402.復職の、決意……。

 夕方になって、出かけていたメンバーが続々戻ってきた。


 まず『チーム義賊』のメンバーで、『アシアラ商会』のアシアさんが戻ってきた。

 彼は、俺専属の奴隷商人となってくれた領都の顔役、バーバラさんの友人でもある。


 俺が頼んでいた麹を、もらってきてくれたのだ。


 ついに手に入れた!

 これで醤油が作れる!

 この種麹を使って米麹も作れるだろう。

 米麹が作れれば、味噌も作れるはずだ!

 味噌汁が飲める日は近い! おっしゃー!


 アシアさんは、もう一つの依頼である鶏も仕入れてきてくれた。

 ただ通常は販売していないようで、十羽を譲ってもらうのがやっとだったようだ。

 十羽中八羽は、雌なので卵が少しは採れる。

 子供たちの人数に対しては足りないが、全然ないよりはいいだろう。


 そんなことを思っていると……


『スピリット・オウル』のフウが戻ってきた。

 しかも、 フウはガチョウの群れを連れて帰ってきたのだ。

 二十一羽もいる。


 フウによると……


 この街だけでなく、その周辺エリアまで広げて空から見回りをしていたらしい。

 その中で野生のガチョウを見つけたので、仲間にしたようだ。

 これで食べる卵の量も増えるし、ガチョウは番犬代わりにもなるので大助かりだ。グッジョブ! フウ!



 『商人ギルド』の受付嬢のジェマさんと元ギルド長のレオさんも帰ってきた。


 二人の話によると、なんと現在のギルド長が不正行為で逮捕され免職になったらしい。

 守護のダーメン準男爵が連れてきた人間で評判が悪かったようなので、当然の結果だろう。


 ヘルシング伯爵の妹で『ヴァンパイアハンター』でもあるエレナさんが、粛正を進めている結果だと思われる。

 それにしても凄いスピードだ……。

 本来ならいくら領主の妹とはいえ、街の行政や人事を勝手に変えることなどできないはずだが……彼女には……というか、彼女の怒りの前では、そんなことは関係ないのかもしれない。

 おそらく猛烈な力技でやっているに違いない……文字通りの力技……物理攻撃でドンドン進めている姿が目に浮かぶ……。

 かろうじて生かされている準男爵が不憫だが、自業自得だ。


 以前のギルド長のレオさんに、ギルド長への復帰の依頼があったらしい。


 レオさんは、漁師をして魚を採る今の暮らしも気に入っていて、迷っているらしい。


 だがジェマさんに、「魚は鵜でも採れますが、ギルド長の仕事はレオさんにしかできません!」と意味不明な説得をされ、少し心に傷を受けつつも復職することを決意したそうだ。


「おめでとうございます」と声をかけると……

「ギルド長の仕事だけは、鵜にも負けません!」というわけのわからない宣言をされた。

 てか……そもそも鵜は、ギルド長の仕事はしないから!

 鵜が魚を採ってくることが相当ショックだったのか……なんかキャラが変わってしまっているような気がするが……。

 俺はツッコミたい気持ちに蓋をして、「頑張ってください」と苦笑いしながら言うしかなかった。


 まぁ変な方向にスイッチが入ってはいるが、ギルド長に戻れて良かったと思う。

 レオさんがギルド長なら安心だ。

 この際、鵜のことは綺麗さっぱり忘れて、ギルドの仕事に邁進してもらいたい……。


 レオさんの幼なじみで、イカ焼き屋台の店主のマックさんも帰ってきて、ギルド長復帰の話を聞いて大喜びしていた。



 少し前に出かけたばかりのスカイさんも、戻ってきた。

 一人の男性を連れている。


  四十代前半くらいの色黒のがっちりとした坊主頭の男性だ。


「グリムさん、こちらは私を助けてくれた元上司、衛兵長をしていたフィルさんです」


 スカイさんが、俺に紹介してくれた。

 無実の罪で捕まったという元衛兵が釈放されたようだ。

 目を充血させている。

 おそらく泣いていたのだろう。

 朝届いたエレナさんの手紙に、今日中に無実の罪の者を解放すると記されていたので、スカイさんは迎えに行っていたのだ。


「はじめまして、フィルと申します。スカイから話を聞いています。この街の人たちを救ってくれたそうで、本当にありがとうございます」


 フィルさんが涙を滲ませながら、片膝をついた。


「はじめまして、グリムです。ご無事で本当によかったです。どうぞお立ちください」


 話を聞くと……


 やはりエレナさんが迅速に動いてくれて、強制労働させられていた元文官や元衛兵を簡単な尋問の後に釈放してくれたそうだ。

 そして全員、仕事復帰が認められたとのことだ。

 ただ無実の罪で捕まっていた者たちは、みんな奴隷紋を刻まれて犯罪奴隷にされており、今も奴隷のままらしい。

 やはり奴隷紋を消すのは、かなりの術者でないとできないらしく、やむなく全員がエレナさんの奴隷というかたちになったようだ。

 いずれ必ず消せる者を見つけて、奴隷状態から解放すると約束してくれたようだ。


 エレナさんが、奴隷紋の解消は『契約魔法——奴隷契約』のスキルレベルが9以上ないとできないから、王都でないとできる者を見つけられないだろうと言っていたそうだ。


 アンナ辺境伯たちからも、前に同じようなことを聞いていた……。

 ただ今の話には、新情報が一つある!

 ……“スキルレベルが9以上ないとできない”ということは……逆にいえば、スキルレベルが9以上なら確実にできるということではないだろうか。

 奴隷紋の解消ができる者は限られているという話だったので、なにか特殊な修行とか特別なことをしないと身に付かない技能なのかと思ったが……スキルレベルを上げれば自動的に身につく技能なら話は簡単じゃないか!


 もっとも……前にニアやサーヤが言っていたが、スキルレベルを上げることは、本当はかなり大変なことのようだ。

 特に寿命の短い人族は、大変らしい。

 スキルレベルを7とか8に上げることができた時点で達人級のようで、10まで上げることはかなり難しいことのようだ。

 俺の仲間たちは、『種族固有スキル』や自分の元々の『通常スキル』を普通にレベル10まで上げていたから、そんなに難しいという感覚は持っていなかった。

 この点は、ナビーから指摘があった。

 おそらく、俺の『促成栽培』スキルが影響していて、仲間たちは普通よりも成長が早い可能性があるらしい。

 レベルがどんどん上がっていくので、それに伴ってスキルレベルも上がりやすくなっているのだろうとのことだ。


 言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 一般の人は、レベルが上がりやすい魔物と戦闘する機会はほとんどない。

 それ故に、レベル自体が高くないまま一生を終える人も多いだろうと思う。

 ほとんどの人は、レベル10台のまま寿命を迎えるのではないだろうか。

 その点だけでも、スキルレベルが上がりにくいと言える。

 スキルレベルは、訓練を積めば独自に上がるが、本体のレベルが上がる時がスキルレベルも上がりやすいと言われている。

 仲間たちを見ていると、実際そんな感じだではある。

 普通に生きていく中では、レベルアップの機会が少ないから、スキルレベルを上げることも非常に難しいといえる。

 理論上、訓練だけでもスキルレベルを上げることができるが、実際はかなりの時間を費やすだろうし簡単ではないはずだ。


 そんな考察はともかく……


『契約魔法——奴隷契約』のスキルを、俺が手に入れられれば『固有スキル』の『ポイントカード』スキルのポイントを使って、スキルレベルを一気に10まで上げることができる。

 奴隷紋の解消ができるコマンドのようなものがあって、それが使えるようになれば、あっという間に問題解決だ!


 チャッピーや『石使い』のカーラちゃんや『ナンネの街』の『フェアリー商会』の幹部として働いてくれている人たちを、奴隷から解放してあげるという念願も叶えることができる!


 俺の仲間には『契約魔法——奴隷契約』のスキルを持っている者はいないが、ほとんどの奴隷商人はスキルレベルが低いとは言っても『契約魔法——奴隷契約』を持っているはずだ……。


 そう考えると……俺専属の奴隷商人となってくれた『領都』のバーバラさんか、ここにいる元奴隷商人の『アシアラ商会』のアシアさんを『心の仲間チーム』メンバーにしてしまえば、『契約魔法——奴隷契約』を手に入れることができる。

 俺がスキルを共有させてもらうためのスロット『テイク・シェア・スキル』に表示されるようになるので、『波動複写』でコピーして俺のスキルにすることができるようになるのだ。

 そうすれば『固有スキル』の『ポイントカード』のポイントを割り振って、一気にスキルレベルを10に上げることができる。


 さてどうするか……思い切ってバーバラさんかアシアさんに打ち明けて『心の仲間チーム』メンバーにしてしまうか……

 いや待てよ……今の時点で無理に『心の仲間チーム』メンバーに加えなくても……悪徳奴隷商人からスキルを奪えばいいか!


 『領都』にいた悪徳奴隷商人は、『正義の爪痕』に加担していた罪で逮捕されている。

 やつは『正義の爪痕』に加担していただけで、『正義の爪痕』の構成員そのものではないので、王都には送られずにピグシード辺境伯領で、犯罪奴隷として労働に従事させることになっていたはずだ。


 よし! あいつから奪ってしまおう!


 本来なら人からスキルを奪いとるなんて、当然俺の自主規制に引っかかるが、あいつは別だ……。

 むしろ、あんな奴からは、奴隷契約スキルを奪った方がいい。

 それにあいつは犯罪奴隷となっているから、二度と奴隷商人をやることもできないだろう。


 俺は、スキルを奪うことができる特殊技能の持ち主『エンペラースライム』のリンちゃんを呼んだ。


 リンちゃんは『種族固有スキル』の『吸収』の『ランダムドレイン』コマンドで、経験値、ステータス数値、スキルをランダムで一つ以上奪うことができるのだ。


 『吸収』は、『スライム』の『種族固有スキル』なので、スキルレベルを10にできれば、他のスライムたちでも『ランダムドレイン』を使うことができる。

 ただリンが、一番確率が高いと思う。

『ランダムドレイン』は、狙って奪うことができないのだが、リンはかなりの確率で狙ったスキルを奪えるようだ。

『ランダムドレイン』は何回でも使えるが、今までは大体三回以内には狙ったものを奪っていたようだ。


 今回の任務は、奴隷として拘束中のやつにこっそり近づかないといけないので、いつもの『隠密』スキルと体色変化によるステルス機能の合わせ技が必要だから、やはりリンが一番適任なのである。

 確か……体色変化は『ロイヤルスライム』になってからできるようになっていたから、他のスライムたちにはできないんじゃないだろうか……。


 早速サーヤに迎えに来てもらって、リンを転移でピグシード辺境伯領の『領都』に連れて行ってもらった。



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