382.次の、迷宮。

 俺は古の『マシマグナ第四帝国』のテスト用第五号迷宮『プランター迷宮』を後にし、隣の小山にある『魔竹』の生育エリアに戻ってきた。

 そしてこの近くに、サーヤの転移用ログハウスとして登録してある予備のログハウスを設置した。

 これでいつでも『魔竹』を獲りに来ることができる。


 そしてこの周辺のスライムたちに別れを告げ、飛竜のフジに騎乗しそのまま南下してセイバーン公爵領に向かった。

 もう一つの迷宮探索エリアに向かったのだ。


 せっかくここまで来たのだから、もう一つの候補エリアの探索もしてしまいたかったのだ。


 この周辺でも、リンが仲間にしてくれたスライムたちがずっと巡回しているが、怪しいところは発見できていない。


 今までの経験で分かったが、おそらく地中深くに入り口が隠されているので普通に巡回した程度では見つけられないのだろう。


 だが……何の目安もないと対象エリアが広すぎて、探しようがないというのも事実だ。


 探しようがないし、『正義の爪痕』に利用されていないのなら、無理に見つける必要もない。


 でもここまできたら、見つけてしまいたい。

 それに、今の俺には一つのアイディアがあるのだ。


 魔素の濃い場所を『波動検知』で探して、そこを当たっていけば……いつものように何か感じる場所に当たるかもしれないと考えたのだ。


 俺は『波動検知』で魔素の濃い場所に意識を集中しながら、対象エリアを移動することにした。



  一つ目の魔素の濃いエリアは、そのまんま魔物の領域だった。

 だがそこをうろちょろしても、いつもの引っかかるような感覚は現れなかった。


 二つ目の魔素の濃いエリアには、なんと『魔竹』が生育していた。

『魔竹』の生育場所二つ目を発見できた。

 ここはさっきの場所よりも、五倍くらいの面積がある。

 だが、普通に魔物の領域でもあるので、人族が採取にくるのはかなり難しいだろう。

 俺にとっては、あまり関係ないけどね。

 もしかしたら、ここに『魔竹』があることを知っている人はいるかもしれないが、魔物の領域であるがために、採取に来れないのかもしれない。

 結果的に、貴重な資源が守られているかたちになっているのだろう。


 今回見つけた二カ所だけで、普通に使う分には十分そうだ。

 資源を大切にしながら、間引き程度に使うだけでもかなりの量が採取できそうだからね。


 そんなことを思いながら……俺はふと、大森林のことを考えた。

『魔竹』の話を最初に聞いたときに、魔素が濃い大森林ならあるに違いないと思いつつ、そのまま放置していたのだ。

 よく考えたら……大森林にこそ『魔竹』があるはずだ……。


 俺は、以前に大森林の主要な場所は回った。

 その時には、『魔竹』は見ていない。

 もっともその時は、『魔竹』の存在は知らなかったけどね。

 そして、見て回ったのはあくまで主要な場所で、全域をくまなく見たわけではない。


 ちょっと気になってしまったので、『アラクネロード』のケニーに念話を繋いで確認してみた。


 すると……やはり大森林の中にも『魔竹』が生育している場所は、あるようだ。


 どうも……大森林の中に、六カ所くらいは生息地があるらしい。


 今更だが、わざわざ『魔竹』を探す必要は全然なかった……。

 大森林の中で全然解決した話だった……。


 でもまぁ……いいだろう。

 特にピグシード辺境伯領にある『魔竹』の生育地域は、完全な魔物の領域というわけではなく、将来、人が……というか商会のメンバーが、採取しに来ることも可能だからね。

 そういう意味では……探したことに意味があった……ということにしておこう……トホホ。



 三つ目の魔素の濃い場所も、普通に魔物領域だった。

 大きな湖があるが、人の気配は全くない。


 セイバーン公爵領はかなり広いが、このエリアのように、人跡未踏の場所がかなりあるようだ。

 領内全域を開拓する必要はないわけだから、当然と言えば当然だろうけどね。


 湖の近くに、台形型の小山がある……。

 パッと見は、自然な感じだが……さっき迷宮を見つけた俺からすれば……すごく怪しい感じだ。


 ん……なにかを感じる……。

 ……きっとここだろう!


 あの小山の裾野もしくは……てっぺんかな……

 俺はそう思いながら、着陸して歩いて近づいた。


 途中、魔物が襲ってくるので飛竜のフジには、上空で待機するように言った。

 そして俺は、襲ってくる魔物を軽く倒しながら周囲を探索する。


 ちなみに襲ってきているのは、イノシシの魔物だ。

 肉の補充ができてちょうどいい。

 といっても、『波動収納』には、まだまだストックがいっぱいあるけどね。


 おっと……上から蜂の魔物が落ちてきた。

 上空で待機していた飛竜のフジを襲いに行ったところを、返り討ちにあったようだ。


 『イビル・キラービー』という種族で、人間と同じくらいの大きさがある。

 顔がスズメバチに似てるので、めっちゃ怖い感じだ。


 え……やばい……蜂魔物の大群が来た!


 この数……フジだけじゃ大変だな……

 ……しょうがない。


顕現誘導リアルナビ!」


 俺は発動真言コマンドワードを発し、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーを顕現させた。


「ナビー、フジだけじゃ大変だから、蜂魔物の相手を頼むよ」


「かしこまりました。楽しませていただきます!」


 ナビーはそう言うと、少し悪い笑みを浮かべた。

 やっぱドSなのか……。


 まぁそれはともかく、ここは任せて俺は迷宮探索に集中しよう。

 早く見つけて帰らないと、そろそろ子供たちが起きちゃうからね。

 できれば起きる前に帰りたいのだ。

 『魔竹』を見つけた時点で、夜が明けていた。

 その後『プランター迷宮』に行って、今まで一時間くらいは経っているからね。

 もう一つの迷宮探索も三十分くらいで切り上げないと、完全に子供たちが起きてしまう。


 急ごう!

 やはりてっぺんが怪しい……。

 俺は、てっぺんまで駆け上がる。


 この小山は、全体にあまり木が生えていない。

 草原がそのまま盛り上がったみたいな感じになっているのだ。


 俺は集中する……


 そして一番怪しそうなところ……直感がひらめくところから、掘り出すことにした。


 やはり三メートルくらい掘り進んだところで、岩盤のようなものにあたった。

 どうやら当たりのようだ。


 さっきと同じように、岩盤を叩いてみる。


 ——ガンッ、ガンッ、ガンッ






  ◇







 三十分ほどかけて、俺はこの迷宮の管理システムと話をし、さっきと同じようにダンジョンマスターに就任して、再起動復旧モードに協力した。


 今は、入り口を岩で塞いで、草を乗せて偽装し終えたところだ。


 この迷宮は、テスト用第四号迷宮だった。


 名前を『トラッパー迷宮』といい、迷宮に設置するトラップの自動生成及び改良の研究検証用の迷宮らしい。

 同一階層内での区画移動や小部屋の設置や移動、転送トラップなどのテストと研究もしていたようだ。


 俺がゲームなんかでやっていた、毒の床や電気や麻痺のトラップなど一般的なものは一通りあるようだ。

 強制的に場所が移動されてしまう転送トラップもあるらしい。

 そして、一定時間でフロアの構造が変わってしまう区画移動の機能も装備されているようだ。

 テスト用迷宮とはいえ、すごい装備だ。

 機械文明というか……まさに魔法機械文明なんだと思い知らされる。


 いつものように、管理システムにダリフォーという名前をつけた。

 ちなみに青髪の女性だった。

 ダリファイブをファイちゃんと呼んであげたように、この子もフォーちゃんと呼んであげようかと思ったが、仲間の『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウと被っちゃうので、ダホちゃんと呼ぶことにした。

 でも……全然かわいい感じがしない……。

 これをニアに知られたら……ジト目が二倍になって襲ってきそうだ……。

 深く考えるのはやめよう……ネーミングセンスは本当に期待しないでほしい……トホホ。


 それにしてもダホちゃんて……なんとなく捕まってしまったような名前で……本当に微妙だ。

 でもトラップ主体の迷宮の管理システムとしては、意外とそれっぽい名前かもしれない……。

 いや、違うか……むしろ捕まえる方の立場なんだから、捕まっちゃった名前じゃダメだろ!

 …………ごめんなさい。


 この迷宮も『テスター迷宮』『アイテマー迷宮』『プランター迷宮』と同じく約二千年に及ぶ休眠状態だったとのことだ。

 大きなシステム損傷も予想され、やはり再起動復旧モードが完了するには、かなりの時間を要するようだ。


 それから明確に分かったことだが、『テスター迷宮』は総合テスト用迷宮で、それ以外の迷宮が個別機能に特化したテスト用迷宮になっているらしい。

 各迷宮でシステムを検証したり改善して、『テスター迷宮』にフィードバックしていたようだ。

 これによって『テスター迷宮』は、バージョンアップをしていくというかたちだったらしい。

『テスター迷宮』は、テスト用第一号迷宮でありながら、テスト用迷宮の中では一番高機能な迷宮なのかもしれない。


 ここからは俺の予想だが、『テスター迷宮』が完成形として仕上がったところで、本格迷宮を作ったのではないだろうか。

『ミノタウロスの小迷宮』のミノショウさんは、テスト用迷宮の後に本格迷宮が作られたという話を聞いたと言っていたからね。



 この『トラッパー迷宮』にも、宝物庫は四つあるらしいが、すべて開かないようだ。

 再起動復旧モードの完了を待つしかない。


 ただ、ダホちゃんも、宝物庫に入れていなかったアイテムをプレゼントしてくれた。


対鏡の門ツインミラーゲート』という名前の大きな魔法道具だった。

 普通のドア二枚分ぐらいの大きさの鏡が二つある。

『階級』は、これも『究極級アルティメット』だった。


 見た目は巨大な全身鏡で、自分の姿が映るので誰も魔法道具とは思わないだろう。


 この迷宮でテストしている探索者を強制的に移動させるトラップの原理を応用しているらしく、この二枚の鏡がゲートになっていて、鏡の中に入るともう一方の鏡の場所に出るという転移系の魔法道具らしい。

 まぁ厳密には、空間を飛び越える転移というよりは、空間を繋げるゲートなんだろうけど。


 前にちらっと聞いた話では、現在ではゲートの技術はほとんど失われているらしいので、まさに古代文明の遺産といった感じだろう。


 ただよく考えると、『ドワーフ』の族長から貰った転移の魔法道具『転移の羅針盤 百式』は、二十四カ所転移先が登録できて、そこに自由に転移できる。

 それを考えると、転移の魔法道具の方がはるかに便利な気がする……。


 この『対鏡の門ツインミラーゲート』は、一カ所だけだからね。


 おそらくこれのいい点は、ゲートだから常時設置しておくことができて、誰でも通ることができるということだろう。

 もっとも防犯的に考えると……敵に襲われて、その敵がこのゲートを通ってしまえば、もう一つの場所も襲われてしまうという危険なものだ。


 ただダホちゃんの説明によると、このゲートは機能選択で『常時開放モード』と『登録識別モード』を選んで使うことができるようだ。

『登録識別モード』にしておくと、事前に登録した者しか通れなくなるらしい。

 一応の防犯対策ということだろう。


 貴重な魔法道具であることには間違いないので、ありがたく頂戴することにした。

 今のところ、あまりいい使い道は思い浮かばないけどね。



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