362.弱点を克服した、吸血魔物。

  ————バンッ、バンッ、バンッ、バゴォーンッ


 やはり……『死人薬』を飲んだようだ。

 『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』の最後の一体は、『死人魔物』になってしまった……。


 大きさが三メートルを越え、胸にサメ頭が出現している。

 サメの『死人魔物』になったようだ。


 いや違う……改めて『波動鑑定』をしたところ……


 『種族名』が『吸血魔物 ヴァンパイアナイトモンスター』となっている!


 なんと……『死人薬』を飲んだことで、『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』から違うものに変わってしまったようだ。


 もともと人間ではなく吸血鬼になっていたから、『死人魔物』ではなく、『吸血魔物』という種族になったようだ。


 倒しに向かっていたナビーは、そのまま気にせずに突っ込み、本来『ドワーフ銀』の投擲槍を突き立てる予定だった胸の位置にあるサメ頭を刺し貫いた!


 ところが……


「ハッハハ、無駄、無駄、我はすでに『ヴァンパイアナイト』を超えた! 『ドワーフ銀』などもはや効かぬ!」


 そう言うと、『ヴァンパイアナイトモンスター』は、サメ頭に刺さった投擲槍を自分で引き抜いた。


 どうやら『種族』が変わったことによって、『ドワーフ銀』の特効がなくなってしまったようだ。


 ならば……これなら!


 俺は、投擲槍を奴の人間頭に投げつけた!


 奴は、槍が飛んでくることに気づいたようだが、避ける風でもなく直撃を食らった!

 投擲槍で人間頭が吹き飛んだ!


『死人魔物』なら、これで倒せるはずではあるが……


 やはりダメか……

 奴は動いている。


「ハッハハ、無駄、無駄、我は『死人魔物』も超えているのだよ!」


 今度は、サメ頭がしゃべった!

 サメ頭でも話せるのか!?

 いや、そんなことはどうでもいい。


 どうやら奴は『死人魔物』でもないので、人間部分の頭を破壊されても倒せないようだ。

 人間頭がすでに再生をはじめている。


 なによりも驚きなのは、奴が明確な意識を持っていることだ。

 普通なら『死人薬』を使った時点で、一度死んで『死人魔物』になるから、人間だったときの意識は全くなくなっていた。

 ところが、『ヴァンパイア』が使った場合は、元の意識をそのまま保つようだ。


 もしかしたら……『ヴァンパイア』はアンデッドだから『死人薬』を使っても死なずに、意識を保ったまま魔物化できたのかもしれない。


 そしてあっという間に、吹き飛んだはずの人間頭の再生が終わっている。


 もともと『死人魔物』も再生能力を持っていたし、『ヴァンパイア』も再生能力を持っているので、その再生能力が加速されているようだ。


 なんてことだ……厄介この上ない!


「ハッハハ、できれば使いたくはなかったが……結果オーライだな。想像していた通りの効果が出たようだ。ハッハハ、これで我には弱点はなくなった!日光も全く関係ない! 我は進化したのだ!」


 奴は『ヴァンパイアナイトモンスター』となった力を誇示するかのように手を広げると、満足そうに舌舐めずりした!


 やばいなぁ……このままでは長期戦になりそうだ……。

 どうやって倒せば……


 俺は『絆通信』のオープン回戦で仲間たちに念話を送る。


 (誰か、こいつを倒すアイデアはないかい?)


 (細かくミンチにすればいいんじゃない!?)


 ニアがすぐにそんな提案をした。


 (いえ、おそらく今の再生能力を見る限り、肉片が残っていればそこから再生する可能性があります!)


 ナビーが冷静な分析を述べる。


 (リリイが燃やして灰にしちゃうのだ!)


 今度はリリイがそんなことを言った。


 (燃やすのはいい方法かもしれません。ただできれば……灰も残らないほど燃やしつくす……蒸発させるのが最善だと思います。ただ……それほどの火力を出せる魔法は誰も持っていません)


 またナビーが冷静に指摘をしてくれた。


 確かに火魔法は、リリイが身に付けてくれた『火弾ファイアショット』しか『共有スキル』には登録されてないからね。


 シチミの持ってる魔法の杖で炎も出せるけど……燃やし尽くせるほどの火力が出るかどうか……。


 ニアの魔導書でも『火球ファイアボール』が出せるが、同じく燃やし尽くせるほどの火力が出せるかわからない……。


 待てよ……


(ナビー、もし俺かナビーが魔力全開で『火弾ファイアショット』を打ったら、燃やし尽くせるんじゃないかな?)


 (はい。その可能性は十分にあります。実は私も考えたのですが……最大出力を出した場合、周辺被害がかなり出ると考えられます。敵を燃やし尽くすのにちょうどいい火力が出せるといいのですが……。威力と範囲を絞り込むのは、急にはできないと思います。この辺一帯を滅する危険を犯すなら、やってみる手はありますが……)


 うーん……確かにナビーの言う通りだな……。

 最悪の場合は実行するとしても、できれば周辺被害を出さない方がいい。

 奴だけを燃やし尽くしたいんだよね……。


 だが、のんびり考えている時間はない!

 こうしている間にも、牽制してくれていた仲間たちがどんどん弾き飛ばされている。


 『ヴァンパイアナイトモンスター』となった奴は、レベルも65まで跳ね上がっていた。

 かなり強い……。

 ニアたち一番隊はともかく、他のメンバーはレベル的にも差がついて、格下になってしまっている。


 迷宮合宿で鍛えた戦術・役割分担のおかげで、今のところ致命傷は受けていないが……。


 このままでは、まずいな……。


「捕らえよ!断絶空間」


 おお、さすがナビー。


 とっさの判断で、空間魔法の巻物『不可視の牢獄』を発動させたようだ。


 だが……なんと!


 奴は、異変を察知して超スピードで、空間断絶結界の発動範囲の外まで移動した!

 ギリギリでかわしたのだ!


 なんてやつだ……


 だが……この空間断絶結界の中に閉じ込めるというのは、いいアイディアだ!


 俺は、再びスピードのギアを上げ、奴に迫る——


 そして正面に回り込んで、サメ頭の鼻先を殴りつけてやった!

 粉砕して肉片が飛び散らないように、最低限の力で殴ったのだ。

 肉片から再生する可能性がある以上、飛び散らかしたら拾うのが大変だからね。


 奴は後ろに大きく吹っ飛んだ!


 そのタイミングで俺は奴を押さえ込んだ!


 (ナビー、今だ! 俺ごと空間断絶結界を張ってくれ!)


 普通なら躊躇するところだろうが、そこはさすが俺自身ともいえるナビーだ、以心伝心ですぐに巻き物を開く!


「捕らえよ!断絶空間」


 よっしゃ! うまくいった!


 今度こそ奴を空間断絶結界に捕らえることができた!

 俺ごとではあるが。


 よく考えたら、これが一番いい作戦だったかもしれない。

 さすがナビーだ。


 この空間断絶結界の中なら、結界を壊さない範囲で奴を焼き尽くしてしまうこともできるかもしれない。

 ただ俺自身にも被害が出そうだけどね……。


 さて……どうやって倒すかなぁ……


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