401.魔竹の、おもちゃ。

 俺は保護した子供たちに遊ばせるために、『魔竹』を使って『竹馬』を作ってみた。

 本当は普通の竹で十分なのだが、持っていないので『魔竹』で作ってみた。

 普通の竹は、まだ採取しに行っていないのだ。

 『魔竹』は子供が遊ぶおもちゃを作るには、ハイスペックな素材すぎるが、まぁいいだろう。


 足の位置があまり高くない普通の『竹馬』だ。

 二十セットを作って、リリイとチャッピーと同じくらいの歳の子供たちが遊べるようにした。

 最初はみんな乗れなかったが、コツを教えてあげたらすぐに乗れるようになった。


 『竹馬』のコツは、自分が思ってるよりもずっと前のめりな感じで、体重を前にかけることなのだ。

 普通に立つ感じに乗ると、後ろに倒れちゃうんだよね。

 このコツがわかると、『竹馬』が上手になるのだ。


 リリイとチャッピーは、『ミノタウロスの小迷宮』のミノショウさんから貰った訓練用の魔法道具『足枷のアンクレット』で能力値を大幅に下げているのだが、それでもすごい運動神経で『竹馬』に乗ってダンスをしているように激しく動いている。


 それを見ていた周りの子たちが……尊敬の眼差しを向けている。


 そして、その中の何人かが……リリイとチャッピーを『ねえさん』と呼び出していた。


 そういえば、『マグネの街』の『ぽかぽか養護院』でも『あねさん』と呼ばれていた……。

 ここでは、戦ったわけではなく……『竹馬』に乗ってるだけなのに、すでに『ねえさん』と呼ばれている。


 お友達に『あねさん』とか『ねえさん』と呼ばれる八歳児って……保護者としては少し微妙だ……。

 まぁ今回の『ねえさん』という呼び方は、『舎弟ズ』の影響もあるんだろうけどね。



 『竹馬』に乗れない小さな子供たちは、『舎弟ズ』が『魔竹のリヤカー』に乗せて遊ばせてくれている。

 みんなゲラゲラ笑っていて、楽しそうだ。


 それから俺は『竹とんぼ』も作って、子供たちに遊び方を教えてあげた。

 本当は『竹とんぼ』作りから教えてあげたかったが、いかんせん『魔竹』は固いので子供たちに刃物で削らせるには危険すぎるのだ。

 普通の竹を手に入れたら、年嵩の子たちには『竹とんぼ』の作り方を教えてもいいかもしれないけどね。


 ここでもリリイとチャッピーはすごかった……

 いつも自分の武器でやっているように、『竹とんぼ』を飛ばした後に軌道をコントロールしていたのだ。

『魔竹』は魔力を通しやすい素材なので、やってしまうような気はしていたけどね……。

 最終的にはブーメランのように、リリイたちのところに戻ってきていた。


 当然、他の子たちは、そんなことはできないわけだが……。

 ただなんとなく……何人かは多少戻ってきてるような感じもあるけど……。

 もしかしたら……このままやり続けたら、できる子が現れるかもしれない。

 リリイとチャッピーがすごいことをしていることが、子供たちにはよくわかっていない可能性がある。

 みんな、同じことが出来て当たり前と思って、やっているのではないだろうか。

 やっぱり、疑わない心というか……できると思い込んでいることが、大事なのかもしれない。


 俺としては、普通に飛ばせて、楽しんでくれればいいんだけどね。

『魔竹』で作っているだけあって、普通の『竹とんぼ』よりもよく飛ぶ感じだし、長く飛んでいる感じだ。


 ちなみに俺が作った『竹馬』と『竹とんぼ』を『波動鑑定』すると……


『名称』が『魔竹の竹馬』『魔竹の竹とんぼ』となっていて、『階級』はそれぞれ『中級ミドル』だった。

『竹馬』とか『竹とんぼ』の『中級』って、一体何なのだろうと素朴な疑問を持ってしまった。

『品質』が良いとか悪いというのはわかるけど……ちなみに『品質』は、二つとも『高品質』になっていた。

 そして特別付加価値というか、付随効果はついていなかった……。


 実は、その点について確かめたいのもあって、『魔竹』を使ったのだ。

 ナビーが作った『魔竹のリヤカー』と『愛の竹棒』には付随効果がついていたが、俺が作った『魔竹の竹馬』と『魔竹の竹とんぼ』には、ついていない。

 ということは、『魔竹』が素材だから付随効果が付くというわけではないようだ。

 やはりナビーの特殊能力なのだろうか……。


 もし本当にそうだとしたら……本体である俺ができなくて、分身ともいえるナビーができるのってどうなのよ!? ……軽く劣等感なんですけど……。


 そう思っていたところに、出かけていたナビーが戻ってきた。

 ちょうどいいので、ナビーに尋ねてみた。


「実は、私にもはっきりとはわからないのです。自分なりに考察してみたのですが……もしかしたら作りながら無意識に念を注ぎ込んでいたのかもしれません……。『愛の竹棒』は『魔竹』を適当な大きさに切っただけなのですが、切るときに、悪を懲らしめると同時に更生させたいとも思っていました。『魔竹のリヤカー』を作ったときは、子供たちを運ぼうと思っていたので、子供たちの楽しそうな姿をイメージしながら作った気がします。もしかしたら……そういう念というか、想いというか、イメージが……作るときに注入されたのかもしれません。今のところ、それぐらいしか思い当たる要素はありません……」


 なるほど……そういうことか……。


 言われてみると、俺は『竹馬』を作るときも『竹とんぼ』を作るときも、作ることに夢中で、楽しんでいる子供の姿を想像してはいなかった。

 だから何の効果もなかったのだろうか……。


 いや……なんとなく違う気がする……。

 もしナビーが言うように、念や思いなどを注ぎ込んで付随効果が付くなら、心を込めてものを作っている職人なら、誰でも付随効果が付けれることになる。

『魔竹』が特殊な素材だとしても、それを材料にした職人が全員付随効果を付与できるということはないだろう。

 もしそうなら、その話がもっと知られているはずだからね。

 やはり……ナビーの特殊能力なのかもしれない。


 そうだ!


「ナビー、検証してみよう!今なにか作ってみようよ」


「そうですね。それが早いかもしれませんね」


 俺とナビーは、検証のために新たに『魔竹』で道具を作ってみることにした。



 少しして、俺は小刀を作った。

 見た目は、日本刀の脇差だ。

 柄も鍔も刀身も鞘も全て『魔竹』で作ったのだ。

『魔竹』の色が赤黒いので、かなりかっこいい感じに仕上がった。


 これは『舎弟ズ』の自衛武器として持たせようと思って作ったのだ。

 特攻服のような白いローブの内側の腰のあたりに装備しておけば、邪魔になることはないだろう。

『魔竹』で作ったのは、あくまで攻撃用ではなく自衛用だからだ。

 イメージ的には、警察官の持つ警棒のようなイメージなのだ。

 そのまんま警棒にしてもよかったのだが、俺の趣味で日本刀の脇差デザインにしたのだ。

 刀身が竹製になっている見せかけの日本刀を『竹光たけみつ』というが、俺が作ったのはまさに『竹光』といえる。

 軽くて、硬くて、折れない、そして心も折れない……というイメージで作ったのだ。


『波動鑑定』してみると……

『名称』が、『魔竹の竹光 脇小太刀』という名前になっていた。

 脇差用の小太刀と思って作ったから、脇小太刀という名称が勝手に付いちゃったんだろうか……。

『階級』は『上級ハイ』だった。

  魔力を流すと、ただでさえ硬い『魔竹』がより強度を増すという竹光だ。

 ただこの効果は、一般的な『魔竹』の効果と同じなので、基本性能と言えるだろう。

 そして付随効果は……残念ながらついていなかった。

 そんな予感はしていたが……やはりナビーだけの特殊能力なのかもしれない。


 ナビーのほうも、武具を作っていた。


 それは『刺又さすまた』だった。

 江戸時代の捕物とかで使っていたようなやつだ。


 長い棒の先に、人の胴体がはまるくらいのU字型のパーツがついたもので、相手と距離を保ちながら取り押さえるための道具だ。

 この道具を相手の胴体に当てて壁などに押し付けることによって、反撃させずに身動きを封じることができるのだ。

 これは攻撃用の武器ではなく、捕縛用の道具なのである。


 早速、『波動鑑定』してみると……


『名称』が『魔竹の刺又さすまた』となっていて、『階級』が『上級ハイ』になっていた。

 内容説明には……魔力を通すと軽量化しかつ強度が増す捕縛道具。付随効果として、対象の戦意を低下させる効果が小程度ある……となっていた。


 やはりナビーの作ったものには、付随効果が付いていた。

 ナビーによると、捕まえる相手が抵抗しないで大人しくなるイメージで作ったようだ。


 これはもう……ナビーの特殊能力で間違いないようだ!

 なんとなくだが……『ナビゲーター』コマンドだけに、相手を誘導するような感じの効果が出せるのかもしれない……反省と成長を促したり……楽しい気持ちにさせたり……戦意を低下させたり……。


 付随効果は、今のところどれもほんの少しの効果で、極端に性能が上がったり戦闘が有利になったりという感じではない。

 だが、無いよりはあった方がいいし、今後すごい付随効果を付けられるようになるかもしれない。

 ナビーがこの特殊能力を磨いてくれれば、すごい装備が作れるかもしれない。

 仲間たちが、大幅にパワーアップできる可能性がある。

 今後のナビーに期待しよう……。



  ◇



 俺は『魔法の竹光 脇小太刀』を『波動複写』でコピーして、『舎弟ズ』に持たせた。


「「「オジキ、あざーす!」」」


 全員がそう言って、目をキラキラさせながら俺に頭を下げた。


 オジキって……親分と呼ぶなとは言ったけど……なんでそこからオジキに飛ぶわけ……?

 もうこの人たちの思考回路が意味不明なんですけど……。

 ……考えたら負けだな……無視!



 この『魔法の竹光 脇小太刀』は、念のために『チーム義賊』のみなさんにも渡すことにした。

 そして子供たちの剣の訓練用にもちょうどいいと思ったので、子供たちの分も用意した。

 まとめてスカイさんに渡して、後で配ってもらうことにしたのだ。


 ここの子供たちに、無理矢理剣術を教えるつもりはないが、もしやりたい子がいるなら教えてあげた方がいいと思う。

 この世界では、自衛する力があった方がいいからね。

 スカイさんは元衛兵で剣術の基礎があるから、いい先生になってくれるだろう。


 ナビーが作った『魔竹の刺又さすまた』も、かなり優秀な捕縛道具だと思う。

 威圧感が出ないように、可愛いピンク色とかに塗って『フェアリー商会』の警備スタッフに持たせてもいいかもしれない。


 ……というか、ピグシード辺境伯領で衛兵の捕縛道具として採用してもらえないかなぁ……今度アンナ辺境伯に提案してみよう!


 一応、この屋敷にもいくつか置いておこうと思っている。


 長さが二メートル以上あるので、普段持ち歩くのは厳しいけどね。


 まてよ……この刺又……折りたためないかな……

 折り畳み傘みたいに……棒状のところが収納しながら、短くなるようにできないだろうか……。

 胴体に当てるU字型のところも、折りたたんで邪魔にならないようにできれば、持ち歩けるようになる。


 サイズの違う『魔竹』をいくつか組み合わせれば、うまく収納して短くすることができる気がするが……。

 普通なら強度が落ちるところだろうが、『魔竹』の性質上魔力を通すと強度が上がるから、大きな影響なく作れるかもしれない。

  後でナビーと相談してみよう!


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