363.浄炎の、刀。

「フン、こんなところに閉じ込めても無駄だ! 我の再生能力の前では、どんな攻撃も無意味だよ」


 空間断絶結界に閉じ込められた『吸血魔物 ヴァンパイアナイトモンスター』は、一瞬焦った顔をしたが、すぐに余裕の笑みを浮かべた。


「それはどうかな?」


 俺はそう言いながら、『波動収納』から『魔力刀 月華げっか』を取り出した。


 まずはこいつを細切れにしてみることにしたのだ。

 細切れにした状態で、『火弾ファイアショット』で焼却してみようと思っている。

『魔剣 ネイリング』でもよかったが、このアジトに突入したときに装備していた『月華』を自然に選んでしまったのだ。


『ヴァンパイアナイトモンスター』は、高速移動で小刻みに動き、俺を牽制しながら手刀を繰り出してくる。


 一般人には、ほとんど目視できないだろう。


 だが俺にとっては、普通に見える。


 見失ったふりをして視線を外し、奴が襲いかかるところを『魔力刀 月華げっか』で斬りつける!


 ——スポンッ


 奴の右手が宙を舞う!

 肘から下を切断した。

 追撃でサメ頭の上顎も斬り落とした!


 さすがに痛みは感じるようで、奴は地面を転がった。


 今……斬りつけたとき、なにかを感じた……。


『月華』の刀身が、微かに震えている感じがする……

 まるで共鳴現象でも起こしているような感じだ。


 お! イメージが頭の中に……


 これは……新たな必殺技!

 そして、発動真言コマンドワードも思い浮かぶ……


「燃やし尽くせ! 上弦の太刀 月華浄炎斬げっかじょうえんざん!」


 俺が発動真言コマンドワードを唱えると、綺麗な白銀色の刀身が鮮やかな朱色に変わる!

 そして瞬く間に、炎を纏い荒々しく燃え上がった!


 そして体が自然に動く……大上段の構えから、一直線に炎の刃を振り下ろす!


 ——スパッ

 ——パチッ、メラメラ……


『ヴァンパイアナイトモンスター』が真っ二つになった!


 それでも奴は生きている。

 だが、傷が塞がらない。

 無残に二つに分かれた体が床に転がり、ピクピク動いているだけだ。


 これは……多分だが……この炎の刃で斬られた傷口は、うまく再生できないのではないだろうか。

 完全に再生できないほどの効果があるかはわからないが、少なくとも高速再生を強力に阻害しているのは間違いない。


 もしや……俺は床に転がる奴の半身に、刀を突き立てる。


 ん……もう一つ発動真言コマンドワードが頭に思い浮かぶ……


「燃やし尽くせ! 浄化の炎!」


 俺がそう叫ぶと、突き立てた刀身から奴の半身全体に炎が燃え広がった。

 そして瞬く間に、燃やし尽くしてしまった!


 灰も残っていない。


 これは……すごい!

 これなら『吸血魔物』を倒せる!


 俺は、残りの半身と先ほど切り落とした右手とサメ頭の上顎を、順番に焼き尽くす!



 よし。これで倒せたようだ!


 すごい技だ……敵を焼き尽くすのか……。


 この技は、おそらくアンデッド……特に吸血鬼などの超回復能力のある奴に特効があるのかもしれない。


 この『吸血魔物』を倒せたんだから、普通の吸血鬼やアンデッドはこの炎で間違いなく倒せるはずだ。


 ナビーに空間断絶結界を解除してもらい、みんなに声をかける。


「みんな大丈夫かい? もうこれで敵はいないと思うけど、警戒だけは怠らないようにね。『ドワーフ銀』で活動停止している吸血鬼を調べて、 『死人薬』があれば回収して」


「オッケー」

「わかったのだ」

「任せてなの〜」

「「「はい」」」


「そ、それは……『ヒヒイロカネ』の剣なのです! しかも……ただの『ヒヒイロカネ』の剣ではないのです! 普段は、普通の剣に偽装されていて、発動真言コマンドワードでのみ本来の姿になるのです。その綺麗な朱色は、間違いないのです! 素晴らしい剣なのです! ……い、いえ、それは剣ではないのですね! 伝説の『刀』なのです! 見れて嬉しいのです!」


 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが、そう言いながら俺に走りよる。

 めちゃめちゃ興奮している……


「ミネちゃん、この刀を知っているのかい?」


「知らないのです! でも『刀』を見たいのです! 見せてほしいのです!」


 知っているわけではないのか……

 でも刀の存在自体は知っているということか……。


「いいよ」


 俺はミネちゃんに『魔力刀 月華』をそっと手渡した。


「すごいのです! ミネもいつか……こんな刀が作れるようになりたいのです!」


 ミネちゃんが惚れ惚れするように見つめている。


『月華』は、ミネちゃんに渡したところまでは朱色の刀身を保っていたが、その後すぐに元の綺麗な白銀色に戻った。


「ミネちゃん、これはヒヒイロカネでできているのかい?」


「間違いないのです! さっきの朱色が本当の姿なのです! 朱色の刀身は目立ちすぎるので、普通の刀身に偽装しているのです。ただ、質が良すぎて偽装しても普通の鈍色ではなく、綺麗な白銀色になってしまっているに違いないのです! ミネの『オリハルコン』の風呂敷と同じなのです。たださっきの技は、『ヒヒイロカネ』の特性を最大限に生かした炎を纏った技なので、本来の姿が現れてしまうのだと思うのです!」


 ミネちゃんが、めちゃめちゃ饒舌だ。

 そして、めちゃめちゃ的確な分析だ。

 多分その通りなのだろう。

 それにしても、すごい興奮状態だ。


 なるほど……この刀は『ヒヒイロカネ』でできているのか……。

 しかも、ただの『ヒヒイロカネ』の刀というわけではなく、偽装されているし、必殺技も登録されている。やはり……相当な逸品ということだ。


 しかも、弱点を克服した吸血鬼ともいえる『吸血魔物』をも滅することができた。


 というか……最終的に焼き尽くしていいなら、すべての敵に対して有効であることは間違いない。

 それに、斬り付けただけでも回復や再生を阻害するんだから、再生能力・回復能力の高い敵にも有効だ。


 そう思いつつ……改めて『月華』を波動鑑定してみる。

 もしかしたら、今の新技の発動で『状態』表示の『機能損傷(一部)』というのが、回復しているかもしれないと思ったからだ。


 ところが……あれ!?


『階級』が……『究極級アルティメット』になっている……『極上級プライム』だったのに……


『階級』が上がったのか……そんなことがあるのか……?


 おまけに、『状態』はまだ『機能損傷(一部)』のままだ……


 どういうことなのか……意味不明だ。


 今の技の発動で、『ヒヒイロカネ』の刀としての本来の性能が引き出されたということなのだろうか……。

 それで『階級』が、一つ上がったのかもしれない。


 相変わらず『階級』システムもよくわからない……まぁこれ以上は考えても無駄だな。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る