380.姉妹迷宮、発見!

 無事に『魔竹』を発見できたので、今度はこの近くに『テスター迷宮』の姉妹迷宮がないか探すことにした。


 この『魔竹』が生育している小山は、間違いなく魔素が濃い場所なので、この近辺にある可能性が濃厚だ。


 俺は『波動検知』で……迷宮をイメージしてみる……


 だが検知できない……。


 この近くにはないか、休眠状態で活動していないかだろう。


 ここはいつものように、なんとなく気配を感じることを期待するしかない……。


 俺はそう思いつつ……そして『財宝発掘』スキルが、活躍してくれるのを願いつつ……この周辺を歩きまわることにした。


 そうこうしているうちに、この周辺のスライムたちが俺の気配を感じて集まってきた。

 この子たちは、迷宮や遺跡がないか探してくれていたスライムたちなのだ。


「あるじだー」

「わーい、あるじ!」

「ぽかぽかあるじ!」

「「「わーい!」」」


「やあ、みんな。いつもありがとうね。やっぱりこの辺に、遺跡や怪しい場所はないかい?」


「うん、この辺、何回も通ったけど、なにもない」


 やっぱそうだよね……。


「他に何か気になることは、かなかった?」


「うーん……ないけど……。そういえば……あの山のてっぺんだけ木がない。草は生えてる」


 詳しく教えてもらうと、この『魔竹』がある小山の西隣の小山のてっぺんが、なぜか円形の草原になっていて、木が生えてないそうだ。


 なんか……めっちゃ怪しい……。


 これはもう確認に行くしかない。


 俺はスライムたちに案内してもらって、隣の小山のてっぺんに移動した。


 確かにてっぺんは平坦になっていて、そこだけ木が生えていない。草原のようになっている。


 円形スペースの広さは、ドーム球場一個分ぐらいある。

 これって……『テスター迷宮』シリーズの一階層の広さと、同じくらいじゃないか……

 もう完全にここだろ!


 直感的にも、そう感じる!


 ということで……『イビラー迷宮』を発見した時と同じように、『波動収納』からスコップを取り出して土を掘ってみる。

 飛竜のフジとスライムたちには、周辺を警戒しながら待機しているように命じた。


 三メートルくらい掘り進んだところで、岩盤のようなものに突き当たった。

 ……ここから入れるはずだ。


 ————ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ


 俺は岩盤のようなものを叩いてみた。


 できれば破壊したくないので、合図のような感じでアピールしてみた。

 もしこの迷宮が生きているのだとしたら、迷宮管理システムが気づいてくれるのではないかと思ったのだ。


 ————ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ


 再度叩いてみる。

 その時だ——


 ————ガ、ガガッ、ガガガガガーー


 おお……やはりここで間違いなかったようだ。


 岩盤の一部が左右に開いて、中に下り階段が見えている。


 俺は、早速その中に降りる。


 ちょっと様子を窺っていると……


 やはり来た!


 立体映像の女性が突然現れた。迷宮管理システムだろう……。


 これで四回目だからね……もう驚かないよ。


 『テスター迷宮』のダリーにそっくりな日本人顔だ。

 緑髪で白いマントに身を包んでいる。

 ダリーは黒髪、ダリツーは紫髪、ダリスリーは茶髪だった。


「私は『プランター迷宮』管理システムです。『プランター迷宮』は、『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮『錬金迷宮アルケミイダンジョン』のテスト用第五号迷宮です。我が姉妹迷宮のダンジョンマスター様、よくおいでくださいました」


 立体映像はそう言って、頭を下げた。


「俺はグリム、よろしくね。君が現れられたということは、この迷宮は生きている。そして休眠状態だったということだろう?」


 もう四回目だから、大体の見当がつく。


「ご明察の通りです。約二千年に及ぶ長い休眠状態にありました。機能もかなり損傷していると思われます。かろうじて稼働した限定的な情報収集機能で、なんとかあなた様の持つ姉妹迷宮のダンジョンマスターのコードを、確認することができました」


 なるほど、二千年の休眠というと……『テスター迷宮』や『アイテマー迷宮』と同じくらいだな……。

 ということは、この迷宮も再起動復旧モードに入らないとダメということだろうな……。


「それじゃぁ、再起動復旧モードに入らないとまずいっていうことだよね?」


「その通りでございます。ご協力いただけますか?」


「ダンジョンマスターになってほしいってことでしょう?」


「はい。できれば……」


 立体映像がすがるような目で見つめた。


 相変わらず……感情豊かで、素晴らしい立体映像技術だ。


「ぜひ、お願いいたします」


「わかった。いいよ」


 俺は即答で了承した。

 ダリーたちの妹のような存在だからね。

 ここだけ見捨てるなんてことは、ありえない。


 ということで、俺はこの『プランター迷宮』のダンジョンマスターとなって、再起動復旧モードの発動に協力することになった。


「再起動復旧モードに入る前に、少し質問しておきたいんだけどいいかな?」


 再起動復旧モードに入ると、もう連絡が取れなくなっちゃうから、最低限の情報は得ておきたいのだ。


「はい。お答えいたします」


「この迷宮は何のテスト用迷宮なんだい?」


「このテスト用第五号迷宮は、ダンジョン内での植物の生育テスト及び薬草などの有益植物の効率生産のテスト用迷宮です。植物の自然な生育環境を再現するためのテスト用迷宮でもあります」


 植物の生育環境の再現か……


 そういえば、『ミノタウロスの小迷宮』のミノタウロスたちの居住階層は、外と全く変わらない陽光溢れる場所だった。

 俺たちが合宿を行った迷宮下層にも、同じような階層があった。

 上層、中層にも同様の階層が組み込まれているという話だった。

 確か……迷宮の機能で、太陽光を転送しているとのことだ。

 適度な風や水分もあり、かなり暮らしやすい空間になっていた。

 それに、雨を降らせることも可能という話だった。


 おそらく、あの機能の再現をするためのテスト用迷宮なのだろう。

 当然、植物も育つわけだね。


「再起動復旧モードが完了するのは、やはり一年以上かかる可能性があるのかい?」


「はい。実際のところは、やってみなければわからず。一年以上かかる可能性は十分にあります」


 やはり『テスター迷宮』や『アイテマー迷宮』と同じ感じだね。

 そしてその間は、やはり連絡が取れなくなるようだ。


 すぐに再起動が終了し、大掛かりな復旧モードに入らなくて済んだ『イビラー迷宮』との違いは休眠期間かな……。

 一号迷宮の『テスター迷宮』、三号迷宮の『アイテマー迷宮』、五号迷宮の『プランター迷宮』は、約二千年の休眠期間だったらしい。

 これに対して二号迷宮の『イビラー迷宮』は、休眠期間が千年くらいという話だった。

 他の迷宮に比べて、千年も短いから大きな機能損傷がなかったのだろう。



 俺は、このテスト用第五号迷宮『プランター迷宮』の迷宮管理システムに、ダリファイブという名前をつけた。

 またニアに、ジト目を使われそうな名前になってしまった……。

 一応、ダリーの姉妹迷宮ということで統一性のある名前にしたかったのだ……。


 だが……さすがにダリファイブっていうのは呼びづらい……。

 ……ファイちゃんとでも呼んであげようかと思う。


 ファイちゃんの話では、この迷宮はいわゆる『種子銀行シードバンク』としての機能も持たされていたようだ。

 休眠モードに入った二千年前に存在していた植物の種子は、ほとんど保管されているらしい。

 特別な保管庫があって収納されているようだが、再起動復旧モードが完了するまでは開くことができないそうだ。

 どのぐらい使える状態で保存されているかわからないが、もし現代では絶滅してしまった有用な植物の種子などがあったら、凄いことだと思う。


 ただこの異世界の感じからすると……大きな自然破壊とかでの絶滅はなさそうだから、種は意外と残ってるんじゃないだろうか……。


 もっとも、文明による自然破壊はなくても、魔物災害など異世界特有の災害があるから、失われた種が多い可能性もあるけどね。



 

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