403.改名、闇影の義人団!

 元衛兵で義賊だったスカイさんと、無実の罪で強制労働をさせられていた元衛兵長のフィルさんが、改めて俺のもとにやってきた。


 相談があるらしい。


 フィルさんの衛兵長への復帰に関してのことだった。

 全員の復職が認められたということだったので、当然衛兵長に復帰するのかと思っていたが……フィルさんは答えを保留にしてきたそうだ。

 本当はフィルさんは断ったらしいのだが、スカイさんが頼んで保留ということにしてもらったらしい。


 スカイさんは衛兵に戻ることを固辞し、ここの子供たちの面倒を見てくれることになっているが、フィルさんには衛兵長に戻ってほしいと心から思っているようだ。

 それで説得していたようなのだが、フィルさんが首を縦に振らないらしい。


 フィルさんの気持ちを確認すると……


「私は衛兵長として、この街の人々を守るのが仕事でした。でもそれを全うすることができませんでした。私に、衛兵長に戻る資格はありません……」


 思い詰めた表情で、フィルさんは答えた。


 この街の状態に責任を感じているようだ。


「弱い人を守るために守護に逆らって、投獄され奴隷にまでされたのだから、なにも恥じることはありません」


 スカイさんは、涙ぐみながらフィルさんの腕を掴んだ。


「私もそう思いますよ。もし責任を感じているというなら、なおさら衛兵長に復帰して今度こそ街の人々を守ったらどうですか? それが一番の贖罪ではないでしょうか……」


 俺は奮い立ってほしくてそう言ったのだが……フィルさんは深刻な顔のまま悩んでいる。


「また同じような事態になったときに……自分に何ができるのか……正攻法で挑んでもまた拘束されるだけで、助けを必要としている人のもとに、駆けつけることができないかもしれません……」


 フィルさんは、拳を握りながら視線を落とした。


「もう! なにをウジウジしてんのよ! 大の大人が! ひとりで抱え込んでるから、そうなっちゃうのよ! 仲間がいるでしょう! 確かに正攻法じゃ難しいときもあるわ。だからいいことを教えてあげる! あなたもね『チーム義賊』に入るのよ! 衛兵長をやりながら、影で街の人たちを守る義賊の活動もするのよ。それなら正攻法がだめなときでも、裏技ができるでしょう。表と裏から守るのよ! それがあなたの贖罪よ!」


 近くで話を聞いていたニアが、すごい勢いで飛んできてフィルさんに喝を入れた。


 俺は『チーム義賊』に入れというニアの発言にびっくりしたが……冷静に考えると、いいアイディアかもしれない……もちろんフィルさんの気持ち次第だが……。


「よ、妖精女神様……」


 喝を入れられたフィルさんは、顔を上げ涙を流している。

 ニアに向けて腕を組んで祈るようなポーズになった。


 すごい……なんか……神の啓示でも受けたかのように、フィルさんの顔が晴れやかになっていく……。


「わ、わかりました。そういたします。規律と秩序を重んじて衛兵をしてきましたが、時に無力だと知りました。義賊に身を落としたスカイの方が、よほど人々を助けました。私は規律を守りたいんじゃない、人を守りたいんです! 私も『チーム義賊』に入れて下さい!」


 フィルさんは椅子から立ち上がって、ニアの前に跪いた。


 てか……『チーム義賊』がニアさんの組織みたいになってるんですけど……フィルさんそれ違いますから!

 頼むなら……スカイさんたちに対してだと思うんですけど……。


「よし! わかったわ! スカイちゃん、みんないいわよね!」


 ニアは、スカイさんとなんとなく遠巻きに見ていた他のメンバーに、力強く告げた。


「もちろんです! ニア様」


 スカイさんがそう言うと、他のメンバーも黙って首肯した。


「よし! じゃぁあなたたちに、新しい活動目的とチーム名をあげるわ! あなたたちは、これからこの街の人たちを影から守るのよ。衛兵では目が行き届かないところで、人々を守ったり助けたりする。『炊き出し』もその一つだし、仕事の世話をしてあげてもいい。悪事の証拠を見つけて、衛兵に渡してもいいわ。あなたたちがこれから奪うのは、悪党の資産ではないわ。悪事の証拠よ。それをもとに裁きを受けさせるのよ。そしてもう一つ……人々から苦しみを奪ってあげましょう。少しでも笑顔になるように! 訪問者が多いこの街には、今後もいろんな問題が起きるでしょう。影から街を支える存在になるのよ!」


 ニアはそう言って、左手を腰に当て右手を突き上げるといういつもの残念ポーズをとった。


「「「はい!」」」


 スカイさんと他のメンバーも、フィルさんの近くに集まって、ニアに向かって跪いた。



「それから『チーム義賊』は言いにくいし、今後は活動内容が変わるから、名前を変えましょう! 私が名前をあげるわ! ……その名は……『闇影の義人団』! ピグシード辺境伯領では『闇の掃除人』という正体不明の人物が、悪人を捕まえて衛兵に突き出す活動をしているの。まぁ私の知り合いではあるんだけど……その『闇の掃除人』から『闇』をもらって『闇影』にしたのよ。闇の中で、影から人々を守るの。『義人』は、己の利害を顧みず、他人に尽くす人のことよ。影となって人々に尽す熱き軍団……それが『闇影の義人団』よ!」


 ニアが満面のドヤ顔だ。

 なんか……本当にカリスマ的な感じがする……。


 スカイさんたちメンバーは、感動した表情でニアを見つめている。


 そして……その前途を照らすかのように、夕陽の赤い陽光がみんなを優しく照らした……って、なんのこっちゃ!

 やっぱ青春ドラマみたいになってるじゃないか!

『舎弟ズ』のときといい……もしかして、この街自体が青春ドラマ体質なのか……?

 ニアさんもそれに影響されたのだろうか……まぁもともと、熱くてめちゃくちゃな人ではあるけどね。

 それにしても……ほんとによくわからない展開になってしまった。

 完全にニアさんの組織みたいになっちゃってるからね……。

 まぁ妖精女神お墨付きの影の組織ということで、いいかもしれないけどね。


 『闇影の義人団』か……まぁ確かに『チーム義賊』よりはいいかもしれない……。

 そして俺がつけた『舎弟ズ』よりも、確かに全然いいセンスだね。


 なんかいずれ……『舎弟ズ』が『闇影の義人団』に吸収されて、せっかく俺がつけた『舎弟ズ』という名前が消滅してしまいそうな予感が……トホホ。


 軽くニアに訊いてみると……


「『舎弟ズ』が『闇影の義人団』に入るのは、まだ早いわよ。下部組織として、実績を積んでからね。当面は研究生扱いね!」


 ニアは、当然のように笑顔で答えた。

『舎弟ズ』もニアの組織みたいな感じになってるんですけど……。


 それにしても、研究生ってなによ!? ……アイドルグループか!


 研究生はともかくとして、下部組織というのは……言い得て妙というか……『舎弟ズ』という名前と合っている気はするけどね……。


 それからニアさん、『闇の掃除人』が知り合いなんてさらっと言っちゃってたけど……勘のいい人なら、俺だってわかっちゃう気がするんですけど……。

 まぁアンナ辺境伯たちにもほとんどバレてるっぽいし、友人には知られてもいいけどさ……。




  ◇




 日が完全に沈んだ頃、『エンペラースライム』のリンちゃんがサーヤの転移で戻ってきた。


 ピグシード辺境伯領の『領都』に行って、拘束中の悪徳奴隷商人から『ランダムドレイン』で『契約魔法——奴隷契約』スキルを奪取してくるというミッションを完了して戻ってきてくれたのだ。


 俺はすぐに、仲間のスキルを俺が共有させてもらう『テイク・シェア・スキル』のスロットを確認し、『奴隷契約』が入っているの確かめた。

 そして『波動複写』で、自分のスキルにコピーした。

『固有スキル』である『ポイントカード』スキルのポイントを使って、スキルレベルを一気に10まで上げてしまった。


 『契約魔法——奴隷契約』のスキルを得て、レベル10にしたことで『奴隷契約』の内容がなんとなくわかるようになった。


 奴隷紋の付与は、スキルレベル1からできることのようだ。

 ただ付与といっても、あくまで奴隷契約は契約なので、基本的には双方の合意がなければ奴隷紋の付与ができないことになっているようだ。

 ただスキルレベルが上がると、明確な反対の意思の表示がなければ付与できてしまうようだ。

 スキルレベルが3以上になると、痛めつけて事実上の支配下に置いたり、意識を朦朧とさせて反対の意思表示ができないようにすれば、奴隷紋を刻めてしまうようだ。

 この情報は、元奴隷商人の『アシアラ商会』のアシアさんから聞き出したものだ。


 そして奴隷紋の解消は、スキルレベル9で可能になるようだ。

 実際、奴隷紋解消のコマンドが存在している。


 これでとうとう、念願のチャッピーの奴隷紋を消すことができる!

 そして『石使い』のカーラちゃんを始めとした悪徳奴隷商人から保護した人たちを解放できる!


 それから気になるコマンドが、一つ発生していた。

 スキルレベル10で『隷属』というコマンドが発生している。


 どうもこれを使うと、『隷属の首輪』をはめたのと同じような効果があるらしい

 『奴隷契約』で奴隷にするよりも『隷属の首輪』をはめた方が縛りが強く、拘束できる内容も細かく、罰も厳しい。

 スキルレベルが10になると、その『隷属の首輪』と同様の効果を出せるようだ。


 俺としては……かなりショックだ……。

 あの『隷属の首輪』だけでも、この世から失くしたいと思っているのに……『奴隷契約』のスキルレベルが10になると、それと同じことができてしまうなんて……ゾッとする……。


『隷属の首輪』は相手の意思に関係なく、はめるだけで従わせることができるのに対し、『奴隷契約』の『隷属』はあくまで契約なので、明快な反対の意思表示があればできないということにはなるのだろう。

 ただアシアさんからの情報の通り、痛めつけるなどして意識を朦朧とさせれば、『隷属』を発動できてしまうだろう。考えただけで恐ろしい……。


 ほんの少しの救いは、人族ではスキルレベル10まで到達することが、かなり難しいということだろう。

 どのスキルもスキルレベルを10にするのはかなり大変で、寿命の短い人族では至難の業とされているからだ。


 それからスキルレベル10で、この『隷属』というコマンドが発生しているが、同時に『隷属解消』というコマンドも発生しているので、俺や仲間たちならそういう状態の人を助けてあげることもできる。


 ただ『隷属の首輪』など魔法道具で隷属させられている状態を、解消できるかどうかはわからないけどね。


 個人的には……本当にこの『奴隷契約』スキルは嫌なスキルだ……。

 罪を犯した者や更生が困難な者たちを強制的に従わせ、犯罪奴隷として働かせるというようなときにはいいのかもしれないが、それ以外は本当に嫌だ……。

 まぁ使う者の人間性次第ではあるんだろうけど……。

 できれば、なくなってほしいスキルである。


 本当は、『テイム』スキルも好きじゃないんだよね……。

 テイマーの俺がいうのもなんだけど、スキルの力で無理矢理強制して従わせるっていうのは、ちょっと抵抗がある。

 現代日本で育った俺としては、心にひっかかるんだよね……。

 今のところは『テイム』スキルを使わずに、交渉で仲間になってくれているが、今後もできるだけ使いたくはないのだ。

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