384.移民、募集。
みんなが起きてきたところで、朝食を食べながら俺は一つの相談をした。
それは『マナゾン大河』沿いの都市『イシード市』についてだ。
ヘルシング伯爵領の港町『サングの街』の賑わいを見て、この領の復興を早めるためには、人や物の流通の拠点となる港が重要だと痛切に感じたのだ。
そこで、『イシード市』の復興の着手を早めることができないかという相談をしたのだ。
少ない人的資源を集中するために、復興は『領都』と『ナンネの街』に集中させた。
無傷だった『マグネの街』を含めて三カ所に移住してもらい、人的資源を集中させたのだ。
これが落ち着き軌道に乗ったら、次には『イシード市』の復興に取り掛かることになっていた。
それを少しでも早める方法はないかという相談なのだ。
だが……普通に考えれば、今すぐというのは、かなり厳しいのはわかっている。
『イシード市』の住人で生き残っていた者もいるが、わざわざ『領都』や『ナンネの街』に移ってもらい、やっと落ち着きだした頃に、また戻ってくれなんて言えるはずもない……。
住人がいないのでは、復興もなにもない。
つくづく思ったが……街というのは、人がいて初めて成り立つものなのだ。
「確かに、港町があった方が人も物も動きやすいのは確かです。これからの発展を考えれば、次の復興場所は当初から予定していた通り、大河沿いの『イシード市』がいいでしょう。ただすぐには、衛兵や文官を配置することは難しい状況です。募集をかけてだいぶ増えてはいますが、一人前になってからでないと役目を果たせないでしょう」
アンナ辺境伯が、悩み顔をしながらそう言った。
予想していた答えではあるが……。
やはり、すぐにいい案は出ないよね……。
「……そうですよね……。やはりすぐには難しいですよね……」
俺もこんな感じの相槌しか打てなかった……。
「王国内では移動は自由ですから……移民を募集するという手もありますが、今のこの領の状況では治安に不安を抱いて、応募しないでしょうね……」
第一王女で審問官のクリスティアさんが、そう言いながら視線を落とした。
確かに……悪魔に襲撃された領だし、『正義の爪痕』なんていう犯罪組織も活発に活動しているところには、好き好んでくるような人はいないだろう。
ただ国内での移動が自由で、移民を募集してもいいというのは嬉しい情報だ。
なにか移民を集める方法はないだろうか……。
どこの場所にも現状に不満を抱えている人はいるだろうし、夢を求めて新天地に行きたいという開拓者精神溢れる人もいるはずだ。
そんな人たちを呼び込む方法が、ないだろうか……。
待てよ……『マグネの街』に逃げてきた人たちもそうだし、『領都』や『ナンネの街』に移ってきた人たちもそうだが、俺が作った仮設住宅を提供されてみんなすごく喜んでいた。
元の住居よりも、遥かに立派だと言っていた人もかなりいた。
「例えば……移民してくれた人には、住宅を無料で提供するというような特典をつけて募集してみてはどうでしょう!?」
俺はダメ元で提案してみた。
「うーん……そうですわね……。さすがに住宅をあげてしまうと……今の領民との間で不公平が生じますね。十年間無償で提供するというのはどうでしょう? もしその後、継続して住みたい場合は格安で借りることができるという保証をしてあげれば、不安も少なくなるのではないかしら。十年間の無償、その後の格安継続……これだけでも充分メリットはあると思いますわ。それから……三年間は税金も免除しましょうか! 復興していなかったと考えてしまえば、無理に税金を取る必要はありません。それよりもまずは、民を豊かにすることが大事です!」
おお! アンナ辺境伯が賛同してくれた。
しかも……的確で深い!
俺はあまり深く考えていなかったが、さすが為政者だ。
既存の領民との間に不公平が出ないようにという配慮と、税金の免除まで考えるとは……。
でも税金の免除って……これも不公平になるんじゃないだろうか……まさか全領民ってことはないよね……?
「アンナ様、住宅の件はそれでいいと思いますが、税金はどうなさるのですか? 不公平が出ないように、全領民に対して三年間免除するというわけにはいかないと思いますが……」
「いえ、そうしようと思います。実は税金の免除は、考えていたことではあるのです。なによりも民を豊かにし、領の復興を早めることが大事です!」
ええ……ほんとに……
アンナ辺境伯……めっちゃ男前じゃないか! そしてなんて素晴らしい為政者なんだ!
俺的には……感動しちゃって…… もう……ついていきます! って感じなんですけど……。
でもなぁ……
「それでは、ピグシード辺境伯家が持たないのではありませんか? いくら蓄えがあるとはいえ、三年間税収がないというのは……。軍や役人を養い、王国にも税金を収めなければいけないと思いますが……」
「そうですわね。初代様から六百年にわたって蓄えてきたピグシード家の資産が、全てなくなってしまうかもしれませんわね。それでも構いません。大事なのは民です。それに私には……勝算があるのです。グリムさんの提案で、荘園をピグシード家の直営にしました。そこでしっかり収益を上げて、役人を養う分くらいはなんとかしたいと思っています。商売上手な領主になろうかと思っておりますの! そんな希望を抱けるのもグリムさんのお陰です。今後も協力していただけますわよね?」
「もちろんです。全力でサポートします! 今の荘園で更に収益を上げるアイデアもあります! 前にも話したようにワインやオリーブオイルで、独自の素晴らしいものを作って、国中で引っ張りだこになるようにします!」
俺は、アンナ辺境伯の心意気に感動してしまい、思いっきり力が入ったことを言ってしまった。
まぁ言っちゃったからにはやるけどね……というか、元々やるつもりではいたからね。
「素晴らしいですわ。さすがアンナ様です。私、感動いたしました。これぞ領主のあるべき姿です! 王国に納める税金を三年間免除できないか、父である国王にお願いしてみますわ。領主が税を免除しているのに、国王がそれを支援しないなんておかしいですもの」
クリスティアさんが、少し涙ぐみながら言った。
クリスティアさんも男前だ……。
「アンナ様、『フェアリー商会』はしっかり税金を払うつもりです。領の役に立ちたいと思っています。税金は三年間は免除にしつつ、払う意思のある者からは納税してもらうということにしてはどうでしょうか? そうすれば、心意気で払ってくれる商人などもいるかもしれません」
俺は、少しでもピグシード家の負担を減らすために、そんな提案をした。
「それがいいですわ。アンナ様」
クリスティアさんも賛同してくれた。
「アンナ様、そうさせていただきましょう」
「確かに、免除を原則として、協力してもらえる領民や商会には払ってもらいましょう。場合によっては、それを領への貢献として表彰してもいいかもしれませんわね」
セイバーン公爵家次女で執政官のユリアさんと三女で『ナンネの街』の代官のミリアさんも、賛成してくれた。
「そうですわね。では、そのようにいたしましょう」
アンナ辺境伯はそう言って、紅茶に口をつけた。
「できれば……もう少し何かほしいですわね。領で仕事を斡旋するというのも入れましょうか」
「いいですわね。あともう一押し……なにかワクワクするものはないかしら……」
ユリアさんとミリアさんが、そう続けた。
もっとアピールポイントがほしいということか……
「美味しいものがいっぱいあるって教えてあげればいいのです! みんな引っ越したくなるのです! ミネの一族だって、引っ越していいならすぐに引っ越しちゃうのです!」
『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが、無邪気にそんな発言をした。
他の子たちは、大人の話に気を使いあまり口を挟まないのだが、ミネちゃんは関係なく無邪気な発言をしたのだ。
でも目は真剣そのものだ。
「そうですわ。こんなに美味しいものがあるって知ったら、人が集まります! 永住するかどうかはともかく、旅行にきてくれるかもしれません!」
今度は人族の天才少女、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんが、そう言った。
「なるほどですわ……。移民を募集するときに、この領の特産品や美味しいものも一緒に伝えてみよう。移民だけでなく、旅人や行商人なども増えるかもしれませんわね」
クリスティアさんが、手を叩いた。
確かに、移民の募集のついでに、旅人や行商人を増やせる告知ができたら効率的だ。
移民募集作戦がうまくいけば、『イシード市』の復興が早くできそうだ。
なんとしても成功させたい。
この件はアンナ辺境伯とユリア執政官でさらに詰めて、募集の告知を王国全域でしてもらえるように国王に嘆願するとのことだ。
もちろん第一王女のクリスティアさんも、全面的に支援してくれるとのことだ。
まぁ支援といっても……父親である国王に対してゴリ押しすることだろうけどね……。
俺としても、もっとアピールできるなにかがないか考えてみようと思っている。
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