381.トランクの中は、箱庭。
俺は、今回こそは忘れずに訊いた! 全部で何階層あるのかと!
「この『プランター迷宮』は、地上十階層、地下三十階層になります」
おお……全部で四十階層もあるのか……。
まぁ迷宮としては、小規模なんだろうけどね。
でも機能特化型のテスト用迷宮としては、かなりの規模だと思うが……。
この人造迷宮のモデルになっている『ミノタウロスの小迷宮』は、公式だと三十階層、実際には三十五階層の小規模迷宮だ。
やはり『テスター迷宮』の姉妹迷宮たちは、それと同規模で作られた迷宮なのだろうか……。
『テスター迷宮』のダリー、『アイテマー迷宮』のダリスリーには、再起動復旧モードが完了するまで連絡が取れないから、訊くことはできない。
一時休眠モードの『イビラー迷宮』のダリツーには連絡はできるが、わざわざ尋ねる必要もないだろう。
姉妹シリーズなんだし、多分同じような規模だろうからね。
改めて迷宮を稼働させるときに、確認すればいいよね。
それよりも……さらっと地上十階層と言っていたが……ないよね地上部分?
『テスター迷宮』にはかろうじて地上二階層が残っていたけど、『イビラー迷宮』も『アイテマー迷宮』も地上部分はなくなっていたからね。
「今は……地上部分は、ないんだよね?」
「いえ、存在しています。階層封鎖も維持されています」
ファイちゃんは、断言した……
はて……地上部分はないと思うが……
そう思いつつ、より詳しく尋ねると……
なんと、実はあったようだ。
俺が入ってきたのは、地上十階層だったらしい。
もともとここは小山だったわけではないらしく、途中から小山ができて地上部分が覆い尽くされてしまったようだ。
おそらく休眠の早い段階で、何かの事情で土に埋もれて小山になってしまったのだろう。
そのお陰で、地上部分が誰にも発見されずに、無傷で残ったのかもしれない。
すべての階層は、階層封鎖がそのまま維持されているらしい。
おそらくだが、休眠期間中、誰にも一度も発見されなかったのではないだろうか。
この迷宮は、再起動中の他の迷宮よりも、再起動復旧モードが早く終わるかもしれない。
それからダンジョンマスターの特典というか権利として、やはり宝物庫のことが話題になった。
宝物庫は第一から第四まで四つあるようだが、『アイテマー迷宮』同様に、再起動復旧モードが完了しないと開かないようだ。
『イビラー迷宮』は全部で三つ宝物庫があり、かなりのお宝アイテムを得ることができた。
今回も、ちょっとだけ期待する気持ちはあったが……お預けのようだ……残念。
ただファイちゃんは、一つだけ渡せるものがあると言って、魔法のアイテムをプレゼントしてくれた。
それは、トランク型の魔法道具だった。
『波動鑑定』してみると……『箱庭ファーム』という名称だった。
そして『階級』はなんと……『
亜空間に、一時的な居住空間が作ってある特別な魔法道具らしい。
この魔法道具の性能で、太陽光や空気などが転送されているらしい。
それ故に、ある程度の期間なら、生物が暮らすこともできるようだ。
まるで、この迷宮でテストしていた機能を、凝縮したような魔法カバンだ!
樹木などを、大量に移植するために使っていた道具らしい。
動物の輸送にも、使えるようだ。
この機能は……魂のある生き物を収納できる魔法カバンみたいな感じだね。
俺の『波動収納』もそうだし『アイテムボックス』スキルや魔法カバンも、魂のあるものは収納できないことになっている。
でもこのトランクは、事実上それができてしまうということのようだ。
冷静に考えると……超絶に凄いわ!
ある意味……世界の
ただ、よくわからないけど……亜空間に生活環境を作ることができるなら、充分可能な技術なのかもしれない。
そういう意味では、魔法カバンというよりは、ゲートに近いのかもしれない。
亜空間に作った生活環境と繋ぐゲートだ。
魂のあるものは収納できないが、転移させることはできるからね。
まぁいずれにしても、超絶技術であることは間違いない。
この魔法道具だけが接続できる専用の亜空間を作っていることが……凄すぎるよね。
空間魔法や時空間魔法とかの達人になると、スキルでもできたりするのかな……。
そして、亜空間でしばらくは生活できるということだから、まさに箱庭と言えるかもしれない。
実際に生き物が住める箱庭なんて、凄い!
トランクの蓋を開いたら、縮小された映像で中の様子が見れたりしないかな……
俺はそんなことを思いながら、トランクの蓋を開けてみた。
開くと、トランクはL字型になって固定されるようだ。
なんとなく……ノートパソコンを開いたような感じだ。
中は……おお! ……箱庭だ!
トランクの中に、緑豊かな空間が広がっている。
ただ俺が思っている箱庭とは、ちょっと違う……。
かなり上空から見た感じだ……人工衛星からのマップ映像みたいな感じなのだ。
まるでスマホのマップアプリみたいだ。
ジオラマみたいな感じを期待していたけど……だいぶ違う感じなんだよね。
全体的に……緑の草原風で、山や川もある。
そして、家らしき小さな粒がいくつもある。
ファイちゃんが、使い方を教えてくれた。
『エリア表示』という
俺は、早速試してみることにする。
「エリア表示!」
トランクの蓋の部分、ノートパソコンでいったらモニターの部分に表示が現れた。
本当にパソコンのモニターみたいだ。
右側に縦長画面で、エリアの一覧が現れている。
ここから選択するようだ。
すごいなぁ……スクロール画面のようになっている。
『樹木仮植えエリア』というのが気になったので、そこを選んでみる。
すると、箱庭に平坦なエリアが現れた。
今までより格段に箱庭っぽい感じになった。
ファイちゃんの話によれば、この状態にして、移植したい樹木などをこのトランクに入れようとすると吸い込まれ、ここに仮植えされるとのことだ。
そして、このトランクを別の場所に運んで、樹木を出したいときは同様にこのエリアを表示して、樹木をつまんで取り出せるらしい。
『表示拡大』という
そして『大型ゲート』という
そこに家畜動物や野生動物など追い込めば、そのままこの箱庭の中に転送されるようだ。
この機能を使えば……人を一気に移動させることもできるかもしれない。
天変地異とかで、大量の人を避難させなきゃいけないときに使えるかもしれない。
最初はいまいち使い方が思い浮かばなかったが、説明を聞いているうちに、いろいろ思い浮かんできた。
収納型のスキルや魔法道具に入れることができない人や動物や生きた植物などを運べるのは、本当にすごいことだ。まさにチートな感じだ。
一時的な避難場所として使えそうなのもいい。
まぁ本当は……純粋な趣味として、箱庭として遊びたい感じだけどね。
ただ……自分が入るのはちょっと怖い……
もし箱庭に入って遊んでいるときに、この魔法道具を誰かに奪われたら終わる気がする……。
そういう意味では……試す気になれない……。
『
今度、時間があるときにやってみるか……。
他の姉妹迷宮の場所の情報も、念のため確認したが、やはりわからないようだ。
一通りの情報が聞けたので、俺はダンジョンマスターとして再起動復旧モードに必要な手続きを完了させた。
そして入り口に誰も侵入できないように、巨大な岩を置いて蓋をした。
その岩の上に、大量の草をかけて草原の一部に見えるようにする偽装も施した。
周囲にいたスライムたちも喜んで手伝ってくれたので、あっという間に完了させることができた。
このエリアのスライムたちには、この迷宮を中心に巡回してもらうことにした。
異常があったら、すぐ連絡してくれることになっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます