371.朝の体操、素晴らしい!
本人たちの口からは言いづらいようだが、アグネスさんとタマルさんが作ってくれた『護身柔術体操』が評判を呼んでいるらしい。
これは『フェアリー商会』のスタッフに少しでも自分の身を守れる力をつけてもらうために、朝の勉強時間一時間のうち十五分を使って、毎日行っているものだ。
俺の依頼でアグネスさんとタマルさんが作ってくれた『護身柔術体操』は、『護身柔術』の型をラジオ体操のようなかたちで行うものなのだ。
本来は楽器の演奏に合わせて行う仕様なのだが、歌詞をつけて歌にしたので、楽器がなくても歌いながら体操できるというものになっている。
前に、ニア、サーヤ、リリイ、チャッピーたちも入れて、みんなでワイワイ歌詞を決めていた。
基本的には任せたが、どうしても入れてほしいフレーズを無理矢理ねじ込んでもらった。
それは……『新しい朝が来た! 希望の朝だ!』というフレーズだ。
俺の好きなフレーズなので、こだわってみた。
完成した歌は、とても楽しい感じの歌になっていた。
楽しく体操していると、自然に型が身に付くという優れものなのである。
雑巾がけをしている動きで、防御ができてしまうという空手少年の映画が参考になると思い、そんな話もアグネスさんたちにして、開発の参考にしてもらった。
俺のそんなマニアな思惑通り……いい感じに出来上がり、いい感じの効果が出ているようだ。
みんな自然と型を身に付けて、素手で殴りかかってくる相手ぐらいは対処できるようになっているらしい。
そんな効果もあり『フェアリー商会』のメンバーは、みんな喜んでやっているそうだ。
ソフィアちゃんとタリアちゃんが体操しているのを見て、守備隊副隊長で近衛兵をまとめているマチルダさんが、ピグシード軍でも取り入れたいとアンナ辺境伯に進言したらしい。
これを受けてアンナ辺境伯から正式に俺に協力してほしいという話があったので、もちろん二つ返事でオーケーした。
アグネスさんとタマルさんも喜んでくれていた。
そして健康にもいいからということで、文官たちも朝の十五分この体操をすることになったようだ。
養護院と無料で読み書きを教える『ポカポカ塾』でも、取り入れることにしたのだ。
もちろん『マグネの街』や『ナンネの街』でも、『フェアリー商会』に関連するところでは取り入れている。
今後は、この二つの街の衛兵隊と文官にも取り入れられるようだ。
アンナ辺境伯が通達を出すと言っていた。
各街の『フェアリー商会』関係者に、指導をしてほしいとの依頼も受けた。
なんとなく……俺の元の世界のラジオ体操みたいな感じで広がってきて……少し嬉しい。
本当にラジオ体操みたいに、毎朝広場で自由参加でやってもいいかもしれないね。
カードを作って、スタンプを押したら集まってくれるかなぁ……
まぁいきなりは無理かもしれないけど、定期的に炊き出しとかをやって、そのときに集まった人に教えながらやってみてもいいかもしれない。
『護身柔術体操』に組み込んである『護身柔術』の型は、あくまで基本の型のみということだ。
多くの人が護身柔術に触れれば、しっかりと習得したいという人も出てくるかもしれない。
将来的に……もしかしたら王都など人口が多い所で、『護身柔術』を正式に教える道場……というよりはフィットネスクラブみたいなものを作ったら、流行るかなぁ……
まぁちらっと思っただけで、本気で考えてるわけではないのだが……
開発してくれたアグネスさんとタマルさんには、本来なら広まれば広まるほどロイヤリティーを払ってあげたいのだが……無償で広めているから厳密な意味でのロイヤリティーは払えない。
だがその功績は大きいので、『フェアリー商会』から支払っている報酬を随時上げていこうと思っている。
先日ヘルシング伯爵領に向かうときに、アグネスさんとタマルさんからは、同行したいという申し出があった。
吟遊詩人なので情報収集もできるから、ぜひ連れて行ってほしいと頼まれたのだ。
だが隠密行動で最小限の人数にしたい旨を説明し、遠慮してもらった。
まぁ一番の理由は、俺たちが自由に動きづらくなるからなんだけどね。
今もまた、ヘルシング伯爵領に戻るなら連れて行ってほしいと頼み込まれた。
だが、まだ状況がつかめないからと断った。
もし情報収集とかで、力が必要になった場合は頼むからということで、納得してもらったのだ。
普通の旅なら連れて行ってもいいが、吸血鬼との戦いが予想されるからね。
いくらアグネスさんとタマルさんが強いといっても、普通の兵士に比べたらということでしかない。
あの吸血鬼の高速移動についていくのは、さすがにきついと思うんだよね。
ちなみに、この朝食の前の訓練には、リリイとチャッピーも参加していた。
かなりハードにトレーニングしていたようだ。
リリイとチャッピーは、『ミノタウロスの小迷宮』でミノショウさんからもらった能力を抑制できるアイテム『足かせのアンクレット』をつけて、能力を下げているので本気で訓練ができて嬉しいらしい。
本当にいい訓練用の魔法道具をもらった。
この子たちには、ぴったりの魔法道具なんだよね。
魔物を倒すときのような殺してしまう戦い方は、魔物の領域や迷宮で訓練することができるが、対人戦闘、特に殺さない戦い、相手を制圧する戦いは、人間同士で訓練するしかないからね。
そうなるとやはり全力を出して訓練できないと、訓練の効果が半減してしまうから、このアイテムは非常にありがたいのだ。
全力の訓練で、勝負感や力の加減を覚えられると思うんだよね。
それから、ドロシーちゃんも訓練に参加していたようだ。
彼女はどちらかというと、文系な感じのイメージだが……剣術や体術の基礎は身に付いているらしい。
さすが公爵家の令嬢といったところだろう。
最低限の武術の教育は、受けていたようだ。
彼女は『護身柔術』を気に入って、真剣に習いたいと思っているようだ。
タマルさんの使う『拳法——虎爪牙拳』にも興味があるようで、ゆくゆくは習いたいというようなことを言っていた。
意外に武闘派なんだろうか……。
ゲンバイン公爵家は、代々『コウリュウド式伝承盾術』の大家であり、盾術の使い手なのだそうだ。
ドロシーちゃんにも、その基礎が叩き込まれているらしい。
話によると盾術は、その性質上、肉弾戦系の体捌きや能力が求められるらしい。
それゆえにドロシーちゃんも、柔術や拳法などの肉弾戦系の武術を好むのかもしれないね。
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