜。ご主人様ありがとうなの〜。これからもご主人様と呼んでいいなの?」
チャッピーは嬉しそうにモジモジしながら、そんなことを聞いてきた。
今までも、やむを得ず奴隷状態になっていただけで、俺をご主人様という必要などなかった。
そのことは何回も言ったのだが……チャッピーは、どうもご主人様という呼び方自体が好きなようだ。
「チャッピーがそう呼びたいならいいよ。みんな好きなように俺のことを呼ぶからね」
「わかったなの〜。ありがとうなの〜。でも親分はダメなの?」
「オジキもダメなのだ?」
チャッピーがお礼を言いながら、なぜか親分という呼び方のことを訊いてきた。
隣にいたリリイもなぜか、オジキという呼び方のことを訊いた……。
これらは『舎弟ズ』に、俺に対する呼び方として使わないように言ったやつだが……。
あいつら……リリイとチャッピーに愚痴っていたらしい……。
「うん、まぁ……基本的には何て呼んでもいいんだけど……なんとなく親分とかオジキっていうのは違う気がしたんだよね……」
俺はそう答えたのだが、リリイもチャッピーも首をかしげている。
そりゃぁわからないよね……俺としては、ただ単に嫌なだけなんだけど……。
「でも大丈夫なのだ! もうその呼び方はやめると言っていたのだ!」
「そうなの〜。これからは『お
リリイとチャッピーが、俺に安心していいよと言わんばかりの優しい、いたわるような表情でそう告げた……。
お、お
もっと普通な呼び方は発想できないのだろうか……。
なんかもう……考えるのが馬鹿らしくなってきた……。
親分とかオジキよりは、多少マシだけどさぁ……なんとなく盗賊の頭みたいで、微妙だわ……。
あいつらから言われるから嫌なのかなぁ……女性メンバーとかに言われたら嫌じゃないのかなあ……
……ダメだ。考えたら負けだ……無視。
俺のことを思って教えてくれたリリイとチャッピーに対して……俺は、微笑み返すしかなかった……。
やっぱり、早くこの街を出ようと思う……。
◇
翌朝になって、中央通りに面した店舗物件の使い道をどうしようか考えていると……突然『ワンダートレント』のレントンから念話が入った。
(マスター大変なのだ! デイジーちゃんが大変なことになってるのだ! とにかく来て!)
俺は急いで庭に出て、レントンとデイジーちゃんがいる花壇に向かった。
あれ……なんかデイジーちゃんが光っていた気がするが……見間違いかなぁ……。
デイジーちゃんは、呆然としている。
どうしたんだろう……。
「デイジーちゃん、大丈夫かい?」
「わ、わたし……お花が……植物さんたちが……お話が……」
デイジーちゃんは、なにかがこみ上げているようで言葉が続かない。
「マスター、デイジーちゃんのステータスをチェックして!」
俺はレントンに言われるまま、すぐにデイジーちゃんを『波動鑑定』した。
え…………そういうことか……。
なんと……デイジーちゃんに『植物使い』スキルが発現していた!
『使い人』のスキルは意志を持つスキルらしいので、『植物使い』スキルにデイジーちゃんが選ばれたのかもしれない。
まさかこんなことが起きるとは予想ができなかったが……今になって振り返ってみると……デイジーちゃんは、お花や植物によく話しかけていた。
俺は昨日その姿を見たときに、なんとなく植物たちが嬉しそうな雰囲気を出していると感じていたのだ。
『虫使い』のロネちゃんに『虫使い』スキルが発現した時も、『テイム』スキルを獲得したくて、いろんな生物にたくさん話しかけていた。
結果的に虫に話しかけた数が圧倒的に多かったわけだが、虫にも愛情を持って接したことで、スキルが発現したのだろう。
よく考えたら……デイジーちゃんも植物に対して、それと同じようなことをやっていたわけだね。
そして、レントンも何か特別なものを感じると言っていたから……元々そういう素養があったのかもしれない……。
スキルの発現は嬉しいが……でもちょっと複雑だな……。
デイジーちゃんの危険度が、一気に増してしまった。
さて……どうするか……
まだ早朝の時間帯だが、俺は緊急で打ち合わせをしたいと言って、スカイさんに他の『闇影の義人団』のメンバーを呼んでくれるように頼んだ。
しばらくして、みんな集まってくれた。
集まってもらったのは、ニアと花売りの少女デイジーちゃんと『闇影の義人団』のメンバーのみんなだ。
『闇影の義人団』のメンバーは、孤児の世話をしている元衛兵で義賊だったスカイさん、その幼馴染で『商人ギルド』の受付嬢のジェマさん、『商人ギルド』のギルド長に復帰したレオさん、その幼馴染でイカ焼き屋台の店主マックさん、『アシアラ商会』の会頭ので、俺専属の奴隷商人バーバラさんの知人でもあるアシアさん、新メンバーで衛兵長に復帰するフィルさんの六人だ。
俺はまず初めに、デイジーちゃんに『植物使い』という『使い人』スキルが発現したことを伝えた。
そして『使い人』の話をし、その『使い人』スキルを持つ者や特殊なスキルを持つ者たちを『正義の爪痕』という組織が狙っていることを話した。
人格を書き換えられ命を落とした『死霊使い』のジョニーさん、捕まって残酷な実験をされていた『蛇使い』のギュリちゃん、奴隷商館にいた『石使い』のカーラちゃん、家族を人質にとられて犯罪に加担させられていた『土使い』のエリンさんの話もした。
そして俺が『使い人』スキルを持っている人を、保護しているという話をした。
みんな話の内容に衝撃を受けていたが、『アシアラ商会』のアシアさんは友人である俺専属奴隷商人のバーバラさんから手紙をもらい、珍しいスキルを持っている子供を探しているという話を聞いていたので、その話と繋がって納得したようだ。大きく頷いていた。
俺は、この話が万が一にでも外に漏れると、デイジーちゃんやその近くの人に危険が及ぶ可能性があると話し、口外しないようにお願いした。
そして、できれば念のために契約魔法で秘密保持契約を結んでくれるようにお願いした。
いつものように、言ってはいけない事項を指定し、それに関することを言いそうになったら声が出なくなるという契約内容にするので、体に苦痛などはない。
みんな二つ返事で、了承してくれた。
そして俺はデイジーちゃんを、他の『使い人』の子たちを保護している場所に連れて行きたいと話した。
安全を最優先に考えたいという俺の話に、みんな賛同してくれた。
デイジーちゃんを妹のように面倒見ていたスカイさんは、少し淋しげな表情になっていたが、賛成してくれたのだ。
だが当のデイジーちゃんは……
「わたし、お姉ちゃんと一緒にいたい! 離れたくない……他の子たちとも……」
そう言って、泣き出してしまった……。
ただでさえ特殊なスキルが発現してびっくりしているのに、俺に『使い人』スキルを持った人たちが悲惨な目にあった話を聞かされ、その上お姉ちゃんと離れるというのは、確かに耐えられないだろう。
俺は、デイジーちゃんに対する気遣いが足りなかったと反省した。
さて……どうしたものか……
姉と慕うスカイさんと離れ離れにするのは確かに可哀想だ。
かといって……スカイさんや一緒に暮らしてた子供たちみんなを連れて行くというのも……微妙だな。
できない話ではないけどね。
できれば子供たちには、普通に人族の街で暮らしてもらいたいんだよね……。
そんな俺の逡巡を察して、ニアが泣いているデイジーちゃんの前にやってきた。
「みんなデイジーちゃんを守りたいのよ。それに……デイジーちゃんが狙われたら、周りのみんなも危ないの。デイジーちゃんを守ろうとするスカイさんたち危険なのよ」
ニアは泣いているデイジーちゃんに対して、意外にシビアな話をした。
そして、泣くのをやめてにニアを見つめているデイジーちゃんに、優しく微笑むと話を続けた。
「今保護している『使い人』の子たちは、自分と自分の大切な人たちを守れるように訓練しているの。だからデイジーちゃんもそんな子たちと一緒に自分を鍛えて、強くなろうよ。自分を守れるようになって、お姉ちゃんたちも守ってあげれるくらい強くなればいいのよ! それに私たちには、転移の魔法が使える仲間がいるから、すぐに帰ってこれるわよ。最初ちょっとだけ頑張って、ある程度強くなったら、ここから訓練に通うこともできるようになるから、ちゃんと一緒に住めるわよ! しかもすぐにね! もちろんデイジーちゃんが頑張ればだけどね」
「 ニ、ニア様……ほんとに……わたし……強くなれる……の? すぐに、お姉ちゃんと一緒に住めるの?」
「もちろんよ。多分、すぐお姉ちゃんよりも強くなっちゃうと思うよ!」
「えーほんとに! じゃぁ、私がお姉ちゃんを守る!」
デイジーちゃんの涙に濡れた顔が笑顔になった。
ニアが諭してくれたおかげで、デイジーちゃんは大森林で特訓する決意を固めたようだ。
ただニアも言っていたが、この子をスカイさんと長く離すのは可哀想だ。
最初に合宿的な感じで集中的にレベル上げをして、レベル15くらいまであげたら、その後はトルコーネさんの娘のロネちゃんみたいに、通いで訓練に参加するかたちにしてあげようと思う。
そうすれば、今までとほとんど変わらないように暮らせるからね。
花売りに出ていた感じで、大森林に訓練に行ってくればいいというかたちになるはずだ。
あとは密かに、この街の警戒網と防衛戦力を強化しておけばいいだろう。
ちょうど、スライムたちも増えてきたところだ。
『エンペラースライム』のリンちゃんが、『種族通信』で呼びかけていたスライムたちが、かなり集まってきているのだ。
いつものように、大森林に行ってレベルを上げて戻ってきてもらえば、巡回要員としてはもちろん、なにかあったときの防衛戦力としても活躍してくれるはずだ。
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