400.炊き出しを、やろう。
いよいよ『炊き出し』が始まった。
第一回目の『炊き出し』は、焼肉にした。
この街は港町で魚介類は豊富だが、肉は保存の問題もあり、それほど豊富ではないらしい。
干し肉はともかく生肉は、俺がいなくなると出せなくなる可能性があるので、俺がいるうちは肉を出すことにしたのだ。
焼くだけだから、調理もすごく簡単だしね。
俺の『波動収納』には、様々な魔物が大量にストックしてあるので、いろんな肉があるのだが……この前迷宮探索の時に、ナビーが倒した猪魔物を使うことにした。
肉串にして振る舞うことにしたのだ。
『舎弟ズ』の一部と子供たちが下町エリアを回って、告知をしてくれている。
まずは焼肉のいい匂いに釣られるように、近くにいた人が集まってきて、その後は告知の効果もあってどんどん人が集まってきた。
倉庫の前の空きスペースでは足りず、倉庫の中でも肉を焼かなければならない状況になった。
倉庫は両側に扉がある開放型なので、なんとか煙まみれにならずに済んだが、やはり完全にオープンな広場とは違って、『炊き出し』をする場所としては、ちょっと微妙だ……。
現時点で五十人を超えているので、昨日保護した子供たちを入れるとすでに百人を超えているのだ。
こうなってみると……この場所は思ったよりも狭い……。
ただこの倉庫のいいところは……日陰になるので、日差しが強いときには過ごしやすいのだ。
それに、もし雨が降ったときでも『炊き出し』を休まずに済む。
まぁこの世界では、日中に雨が降ることはほとんどないのだが。
最初はこの建物をなくして更地にしようかとも思ったが、そんなこともありそのままにしたのだ。
『舎弟ズ』はスカイさんの指示の下、足の悪いお年寄りのために木の板で簡易的な長椅子を作って優しく誘導している。
お年寄りが泣きながらお礼を言うと、『舎弟ズ』たちはぽろぽろと涙を流していた。
妊婦さんに、優しくしている奴もいる。
なんかあいつら……本当にいい奴になってきてる……。
なんか……涙を流す度に浄化されていっているような気がする……。
このまままっすぐに育ってくれればいいのだが……。
間違っても昨日みたいに、『愛の竹棒』を期待するような変態野郎にはならないでほしい……。
集まってきた人たちを見ると、体を悪くしている人や怪我しても治療ができずにいるような人、疲弊しきっている人が多いようだ。
俺は、災害救援時用にストックしてある配布用の『身体力回復薬』と『気力回復薬』を配って、その場で飲ませた。
みんな悪いところが治って、元気になった。
お腹も満たし、活力も得ただろう。
多くの人は、泣きながら感謝してくれた。
「俺……人に感謝されたことなんか……なかった……」
「ありがとうって言われた……」
「手を握られた……」
「俺は……生きててよかった……」
集まってきた人たちから感謝の言葉をかけられた『舎弟ズ』が、そんなことを言いながらみんな嗚咽している。
鼻水も出て……もうぐじゃぐじゃだ……。
彼らが一番泣いていたので、近くにいた人たちがドン引きしていた。
そこにナビーがきて……
「泣いている場合ではありません。肉の焼き方も覚えなさい」
そう言いながら『愛の竹棒』で優しく『舎弟ズ』の頭をコツンと叩いた。
すると……叩かれたやつは……やっと主人に遊んでもらえる子犬のようなつぶらな瞳でニヤけた。
……やっぱり微妙にやばいかもしれない……彼らの健全な成長のためには……むしろ『愛の竹棒』は、なしにした方がいいのではないだろうか……。
まぁとにもかくにも、第一回目の『炊き出し』は、無事に、そして大盛況で終わることができた。
おそらく百人以上の人たちが来てくれたと思う。
本当はもっと『炊き出し』がやりやすい広い場所があるといいのだが……。
一応、この近くにそういう物件が売りに出ていないか、『商人ギルド』の受付嬢のジェマさんに調べてもらうことにした。
まぁ贅沢を言ってもしょうがないから、しばらくはここでいいけどね。
『炊き出し』が終わった後、保護した子供たちと、集まってきた街の子供たち、そしてお年寄りたちが中心になって、食後の運動として体操が始まった。
リリイとチャッピーが先生になって、『護身柔術体操』を教えているのだ。
これから毎日『炊き出し』をやった後に、『護身柔術体操』をやったらいいかもしれないね。
俺たちはそう長くこの街には居られないので、『炊き出し』のやり方や『護身柔術体操』もスカイさんたちや『舎弟ズ』に覚えてもらわなければいけない。
そこで、ナビーによる『舎弟ズ』に対する『護身柔術体操』のスパルタ教育が始まった。
『舎弟ズ』は、昨日見せていたのと同じ……恐れと喜びが入り混じった変態な眼差しで、一生懸命練習していた。
せっかく一生懸命やっているのに……眼差しが変態すぎて……全然共感できないし、褒めてあげる気もなくなってしまう……。
……やっぱりこのままでは、まずいかもしれない……。
青春ドラマみたいにいい感じで、更生してきているのに……『ミノタウロス』のミノ太みたいな変態要素が混じり合ってきている……やばい!
俺たちは、やっぱり早めにこの街を出て、後はスカイさんの適正な指導に期待するしかない……。
◇
午後になって、俺は屋敷で保護した子供たちと遊んでいる。
ニアさんも、自由に飛びまわっている。
ニアは目立つので、この街では大人しくしてもらっているのだが、屋敷の中なのでいいことにした。
保護した子供たちも、もう身内みたいなもんだしね。
それにスカイさんと一緒にいた子供たちは、みんなニアのことを知っているわけだし。
そんな感じで、人型でない仲間たちも解禁して自由に動きまわっている。
ちなみに『エンペラースライム』のリンちゃんと『ミミックデラックス』のシチミは、人型になって子供たちと無邪気に遊んでいる。
『スピリット・オウル』のフウは、上空からこの周囲を探索したいと言って飛んでいってしまった。
『竜馬』のオリョウは、子供たちを背に乗せて遊んでいる。
『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラと『スピリット・タートル』のタトルも子供たちと楽しそうに遊んでいる。
『ワンダートレント』のレントンは、花売りをしていた少女デイジーちゃんと、お花畑でなにやら話し込んでいる。
最初にレントンを紹介したときには、子供たちは全員腰を抜かすほどの衝撃を受けていたが、すぐに目を輝かせてレントンに話しかけていた。
特にお花が好きなデイジーちゃんは、レントンのことが気に入ったようだ。
改めてレントンとシチミがお花畑を作ってくれたことを教えてあげたので、デイジーちゃんは二人に感謝していた。
デイジーちゃんは、ほんとにお花が好きなようで、花に向かってよく話しかけている。
「綺麗に咲いてくれてありがとう」とか「お水をあげるね」とか、まるで友達に接するように話しかけているのだ。
摘み取るときも「切ってごめんね」「その綺麗な姿でみんなを幸せにして」と言いつつ摘んでいるらしい。
俺も今朝そうやって話しかけている姿を見たが、話しかけられた花たちは、なんとなく嬉しそうな感じでちょっと揺れた気がした……。
というか、生命波動が高まっているような気がした。
まぁ気のせいかもしれないが……。
俺も元の世界で農業をやっていたわけだが、ハウスの中の作物に音楽を聞かせて育てているという農家もいた。
家の中で育てる観葉植物や切り花に、愛情を持って話しかけてあげると元気に育ったり長持ちするという話もあった。
科学的に証明されていることではないかもしれないが、俺は農業をやっている者の直感として、そういう効果は絶対にあると思っていた。
特にここは何でもありの異世界なんだから、お花と心を通じ合わせることができても、おかしくないと思う。
レントンが言っていたがデイジーちゃんは、ユーフェミア公爵と同じで植物に好かれる何かを持っているらしい。
レントン自身もデイジーちゃんのことが大好きだし、普通の植物もデイジーちゃんに好意を持っているとレントンには感じ取れるそうだ。
中央通りに面した店舗用物件は、場合によってはお花屋さんをやってもいいかもしれないね。
せっかくいい場所に物件があるんだから、うまく活用できればいいと思う。
まぁ落ち着いてからでないと難しいだろうけどね。
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