379.魔竹、発見。

 翌朝、俺はみんなで寝ているベッドから抜け出し……予定通り『魔竹』及び迷宮の探索に出かけることにした。まだ夜明け前で、外は暗い。


 ちなみに昨夜は、急ごしらえの大型ベッドで俺とニア、リリイ、チャッピー、ソフィアちゃん、タリアちゃん、ドロシーちゃん、ミネちゃんが眠った。


 第一王女で審問官のクリスティアさんとその護衛官のエマさん、そしてセイバーン公爵家次女で執政官のユリアでさん、 三女で『ナンネの街』の代官のミリアさんまで現れたときには、マジでビビったが……さすがにアンナ辺境伯が止めてくれた。


 助かったのだ。

 野宿とか、みんなで雑魚寝みたいな感じならいいと思うが、さすがに寝間着に着替えてベッドの上というのはまずいと思うんだよね。



 そんなこんなで子供たちは、夜はワイワイ楽しく過ごし、かなり遅くまで起きていたので今はぐっすりだ。


 リリイとチャッピーを置いていくと、この前のように嫌な思いをさせるかもしれないが、ここは心を鬼にして置いて行くことにした。

 リリイとチャッピーを連れて行くと、他の子供たちも行くことになりかねないからね。

 サーヤの転移とか……いろいろ見られちゃまずいものがあるからね。


 ということで、今日はニアさんも置いて行くことにしたのだ。

 本当に俺の単独行動だから、あとで責められてもなんとかなるだろう。

 実際問題……こんなにぐっすり寝ている子たちを起こすのは、忍びないからね。


 俺はサーヤに来てもらい、飛竜のフジを連れてピグシード辺境伯領の東端の街である『トウネの街』の近くの転移用ログハウスに転移した。


 この『トウネの街』とその西側にある『タシード市』とのちょうど中間ぐらいのところに、『魔竹』の生育している山があるようだ。


 結構距離があるので、飛竜に騎乗して向かう。

 飛竜ならすぐだ。


 大体の場所に着いた。


 広い草原のようになっているが、いくつか小山がある。

 里山のような感じの小山が、三つ連続している場所がある。


 あそこか……


 真ん中に位置している低い山が、『魔竹』の群生地のようだ。

 街道からは離れているので、普通では発見できないだろう。


 『竹』のかたちをした植物が生えている。

 まさに竹林だ。


 だが俺の知っている『竹』とは違う……。

 赤黒い……葉も幹も赤黒いのだ。


 姿かたちは普通の『竹』と一緒だが、緑ではなく赤黒い。

 例えるなら……『竹』が紅葉している感じだ。


 飛竜から降りて、『魔竹』に近づき『波動鑑定』をしてみる。


 やはりそうだ……名称が『魔竹』となっている。


 広い竹林というか……竹山になっている。

 上から見たときの感じだと……一般的なドーム球場十個分ぐらいの大きさはあるんじゃないだろうか。


『魔竹』が生育してるのは、この小山だけで、それ以上は広がっていないようだ。


 元の世界の『竹』のように、どんどん増えて面積が広がっていくわけではないようだ。

 普通『竹』は、地下茎を伸ばし、どんどん増えてしまう。

 周囲の樹木を駆逐し竹山になってしまうのだが、この『魔竹』はそういう感じではないようだ。

 やはり魔素の強いところだけ、ピンポイントで生育するらしい。


 触ってみる……


 かなり固い。普通の『竹』も固いが、この『魔竹』はさらに硬い。


 これなら……そのままでも武器や防具として成り立ってしまうのではないだろうか……。

 竹を使った『竹槍』と竹を編み込んだ『竹盾』みたいなのを作れば、なんかそれだけで結構な性能の武器になる気がする。

 駆け出し冒険者向けに、『竹垣アーマー』とかも作って『魔竹シリーズ』の武具を作ってみたら面白いかもしれない。

  魔力を通しやすい素材のようなので、魔力を使う練習にもなる。

 軽くて強い素材で、安く提供できたら売れるかもしれない。

 ただ意匠的に、かっこよくない感じだから……実際は売れないかもしれないが。

 見た目って大事だからね。


 俺と一緒に『フェアリー武具』のオリジナル武具作りをしている『家精霊』のナーナに話したら、いつもの遊び心で作ってくれるかもしれない。

 ナーナならロマン武器として、変わったものを作ってしまいそうだ……。

 いや……むしろ俺が遊びの一つとして作りたい!

 竹とんぼ型の武器とか……竹馬とか……

  竹馬は乗り物であって武器にはならないか……いや……使いようによっては超長い棍棒として敵をなぎ倒すのにいいかもしれない……。

 まぁ狭いところでは取り回しができないから……実用性が微妙なロマン武器になってしまうだろうけどね。


 それはともかく……子供たちが遊べるように竹馬でも作ろうかな……。


 俺は、『波動収納』から切れ味抜群の『魔剣ネイリング』を取り出し、『魔竹』に斬りつけた。


 問題なく切断できるようだ。

 ただこれは『魔剣ネイリング』だからであって、普通の斧や剣では大変かもしれない。


 俺は竹林全体を間引くような感じで、『魔竹』を採取させてもらい『波動収納』に回収した。


 あれ……これは……たけのこ……?


 『たけのこ』の時期ではないと思うが、異世界補正で時期は関係ないのか……それともこの『魔竹』が特別なのか……。


 一応『波動鑑定』してみると……


 おお……表示が違う!

『魔竹の子』という名前になっている。

 そして詳細表示を見ると……霊果の一種みたいだ。正確には、果実じゃないから霊菜というらしい。

 食べると、魔力回復効果とスタミナ力回復の効果があるようだ。

 皮は乾燥させると薄く軽く丈夫な素材になり、それに包むとものが腐りにくくなるようだ。


 それにしても……この『たけのこ』食べれるのか……

『たけのこご飯』が食べたいなぁ……時期的に無理かと思っていたが……ぜひ食べたい!



『魔竹』は、さすがに食べられないよねぇ……


 俺は、改めて『魔竹』を『波動鑑定』してみると……


 ……さすがに食べることは、できないっぽい。

 もっとも……なにも表示されない状態であって、食べられないとも表示はされていないので、食べられる可能性はあるけどね。


 ただ……『魔竹水』というものが採取でき、飲めるようだ。

 切断した竹から滲み出る水分を採取するようだ。

 魔力回復効果、スタミナ力回復効果のある水で、飲めるようだ。

 植物にかけると、生命力が高まり成長が速くなるらしい。

 病害虫への耐性も高まるようだ。

 種子にかけると、発芽率が上がり発芽日数も短縮されるらしい。

 肥料というか…… 一種の活力剤だね。


 それにしても、この『魔竹』は鑑定したときの詳細表示が実に詳しい。

 有効活用しろということなのだろうか……。

 鑑定しても、ほとんど情報が表示されないものもあるのに……相変わらず謎システムだ。


 ちなみに……普通の竹でも、『竹水』というものが採れる。

 同じようなやり方で……切断した後の竹の切り口に、ビニール袋をかぶせて固定しておくと翌日には 一リットル以上の水が溜まっているのである。

 これは竹の根が吸い上げた水分で、竹の成長エネルギーが詰まった水なのだ。

 確かポリフェノールやアミノ酸、ビタミン類なども含んでいたはずだ。

 一度飲んだことがあるが、ほんのり竹の香りがして、酸っぱいような甘いような不思議な感覚のすごく美味しい水なのだ。

 それの『魔竹』版だろうから、美味しいに違いない。

 そして魔力回復効果、スタミナ力回復効果があるというのだから、素晴らしい水だ。


 普通の『竹』では、葉っぱも有効に活用できたはずだ。

 防腐効果があるので、お餅やおにぎりなどを包んで日持ちさせることができるので、容器としても優秀だ。

 竹の葉を乾燥させて、炒って作る『竹の葉茶』も体にいいお茶だった気がする。

 竹の葉と杜仲などを原料にして作る『竹葉酒』というお酒もあったはずだ。

 薬用酒の一緒だった気がする。

 竹の葉で、特別なお酒が作れるかもしれない。

『魔竹』でも同じようなことができたら、かなり上位互換なものができる気がする。

 今後、研究してみよう!


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