351.突然の、新技。

  俺は、セイバーン公爵家長女のシャリアさんと近衛隊長のゴルディオンさんの援護に入り、共闘することにした。


 相手の『死人魔物』は二体とも、蛇の『死人魔物』で両腕が蛇になっている。

 四体の蛇が不規則に動きながら、攻撃を仕掛けてくる。

 連携して動かれると、なかなかに厄介なのだ。


 俺は『魔法の鞭』を取り出し、一体の『死人魔物』の胴体に巻きつけた。


「この一体は、私に任せてください! お二人は、残りの一体を倒してください!」


 俺はそう言って、鞭を力任せに引き寄せて一体の『死人魔物』を地面に転がした。


 本来なら、この『魔法の鞭』を巻きつけると麻痺状態になるはずなのだが、『死人魔物』には効かないようだ。


 俺は鞭を外し、魔力を流し棒状に固定して棍棒形態にした。

 そして『死人魔物』の頭を貫いて粉砕した。


 その間にシャリアさんとゴルディオンさんも、もう一体の『死人魔物』を倒していた。


 だが……これで終わりではないようだ。

 かすかに……笛の音のようなものが聞こえる……


 これはもしや……操蛇の笛……?


 確か……情報ではこのアジトには、死んだ『道具の博士』の一番弟子がいて、研究を続けているとのことだった。

『操蛇の矢』と『操蛇の笛』がここにあっても不思議ではない……

 というか……絶対あるはずだ!


 そう思っていた矢先、やはり嫌な予感が当たってしまった!


 地響きと共に、この空間の奥の方から巨大な蛇魔物が現れた。


 一見した感じでは……どこにも矢が刺さっているようには見えないが……おそらく『操蛇の矢』が使われているのは、間違いないだろう。

 そして『操蛇の笛』で操られているようだ。


 ただ……操るといっても、単純な誘導ぐらいしかできないようなので、基本的には蛇魔物が勝手に暴れるということなのだろう。

 それにしても、こんな地下の限定空間で巨大生物に暴れられたらまずい。

 下手をしたら、天板が崩れて、この空間自体が潰れてしまうかもしれない。


  三十メートル越えの蛇魔物が、三体も向かってきている。

 その三体だけで、この空間が埋め尽くされそうだ。

 少し暴れただけで、人間など押しつぶされてしまう感じだ。


 一気に倒してしまわないと、この空間自体が崩壊してしまいそうだ。


「マスター、私が動きを止めます! その隙に『魔剣 ネイリング』で首を落としてください!」


 ナビーがそう言いながら走り寄ってきた。


 もう暴れていた全ての『死人魔物』を屠ってしまったようだ。

 構成員の対処は、兵士たちに任せたらしい。


「わかった! ナビー、頼むよ!」


 俺はそう言って、『波動収納』から『魔剣 ネイリング』を取り出し、構えをとった。


 ナビーは、二本の大剣を体の前で縦にクロスさせると、今後は剣同士を軽く擦り合わせながら剣先を前方に向けた!


 ——キキキイイインッ

 ——ビュウン、ビュウン、ビュウウウウンッ


 剣と剣が薄く擦れ合う音が、途中から不思議な共鳴音へと変わった!


「吠えろ! ハウリング!」


 おお! ナビーが発動真言コマンドワードを唱えたようだ!


 いつのまに……

 いや……おそらく……自然に発動真言コマンドワードが思い浮かんだのだろう。

 つまりナビーは、あの大剣を使いこなしたということのようだ。


 前方に突き出した二本の大剣の周囲から渦が巻き起こり、二つの竜巻は共鳴しているかのようにうねりながら、前方に発射された!


 正面から受けるかたちとなった蛇魔物三体は、ノックバック状態になり、突進の勢いを殺された。

 ナビーが大剣を上下に動かすと、二つの竜巻は一度上を向いたあとに、下に向きを変えた。

 これにより、蛇魔物は地面に押し付けられた状態になって、一瞬動きを止めた。


「マスター、今です!」


 ナビーの合図に首肯して、俺は『魔剣 ネイリング』を上段に構えてジャンプした!

 そして空中から叩きつけるように振り下ろし、蛇魔物の首を両断した!


 あれ……今の感じ……

 この『魔剣 ネイリング』から、なにかを感じる……


 これは……発動真言コマンドワードか……

 頭の中に、突然思い浮かんだ!

 今まで使ったときには、なかった感覚だ……

 俺はその感覚のままに叫ぶ!


「伸びろ! ネイリング!」


 すると……『魔剣 ネイリング』の剣先が、獲物を狙う爪先のように鋭く変形し、更に剣自体が大きく伸びた!

 俺は、無心でそのまま蛇魔物を斬りつけた!


 ——スウィーーンッ


 空気をも切り裂くような音とともに振り下された長い刃は、残り二本の蛇魔物の首を同時に切り落としていた!

 一瞬だが、何メートルもの長さに伸びていた!


『魔剣 ネイリング』には、俺の知らない機能があったようだ。


 これなら巨大な相手にも充分剣を振るえる。

 凄い機能だ!


 しかし、なぜ今発動したのだろうか……


 まさかナビーの使った『魔剣 ハウリング』から影響を受けたわけではないよね……?

 なんとなく名前似てるけど……いや……考えすぎだな……。

 


 こうして蛇魔物は瞬く間に倒すことができたが、元凶を叩かないと次の手がありそうだ。


 俺はすぐに、魔物がきた奥のスペースに向けて走りだした。

 ナビーも一緒だ。


 奥には……白衣を着た四十代くらいの痩せこけた男がいた。

 おそらく……このアジトの責任者だろう。

『道具の博士』の一番弟子というのは、コイツに違いない。


 現れた俺たちを見て、なにかしようとしていたが……


 させないよ!


 俺は魔法の鞭を放って、ヤツを麻痺させ拘束した!


 これでもう大丈夫だろう……。


 念のため『波動検知』かけてみる……


『正義の爪痕』の構成員は、もういないようだ。

 生きている構成員は、すべて拘束されている。


 念のため、魔物にも焦点を当てて『波動検知』をかけてみる……


 お……まだ魔物がいる……蛇魔物が二体残っている!


 すぐ近くだ……


 俺は急いで確認に行ったのだが……

 ……巨大な檻に入っていた。


 それにしても……魔物を捕まえて、閉じ込めておくなんて……そんな強固な檻が作れるなんて……。

 やはり『正義の爪痕』の技術力……侮れない……。


 捕まえること自体が普通は難しいだろうが、おそらく『操蛇の矢』を射って、『操蛇の笛』で誘導して連れてきたのだろう。


 俺は蛇魔物二体を倒してしまおうかと思ったのだが……一旦やめることにした。


 今のところ檻の中に入っていて実害もないし、せっかくなので少し実験をさせてもらおうと思う。


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