350.はじめての、たたかい。

 俺は早速、転移の魔法道具を使って、セイバーン公爵領内の『正義の爪痕』のアジトに向かうことにした。


 すでにセイバーン軍の調査で、発見しているかもしれないけどね。


『武器の博士』が持っていた魔法道具を使うが、どういう場所に移転するか分からないので、俺は『闇の掃除人』のときの装備で向かうことにした。


 『隠れ蓑のローブ』を着用して、姿と気配を消して転移するのだ。

 一応『ハイジャンプベルト』と『魔力刀 月華げっか』も、いつも通り装備しようと思っている。


 アジトがあると思われる場所は、二人の博士たちの自白とユーフェミア公爵が王城から持ち帰った情報により、ほぼわかっている。


 セイバーン公爵領の北西の端に近い場所で。ピグシード辺境伯領にも流れているあの大河に近い場所だ。

 ちなみに大河の名前は、『マナゾン大河』というらしい。


 今は閉鎖している大河沿いの都市『イシード市』を、南に下った位置関係になる。

 そして、あの『薬の博士』のアジトだった洞窟というか……『大精霊の神殿』は『イシード市』の南側にあるので、そこから更に南に下った場所ということになるのだ。


 途中に山などがあるわけだが、直線距離で考えれば、それほど遠くない場所なのである。


 二人の博士から没収した旧式の転移の魔法道具は、一人しか転移できないので、ニアたちには、別行動をしてもらうことにした。

『大精霊の神殿』までサーヤの転移で移動し、そこからは飛竜船を使ってアジトがあると予想される場所の近くに移動してもらうことにした。

 そこで待機してもらって、なにかあったら駆けつけてもらうという算段にしたのだ。



 よし、行くか!


 俺は、懐中時計型の転移の魔法道具『転移の羅針盤 小型三式』の指示棒を、登録されている一番の場所に合わせスイッチを押す——


 ————一瞬だった。


 ここは……地下空間のようだが……結構広い空間だ。


 おおっと、のんきに観察している場合ではないようだ!


 戦いの真っ只中に、きてしまったようだ!


 セイバーン公爵軍と『正義の爪痕』の構成員たちが戦っている。

 いや……構成員は極一部で……『死人魔物』が暴れている。


 でもなんとなく……『死人魔物』の雰囲気がいつもと違うような気がするが……


 今は考えている場合じゃないな……。

 俺も討伐に協力しよう!


 あ、……あれは……シャリアさん……セイバーン公爵家長女のシャリアさんだ!

 その横で戦っているのは、近衛隊長のゴルディオンさんだ。


 あの二人なら『死人魔物』に遅れをとることはないと思うが……

 いや……なにか不利な感じだ……。

 あれは……そうか『死人魔物』が、二体で連携して戦っているのだ!

 蛇の『死人魔物』が二体、協力して戦っている!


 どういうことだ?


 ……まるで人間としての意思を保ちながら、魔物になったみたいじゃないか!?


 いや……そうなのかもしれない……。


 クリスティアさんからも、報告が上がっていたからね。


『正義の爪痕』は、『死人薬』を改良して、人間の意識を残せないか研究していたとの報告を受けていたのだ。

 まさか……もう実用化しているのか?


 いや……もしそうなら『薬の博士』が使わなかったのも、不自然な気がする。

 それに、『強制尋問』スキルを使ったクリスティアさんの尋問に対しても、完成しているとは答えていない。

 ということは……少なくとも『薬の博士』が思っているような改良薬は、完成していないはずだ。

 やはり別の何かなのだろうか。


 いや、考えてる場合じゃないな。


 まずは、二人の助っ人に入ろう。


 姿を隠したままでは余計な不安を与える可能性があるので、ここはあえて姿を現わすことにした。

 知り合いに対しては、むしろその方がいいだろう。


 俺は装備を外し、通常の状態に戻した。

 そしてすぐに『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーを顕現させた!


 これは、元々俺が考えていた作戦だ。

 ナビーが顕現できるようになったことによって、俺一人しか転移できなくても、転移後にナビーを顕現させれば二人になるというわけだ。

 しかも俺自身と同じ能力を持った、俺よりも優れた頼りになる相棒だ!


「ナビー、俺はシャリアさんたちの援護に行く! こっちは任せたよ!」


「了解です。お任せください! 初めての戦闘……思う存分、屠らせていただきます!」


 ナビーはそう言うと、『波動収納』から『武器の博士』のメイン武器だった二本の大剣を取り出した!

『魔剣 ハウリング 右牙』と『魔剣 ハウリング 左牙』の二本だ。


 確かに俺と全く同じステータスとスキルを持っているナビーなら、難しい大剣の二刀流も可能だろう。

 しかも、魔力調整は俺より上手そうだし。


 ナビーは、怜悧な笑みを浮かべると、二本の大剣を肩に担いだ!

 ナビーは、俺の願望の表れのせいか……顕現しても……元いた世界の知的な美人秘書スタイルのままだ。

 タイトなスカートのビジネススーツと少し尖った眼鏡をかけている。

 完全にできる女……キャリアウーマンスタイルなのだ!

 そして、そのスタイルのまま大剣を二本軽々と担いでいるのだ!

 しかも……ビジネス仕様でそれほど高くないとはいえ、なぜかヒールを履いている!

 なぜか……というか……俺のイメージのせいだよね……。


 でも……ヒールとスーツ姿のまま大剣を二本担ぐという……このアンバランスで凶悪な感じ……なぜか……めっちゃかっこいい!


 なんか……ナビーについていきます……みたいな気持ちになってくる……。


 そんな俺の気持ちも筒抜けなようで……ナビーに、一瞬睨まれてしまった……。

 でもなぜか……ちょっとキュンとなってしまった……。

 俺って……絶対やばい方向に向かってる気がする……。

『アラクネロード』のケニーに睨まれて、グフグフ喜んでる『ミノタウロス』のミノ太のことを笑えない感じになってきてしまった……ヤバすぎる!


 いかん、いかん、……そんなことはどうでもいい。


 ナビーは『死人魔物』を、二本の大剣で屠りまくりだした。

 バンバン、ぶった斬ってる!

 俺より強いんじゃないかな……ちょっとだけ自信なくすわ……。


 そんな感じなので、こっちはナビーに任せれば大丈夫だろう。


 俺は急いで、シャリアさんたちの方に向かった。


「シャリアさん、ゴルディオンさん、援護します!」


 俺がそう声をかけると、二人は同時に振り向き、一瞬驚いた顔をした。


「グ、グリムさん! どうして、あなたがここに?」


 シャリアさんが視線を『死人魔物』に戻しながら、声を張り上げた。


「詳しい説明はあとです! まずは『死人魔物』を倒してしまいましょう!」


 俺がそう声をかけると、シャリアさんもゴルディオンさんも『死人魔物』を睨みつけたまま、首肯した。


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