385.ヘルシング伯爵家の、歴史。

 復興を早めるための施策として、移民募集を行うことが決まり、心が晴れやかになった。


 子供たちは、朝食を終えて遊びに行ってしまった。

 この秘密基地『竜羽基地』の『格納庫ブロック』の中心にある円形広場には、大きな通路が接続されている。

 その通路は、『ナンネの街』に続く地下道と繋がっているのだ。

 子供たちは、食後の運動がてら、探検に行くと張り切って出かけていったのだ。

 リリイ、チャッピー、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃん、人族の天才少女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃん、ピグシード家の長女ソフィアちゃん、次女タリアちゃんの六人だ。


 探検するといっても……ただの地下道でしかないと思うのだが……。

 ただ、もしかしたら地下道から派生した小部屋などがある可能性はある。

 俺も完璧には確認していないからね。


 まぁ楽しければいいだろう。


 食堂に残った大人メンバーは、ゆっくりお茶を楽しんでいる。


 俺は、改めてヘルシング伯爵家について尋ねてみた。

 これから本格的にヘルシング伯爵に面会に行くのだから、より詳しい情報を頭に入れておきたかったのだ。


 クリスティアさんとアンナ辺境伯によると、現在の伯爵はバラン=ヘルシングといい七年前に爵位を継いだそうだ。

 現在三十五歳で、妻が一人と娘と息子がいるようだ。

 妻が一人というのは、この世界では、血を絶やさぬために一夫多妻制が認められているからだ。

 夫人を複数娶る貴族が多いようだが、ヘルシング伯爵は一人のようだ。

 ちなみにピグシード家もセイバーン家も一人のようで、第二夫人はいないらしい。


 ヘルシング伯爵傘下の貴族は、子爵家が二つ、男爵家が四つ、準男爵家が五つ、騎士爵家が五つ、名誉騎士爵家が五つとなっているそうだ。

 夫人は、子爵家の一つであるスニク子爵家の出身らしい。

 もう一つの子爵家クルース家の当主が執政官として、伯爵を補佐しているとのことだ。


 前にも聞いたがヘルシング家の嫡男以外の者は、『ヴァンパイアハンター』として活動することになっているらしい。

 もっとも現在は、ヘルシング家では伯爵の妹さんしか生き残っていないらしい。

 その妹さんも、国を離れて『ヴァンパイアハンター』として活動しているらしい。

 命を落とすことをいとわず戦う勇敢な家系のようだ。


 悪い吸血鬼が出現してしまうと、簡単に数を増やしてしまうので、犠牲者が拡大してしまう。

 それを抑えているのが、『ヴァンパイアハンター』ということで、国という概念を超えた人類への貢献をしていると言えるだろう。

 ヘルシング伯爵家は、ピグシード家よりもその歴史が古く、約千年前から領地を収めているようだ。

 コウリュウド王国の歴史が約千二百年だったはずだから、かなり初期からコウリュウド王に仕えていることになる。

 ちなみにピグシード家は約五百年前に興ているので、コウリュウド王国の中では歴史の浅い家柄といえるようだ。

 俺の感覚では、五百年も続くのは凄いことだと思うが……。

 初代ヘルシング伯爵は、初代ピグシード辺境伯と同じように逸話になっていて、英雄譚が語り継がれているそうだ。

 当時のコウリュウド王と友情をはぐくみ、安息の地として領地を保証されるとともに、国を超えた『ヴァンパイアハンター』としての活動も認められたようだ。

『吸血鬼の侵食』と呼ばれた動乱から、コウリュウド王国を救ったのだそうだ。


 『ヴァンパイア』の真祖と言われる存在から、悪に落ちた『ヴァンパイア』を狩る能力を授かったらしい。

 もともと初代ヘルシング伯爵は、妊娠していた女性が吸血鬼化され、その後に生まれた赤子だったらしい。

 人として生まれたが、優れた身体能力と『ヴァンパイア』に対する特殊な体質を持っていたようだ。

 それは『ヴァンパイア』に特効攻撃ができる特殊な体質で、普通のパンチでも『ドワーフ銀』での攻撃と同じくらいのダメージと、回復阻害効果を与えられるとされているそうだ。

 そこにさらにヴァンパイアの真祖と、『血の盟約』という特別な契約を交わし特殊能力も授かったらしい。

 ヘルシング伯爵及びその血を受け継ぐ者が、『ヴァンパイアハンター』として活動するとき、真祖の力の一部が宿ると言われているようだ。

 また、ヘルシング家の直系の『ヴァンパイアハンター』には、鍛錬次第で特別な必殺技も発現するらしい。


 配下の貴族たちの中では、二つの子爵家である『クルース家』と『スニク家』も『ヴァンパイアハンター』の家系とのことだ。


 それ以外の貴族たちは、『ヴァンパイアハンター』の家系ということではないが、勇敢な家系が多いようだ。

 鍛錬して『ヴァンパイアハンター』になる者や『ヴァンパイアハンター』の従者として補佐する者もいるらしい。


 この話を聞いてつくづく思ったが、そんな勇敢な貴族の多い領内で吸血鬼がまともに活動できるなんておかしすぎる……

 やはり何かが起きていると考える方が自然だろう。

 前にもアンナ辺境が言っていたが、ここのところ急にヘルシング伯爵領の評判が落ちているということだから、やはり何かあったと考えるべきだろう。


 改めてアンナ辺境伯からは、充分注意するようにと言われた。


 貴族の爵位を持っているとはいえ、最下級の名誉騎士爵だから、上位の貴族に無礼討ちされる可能性もゼロではないとのことだ。

 最下級貴族とはいえ貴族なので、普通は無礼討ちはないようだが、理論上はあり得るらしい。

 授爵のときに授かったピグシード家の紋章が入った短剣を、身分の証とするように言われた。

 一応貴族としての身分証もあるのだが、主君より授かった短剣を見せるのが一番効果があるようだ。


 まぁ今回はアンナ辺境伯からの特別の親書があって、ピグシード家の紋章が刻んであるから、それを出せば取り次いでくれるだろうし、ヘルシング伯爵も直接面会をしてくれるだろう。





  ◇





 しばらくして、子供たちが食後の運動というか探検から帰ってきた。


 それはいいのだが……


 不思議な動物を連れている……


 これって……なんとなく俺が知ってる昆虫の『おけら』に似てるけど……

 ただでかい……大型犬くらいのサイズがある。


『波動鑑定』してみると……虫馬ちゅうまの一種のようだ。

『ケラケラ』という笑っちゃいそうな名前の虫馬のようだ。


「地下道にいたのだ。お友達になっちゃったのだ」

「仲良くなったなの〜。ついて来ちゃったなの〜」

「この子は、穴が掘れるのです! すごい穴掘り屋さんなのです!」

「本で見たことがあります。『ケラケラ』という土の中を進める珍しい虫馬です」

「おとなしくて可愛いんです」

「お城のピーちゃんたちみたいに、友達になりたいです」


 リリイ、チャッピー、ミネちゃん、ドロシーちゃん、ソフィアちゃん、タリアちゃんがそれぞれに言った。

 お城のピーちゃんとは、ソフィアちゃんとタリアちゃんの警護要員で『ペット軍団』というか見守りチームの『オカメインコ』のピーちゃんのことだ。


 お友達になりたいって言っても……この子は、すでに俺の『使役生物テイムド』になっていた。

 さっき『波動鑑定』したときに……『状態』に『グリムの使役生物テイムド』と表示されていたからね。

 俺がテイムしたわけでもないし、俺が勧誘したわけでもないが、俺の『使役生物テイムド』になっている。

 相変わらずよくわからないシステムだ……。

 まぁ今に始まったことではないから、今更考えてもしょうがないけどね。


 本当なら、『虫使い』のロネちゃんの『使い魔ファミリア』にしてあげたかったけどね……。

 まぁ今はロネちゃんも俺の仲間だから、無理に『使い魔』にしなくてもいいかもしれないけどね。


 俺はみんなに分からないように、念話で話しかけてみる。


(やあ、俺はグリム。仲間になってくれたのかい?)


(はい。ご主人様。ぽかぽかする暖かい光を感じて、穴を掘ってきたら大きな地下道に出たのです。そこでリリイちゃんたちと出会ったのです。友達になろうと言っていただいたので、喜んで仲間に加わらせていただきました)


(ありがとう。これからよろしくね)


 俺は改めてこの珍しい虫馬を歓迎した。


 名前はリリイたちで、ケラリンとつけていた。


 穴掘りが得意なようだから、この秘密基地のちょっとした整備に活躍してくれるかもしれない。

『土使い』のエリンさんや『マナ・ホワイトアント』たちを呼べば、拡張も修繕もすぐにできるが、ケラリンがいてくれれば、ちょっとしたことでわざわざ呼ぶ必要もなくなりそうだ。


 ということで、俺はケラリンをこの秘密基地のメンテナンス係に任命した。

『ケラケラ』はとても綺麗好きらしく、お掃除もしてくれるらしい。


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