378.カスタムチューン、してくれるの?

 夜になったので、俺は『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんに、『ドワーフの里』に帰るように話をした。

 祖父であるソイル族長やご両親が心配してるだろうからね。

 だが、みんなで泊まるワクワクな雰囲気を敏感に感じ取り、絶対帰りたくないとお願いしてきたので、一旦帰って許可を得てくるように諭した。

 移動自体は、転移ですぐできるわけだからね。


 泣きそうになっていて可哀想だったので、俺が族長とご両親当てに手紙を書いて、ミネちゃんを後押ししてあげるからと話した。

 ミネちゃんは、なんとか納得してくれて転移で帰っていった。


 そして、しばらくして、戻ってきた。


 無事に、お泊まりの許可をもらえたようだ。

 実は、ニアにもついていってもらったのだ。

 また家族をぶっちぎって戻ってきたら大変だからね。

 ニアの口添えもあり、無事に許可してもらえたらしい。


 ニアには、お土産も置いてきてもらった。

 俺が焼いた『ホットケーキ』を超大量に持っていってもらったのだ。


  一族みんな、一心不乱に食べていたようだ。

 喜んでくれていたようでよかった。


 そして族長やご両親は、「こんなに美味しいものが食べれるなら、毎日出かけるのもわかる」と、変な納得をしていたらしい。


 ミネちゃんの転移の魔法道具『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』は、『薬の博士』や『武器の博士』が使っていた『転移の羅針盤 小型三式』と違い、 三メートルの範囲にいる者と触れていれば、一緒に転移できるのである。

 みんなで手を繋げば、かなりの人数が一緒に転移できるという優れものなのだ。

 だからニアが一緒に行くことができたのである。


 ちなみに俺が『土の大精霊ノーム』のノンちゃんの計らいで、『ドワーフ』の族長ソイルさんからもらった『転移の羅針盤 百式』は、ミネちゃんの改良した『お友達カスタム』と違って通信機能はないが、転移の機能は全く同じなのだ。

 三メートル以内の人や物に触れて繋がることで、一緒に転移できる。

 ちなみに、足で触れている地面や床が一緒に転移してしまうことはないようだ。

 手で触れることや意識を向けることが、条件なのではないだろうか……。

 『転移の羅針盤 百式』は、腕時計型で全部で二十四カ所、転移先を登録できるのだ。

 その魔法道具を五つも貰ったのだ。


 だがいまだに、どう使うか決めていない。

 この魔法道具を貰ったことによってサーヤに頼りきりだった転移が、限定的とはいえできるようになるので、サーヤの負担も減らせるのだ。


 問題は……誰に持たせるのがいいか……。


 ニアの腕には、つけることはできない。

 サイズ的に、腕には巻けないからね。

 もしつけるとしても、お腹に巻いてチャンピオンベルトみたいな感じになってしまう……。

 まぁそれはそれで……笑えていいけどね!

 残念な感じに拍車がかかり……ニアさんにぴったりな気がする。

 ニアがチャンピオンベルトのように巻いた姿を想像して、ニヤけてしまった。

 そのニヤけ顔をニアさんに向けてしまったら……目があってしまった。

 ニアは、なにかを察したらしく……凄まじいジト目を俺に向けてきた……。


 一瞬、体がブルっとしてしまった……まぁ今回は完全に俺が悪いからしょうがないけどね。


 俺は、心の中でニアさんに謝った。


 それにしても……ニアのジト目って……だんだん凄くなってる気がする。

 じっとり具合というか……粘着性が凄い感じだ。


 気分的には、ステータスが下がってるんじゃないかと思うほどだ。


 ニアさんって……もしかして……『ジト目使い』という名の『使い人』だったりして……


 いや……そんなことを考えていると……本当にそんなスキルが発現しそうで怖い……やめよう……考えちゃだめだ!


 ニアがお腹に巻くかどうかはともかく、使うこと自体はできるので『アイテムボックス』に入れておいて、必要なときに取り出して使えばいいかもしれない。


 ただニアは、ほとんどいつも俺と一緒に居るから、無理に持たせる必要はないんだよね。


 そしてリリイとチャッピーは、俺が貰った五つよりも高性能の『お友達カスタム』をミネちゃんにもらっている。



 俺はいろいろ悩んだ末に、転移の魔法道具のうちの一つをゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんに貸し出すことにした。


 この転移の魔法道具『転移の羅針盤 百式』は、秘密基地と領城を転移先として登録しておけば、一瞬で移動することができるからだ。


 最初は、貸し出すかどうかを凄く悩んだ。

 なにせこの転移の魔法道具は、『ドワーフ』の『ノームド』氏族が代々受け継いでいる特別な技術で作られているものだからだ。

 転移の魔法道具自体は他にもあるだろうが、この系統の技術は、いわば門外不出の技術だろう。

 それを、『大精霊ノーム』のノンちゃんの計らいで、特別にいただいたのだ。

 それゆえに最初は、俺の『絆』メンバーだけで使おうと思っていた。


 だが、これからの俺に必要になると言って渡してくれたノンちゃんの意図を考えれば、有効活用するべきだと考えたのだ。

 信頼のおける人ならば、渡してもいいという結論に達した。


 ただ人族の天才ドロシーちゃんなら、この魔法道具の技術を解析してしまうかもしれないので、解析しないようにお願いした。

 妖精族に特別に貰ったもので、信頼を裏切れないという話をして理解してもらった。

 この点については、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんもよくわかっているようなので、口を滑らせたり教えてしまうということはないだろう。


 こんな話をミネちゃんが帰ってきたあとに、みんなにしたのだ。


 アンナ辺境伯をはじめみんなに、妖精族の秘宝を特別に貸し出すので、充分注意して使ってほしいと話した。


 第一王女で審問官のクリスティアさんも、アンナ辺境伯も、賛同するとともに承諾してくれた。

 二人は、転移の魔法道具の技術が明らかにされて、広く流通するようになると便利にはなるが、犯罪組織に利用された場合、非常に危険な事態にもなるという懸念も抱いていたようだった。

 さすが為政者で、いろいろな面から物事を捉えているようだ。

 ドロシーちゃんもその点は十分に理解しているようで、優れた技術ほど悪用されないようになければならないと言っていた。


 俺の考えを理解してくれて安心したところで、俺は転移の魔法道具の割り振りをやっと決めることができた。


 一つは俺用、一つはアンナ辺境伯に貸し出し、事実上ドロシーちゃんに使ってもらう。

 もう一つは、ユーフェミア公爵に貸し出そうと思う。

 そうすれば、いつもの主要メンバーが簡単に集まることができるからだ。

 転移先の一つをこの秘密基地にして、みんなで集まって会議をすることもできる。

 そうなると……より秘密基地っぽくなるし……。

 もちろん領城を転移先の一つに登録して、領城にも集まれるようにしてもいいだろう。


 そして残りの二つは、俺が持っていて、仲間たちが別行動するときなどに個別に渡すというフリーな状態にしようと思っている。


 一つ注意しなければならないのは、ミネちゃんがリリイとチャッピーにくれた『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』には、転移の魔法道具自体を転移先として登録できるという性能があることだ。

 それゆえにミネちゃんは、リリイたちがいる所にいつでも転移可能なのだ。


 こっそりミネちゃんに確認したところ、『転移の羅針盤 百式』でも登録しようと思えば、『転移の羅針盤』自体を転移先に登録することも可能とのことだった。

 普通はそういう使い方をすることはないし、そのことを思いつくこともないらしい。


 ただ……もしアンナ辺境伯たちに俺の転移の羅針盤が登録されて、大森林にいるときに転移して来られると、ちょっとまずい。

 アンナ辺境伯もユーフェミア公爵も信頼でき尊敬できる人だし、別に話してもいいような気もするが……なんとなく、まだその時期ではないような気がしているのだ。


 なので、この魔法道具自体を転移先に登録できるということは、内緒にしてもらうように頼んだ。


 ミネちゃんは、あまりピンと来ていない感じでもあったが、一応理解してくれたようだ。


 そして、さらりと言った……


「おじいちゃんがグリムさんにあげた五つも、ミネが『お友達カスタム』にしちゃうのです! そしたら、お話もできるのですよ! 転移する前にお話ししてから、尋ねられるのです。ミネも忘れない限りは、リリイとチャッピーに連絡してから行くことにしているのです。忘れちゃったときは、ごめんなさいなのです」


 え……俺は一瞬固まった……。


 そうか……ミネちゃんなら、できちゃうわけだよね。

 

 現にミネちゃんとリリイとチャッピーが使ってる『お友達カスタム』は、『転移の羅針盤 百式』をベースに改良したわけだから、同じことをすればいいだけの話なんだよね……。


 俺は通信機能もほしかったので、『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』を注文させてもらえないか訊こうと思っていた。ミネちゃん自身とご両親とソイル族長に、打診してみようと思っていたのだ。


 既に貰っているこの魔法道具を改良するという発想はなかった。


 これなら新たな発注じゃないし、おそらく問題ないだろう。

 一応、族長たちには確認をするけどね。


「ミネちゃん、ほんとにいいのかい?」


「もちろんなのです。お話しできた方が楽しいのです!」


 ミネちゃんは、満面の笑みで引き受けてくれた。


 ということで、カスタムチューンをお願いすることにした。


 ミネちゃんが持っているものを一号機、リリイのが二号機、チャッピーのが三号機、俺が持っているのは四号機、アンナ辺境伯経由でドロシーちゃんに貸すのが五号機、今後ユーフェミア公爵に渡す予定なのが六号機、臨機応変に状況に応じてメンバーに渡すのが七号機と八号機となった。


 今後『フェアリー商会』の幹部なども使えるようになると便利なのだが、その際には新たにこの魔法道具が必要になる。

 それなりの数が欲しいからね。

 その場合は、改めてミネちゃんとご両親、族長に正式に依頼をして、お金を払って購入したいと思う。


 もちろんこの特別な魔法道具も、俺の『波動複写』でコピーすることは可能だ。

 だが、それは俺の自主規制に引っかかるし、俺を信頼して特別にプレゼントしてくれた『大精霊ノーム』のノンちゃんや『ドワーフ』たちを裏切る気がして、できないのだ。



 それから『正義の爪痕』の『薬の博士』と『武器の博士』から没収した転移の魔法道具『転移の羅針盤 小型三式』が二つある。

 転移先として登録されていたアジトは、二つとも壊滅できたのでもう必要ない。

 そこで、アンナ辺境伯に返却した。


 アンナ辺境伯は、引き続き俺に貸し出すと言ってくれた。

 ただ、一つは『ナンネの街』の守護のミリアさんに渡して、使わせたいとのことだった。

 もちろん俺も賛成した。

 領城を転移先に登録しておけば、いつでもすぐに戻ってきて、報告、連絡、相談のいわゆる『報連相』ができるからね。

 一人しか転移できない魔法道具だが、それでも充分だろう。


 もう一つは、俺に任せると言われた。

 一人しか転移できないし、俺としてはそれほど使い道は無いのだが……

 一応『マグネの街』の代官さんに、渡しておこうかと思っている。

 何かあったときに、代表して一人は領城に転移で来れるからね。


 考えようによっては、『マグネの街』と『ナンネの街』から代表者を一人ずつ呼んで、領城で会議をすることも可能になる。


 通信機能がついてないから、毎日誰かが領城に転移してきて、定時報告するような運用にしてもいいかもしれない。


 もしやと思い……ミネちゃんに通信機能がつけられないか確認したが、難しいとのことだった。

 前にも聞いたが、この懐中時計型の転移の魔法道具『転移の羅針盤 小型三式』は、かなり古い時代のもので、カスタムチューンすることがほとんどできないらしい。


 まぁそこまで望まなくても、運用でカバーして毎日誰かが訪れるかたちにすれば、最低限の時間差で情報は共有できるだろうからね。

 それだけで、今までとは雲泥の差だ。



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