383.蜂魔物の、価値。

 迷宮の入り口の偽装も終わり、俺は少し離れたところにサーヤの転移先として登録済のログハウスを設置した。


 あとはサーヤに来てもらって、転移で帰るだけだが……ちょっとだけ確認しておこう。


 外で魔物を倒していた俺の愛機というか、愛馬というか、愛飛竜のフジと、相棒の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビー顕現体が、凄まじい数の魔物を倒していた。


 ただ、そこはナビーで、魔物の数が大きく減ってしまうと、この迷宮の入り口が危険にさらされるので、かなり抑えたようだ。


 魔物は、浄化された魔物である『浄魔』にならないと仲間にすることができないが、天然の防衛網といったところだ。


 それにしても凄い数だ。

 ナビーは、俺のスキルが全て使えるので『波動収納』で収納できたはずだが、山にして積んである……俺に見せたかったのだろうか……。


 すっきりしたような満足げな顔をしているが……

 この人……バトルジャンキーじゃないよね……?

 ナビーは俺自身なはずなのに……ドSだし……バトルジャンキーかもだし……俺の隠された一面ってこと?


 さっき大群で襲ってきていた蜂魔物『イビル・キラービー』が山になっている。


 俺は、その山を『波動収納』に回収した。


 ……三百十二体ってなによ!?


『波動収納』に回収すると、『イビル・キラービー』の死体は多少の個体差があっても、同一種類のものとしてカウントされるのだ。

 その表示が三百十二体だった……めちゃくちゃでしょうよ!


 そんな俺の心の叫びは……いつものようにナビーには筒抜けだ……


「これでも十分手加減いたしました。致命傷を与えずに制圧した個体が約七百体あります。もちろん女王と思われる個体は、無傷で眠らせてあります。三百体程度減っても、またすぐに増えるでしょう。この規模の魔物の集団は貴重ですので、十分配慮いたしました。迷宮の入り口を守る天然の戦力としてちょうどいいと思われます。レベルは二十台がほとんどですが、レベルの割にはかなり強い魔物と思います」


「なるほど……さすがナビーだね」


 俺はそう言って、苦笑いするしかなかった……。


「それよりもマスター、この迷宮入り口周辺の巡回はどういたしますか? いつも通りスライムたちに頼むことも可能ですが、この蜂魔物は攻撃性も高く、常に争いになる可能性があります」


 ナビーが問題提起してくれた。

 なるほど……あまり深く考えていなかったが……

 レベルが上がっているスライムたちが、簡単にやられることはないと思うが……蜂魔物の集団に襲ってこられたら、面倒くさいよね。

 俺の仲間たちのように、蜂魔物が仲間にできればいいが、『浄魔』にならない限りは無理だしね。


「うーん……難しいね。ナビーは、なにかアイデアはあるの?」


「『正義の爪痕』などの人族の悪者に利用されなければいいという考えであれば、あえてこの入り口付近は巡回しなくていいかと思います。周辺の魔物が少ないエリアを巡回してもらい、そこに近づく人族がいた場合に、連絡をしてもらうという程度でいいのではないでしょうか」


「そうだね……じゃぁ、それでいこう」


 俺は、この周辺のスライムたちに念話を入れて、今の件を話した。

 このセイバーン公爵領内の候補エリアも広範囲なために、今はスライムたちがこの近くを巡回していなかったので、念話を入れたのだ。



 前に『家精霊』のナーナが言っていたが、蜂魔物は素材としても価値が高いらしい。

 針や牙顎は武器の素材として、かなり優れているようだ。

 手足も素材として使えるし、羽根も使えるらしい。

 そして肉が食べれ、結構美味しいそうだ。

 栄養価も高く、滋養強壮にいいとのことだ。

 そして蜂蜜は、超絶に甘くて美味しいらしい。

 普通の蜂蜜よりも栄養価が高く、少しだが魔力回復効果、スタミナ力回復効果、気力回復効果もあるそうだ。

 精力剤としての効果もあるとのことだった。


 ナビーとフジは、蜂蜜も大量に持って帰ってきていた。

 巣の一部を切り取ってきたらしい。


 巣は、地上に露出しているところだけでも十メートル四方はありそうな超巨大な塊だったらしい。

 そのほんの一部を切り取ってきたとのことだ。

 確かに、人間サイズの蜂魔物が千体くらい居る巣だから、超巨大だろうね。


 そして、巣からは『メガプロポリス』という薬用成分が取れるらしい。

 普通の蜂の巣でも、一部の種類に限られるが『プロポリス』という栄養成分がとれる。

 それの強化版みたいな感じなのだろう。


 様々な薬や魔法薬の原料になるようだ。

 冒険者の間では、蜂魔物は素材が高く売れておいしい魔物と言われているが、その巣はさらに凄いらしい。

 もし蜂魔物の巣を手に入れることができたら、大金持ちになれると言われているそうだ。

 それは、『蜂蜜』と『メガプロポリス』が手に入るからだろう。

 蜂魔物の巣を狙って命を落とす冒険者もいるらしい。


『メガプロポリス』には、抗菌作用、抗炎症作用、抗ストレス作用、鎮痛作用、麻酔作用がある。

 水で薄めて肌に塗ると、肌がつやつやになる美肌効果もあるらしい。

 また歯磨き粉としても使え、歯がピカピカになるようだ。

 こちらの世界の歯磨きは、木の枝で磨くのが一般的なのだ。

 柔らかくて、大きな爪楊枝みたいな感じの枝だ。

 歯磨き用に使える木が何種類かあって、その枝は柔らかく、抗菌作用もあったりするのだ。

 俺が気に入って使っているのは、『ニームの木』の磨き枝だ。

『ニームの木』は元の世界にもあったが、おそらくそれとほぼ同じものではないだろうか。

『ニームの木』には虫除け効果もあり、蚊も寄りつきにくくなるので、愛犬の虫除け対策などでホームセンターにも売っていた。俺も育てていたのだ。

 ちなみに、ほとんどの人は歯磨き粉は使っていない。

 というか、歯磨き粉というものが存在していない。

 磨き枝の成分で、磨いている感じなのだ。

 裕福な人は、塩を歯磨き粉がわりに使ったりしているようだ。

 今度『フェアリー商会』で、歯磨き粉でも作ろうかなぁ……


  ナビーとフジは、他にも猪魔物五体と熊魔物の三体を倒していた。


 そして俺たちは、サーヤを呼んで秘密基地に転移した。


 まだみんな寝ていてくれたようだ……よかった。






  ◇






 『正義の爪痕』の『血の博士』直属の急襲部隊『ブラッドワン』のアジトの一室。


「なに! ファームが壊滅したというのか……」


 報告を受けた『血の博士』こと『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』が驚きの声を上げた。


「はい。蝙蝠に変化して見て参りましたが、中はもぬけの殻です。捕らえていた者どもも、下級も、管轄していた『ブラッドワン』の同胞四名もいなくなっておりました」


『ブラッドワン』の斥候が、跪いたままそう答えた。


「やはり『薬の博士』と『武器の博士』はやられたようだなぁ……。使えぬ奴らだ。奴らが持っていた転移の魔法道具の登録先になっていたからなあ……。もう一つの転移先、『道具の博士』の弟子を配置したアジトも、もうやられているだろう……。思ったよりも、かなり動きが早い。やはり妖精女神とその一行なのか?」


「はい。それ以外に、これほどのことができる者がいるとは思えません」


「このアジトも、見つかるやもしれんなぁ……」


「どういたします?」


「ふふ、このヘルシング伯爵領では、領主に無断で派手な動きはできまい。襲ってくるとしても、少数での奇襲だろう。迎え撃つ体制を作っておけ! 状況によっては、あの薬を使うこともやむを得ないぞ!」


「わかっております。そのときは、躊躇しません。皆光栄に思うことでしょう」


「私はしばらく、ここには来ない。好きに暴れろ! 事後のことは、どうとでも処理してやる。それにこの領には、もうまともな『ヴァンパイアハンター』もいない。多少目立っても構わんよ。いい報告を待っているぞ」


「はは。ところで、例のスキル持ちはどういたしますか? 念のために吸血鬼化しますか?」


「いや待て、あのスキルは特殊だ。吸血鬼化してしまうと、どういう影響が出るかわからん。今まで通り血を採取して、矢を作る材料にしろ。それから吸血用の人間どもには、例の薬を仕込んでおけ! そして人質として使え。一番効くやもしれぬなぁ……」


 『血の博士』は、嗜虐の笑みを浮かべながら、アジトを後にしたのだった。


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