345.魔法道具作りの、天才少女。

 ドワーフの少女ミネちゃんが、説明するために最初に広げた魔法道具は風呂敷だった。


「これは『オリハルコン』を薄くのばして作った魔法の風呂敷なのです。苦労したのは、『オリハルコン』の黄金の輝きが目立ちすぎるので、黒く変色させるのが大変だったのです。魔力を流して念の力で自由に形を変えられるのです。盾のように使ったり、鞭のように巻きつけて拘束したりできるのです。マントとして羽織ると、背後の防御は完璧なのです。丸めると、打撃武器のメイスとして使えるのです。一番の機能は、魔力を流して貯めておくことができるのです。魔力が切れたときに、貯めておいた魔力を吸い上げて使うことができるのです!」


 ミネちゃんは、鼻息を荒くしながら説明をすると、胸を張った。


 内容が凄すぎて……唖然としてしまった……。


 なにそのビックリ機能!

 やっぱりこの子……天才少女なんだ……。


『オリハルコン』を薄くのばして作ったとか……簡単に言ってるけど……それ絶対難しいやつだよね!

 俺は詳しくないけど、絶対そんな気がする……。

 そして特性である輝きを消しちゃうとか……どんな技術よ……。


『オリハルコン』は魔力を通しやすい素材だと言っていたから、魔力を通して念の力で変形させるっていうのは、なんとなくわかる気もするけど……

 いや、でも変形って……絶対大変な機能だと思うんだけど……。


 盾になったり、拘束具になったり、マントになったり、打撃武器になったり、用途が広すぎるんですけど……。


 それにしてもマントとは……アメコミヒーローのようにマントをつけるっていうのも、なかなかいいかもしれないが。


 冷静に考えると、恥ずかしすぎて絶対やりたくないが……


 ただなんとなく……中二心が疼く感じがする。


 いざとなったら、ノリでやってしまいそうだ……。


 極め付けは、魔力を貯めておいて、後で使えるとか……まるで『魔力電池』じゃないか……。


 その機能……絶対欲しいんですけど……。


 俺の膨大な魔力を、『魔力電池』みたいなものに貯めておけるなら、絶対いいよね。


 魔力の自然回復量がかなりあるから、毎時かなりの量の魔力を放出しても大丈夫なので、すごい量の魔力を貯蓄できそうだ。


 族長のソイルさんも、ミネちゃんのご両親も、説明を聞いてかなり驚いていたが、その後は目をキラキラさせている。


 まるで子供の運動会の応援に来ているような雰囲気だ。


『大精霊ノーム』のノンちゃんは、相変わらずニヤニヤしている。

 そしてなにか……生徒を見守る先生のような感じでもある。


 ニア、リリイ、チャッピーは、目をキラキラさせながら身を乗り出して聞いていた。

 サーヤと『土使い』のエリンさんは、やはり驚きの方が大きいようだ。

『ミミックデラックス』のシチミ、『竜馬』のオリョウ、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルは、楽しそうに見ている。

 俺の相棒、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーは、今は顕現していない。

 これから転移で帰るとこだったし、顕現する必要がなかったからだ。

 俺の中にいても情報は拾っているわけだし、自由に念話で仲間たちとコミニケーションも取れるからね。


 ちなみにこの新開発アイテムの魔法の風呂敷には、『魔法風呂敷 マルチブルクロス』という『名称』をつけたようだ。

『階級』は、『極上級プライム』となっていた。

 俺的には、『究極級アルティメット』でもいいような気がするが……どういう基準で階級がついているのか……『階級』システムは相変わらず謎だ。


 次にミネちゃんが取り出したのは、風呂敷に包んで担いでいた四角い箱だ。


『名称』が『機動司令室モビルコマンドルーム』で、『階級』が『極上級プライム』とのことだ。


 ただの四角い箱にしか見えないのだが……

 銀色に光っているので、おそらく『ミスリル』製だろう。

 なんとなく……俺が好きだった女神を守るために戦う星座の戦士たちのアニメに出てきた、鎧を入れていた箱にも見えてくる……。


「展開!」


 ミネちゃんが箱に触れて、発動真言コマンドワードを唱えたようだ。


 すると……


 ただの箱がみるみる変形していく……


 机と椅子が一体化したような楕円形のものに変形した……。


 見た目はなんとなく……赤ちゃんが歩く練習をするための歩行器……円盤形というか楕円形な感じのベビーウォーカーにそっくりだ!


 そしてミネちゃんは、かっこよくジャンプすると、椅子に着地してすっぽりと収まった。


 ベビーウォーカーを思い浮かべてしまったからか……小学生が巨大なベビーウォーカーに入って遊んでいるようにしか見えなくなってしまった……。


 ————ビューンッ

 ————ブーーーーンッ

 ————ブーーーーンッ


 なんと!

 ホバークラフトのように地面から少し浮遊して、高速移動を開始した!


 ベビーウォーカーのテーブルの部分に、戦闘機についてるような操縦桿がついていて、ミネちゃんが操作しているのだ。


 なにこれ!

 ……この子……こんなものまで作っちゃったの?

 どういう原理で動いてるわけ……?

 もうファンタジーというよりも…… SF寄りになってきてるんですけど……。


 そしてミネちゃんがもう一つを操縦桿を握ると、今度はソフトボールくらいの大きさのてんとう虫型の人形が飛び立った!


 そしてミネちゃんは、まるでドローンを操作するかのように、自由自在にてんとう虫人形を操作していた。

 今日は実演しないが、てんとう虫人形から魔力弾を発射して敵を攻撃できるらしい。

 災害時には、消火活動などもできるそうだ。


 それにしても……すごいなぁ……本当にドローンみたいなんですけど……。

 ……欲しいなぁ……ミネちゃん俺に作ってくれないかなぁ……。


 高速移動できる本体と飛行できるてんとう虫人形で、様々な局面に対応できることをコンセプトにしているらしい。

 地上と空からの同時攻撃などもできるようだ。


 ……やばい……リリイとチャッピーがすごいおもちゃを見つけた子供のような顔をしている……。


 族長のソイルさんとミネちゃんのご両親は、腰を抜かさんばかりに驚いている……


 やはり彼らには、この魔法道具の凄さがわかるのだろう。



 どうやら新作アイテムは、これで終わりのようだが……凄すぎる……。


 はっきり言って、言葉が出ない……。


 ていうか……この子……天才すぎるだろ!


 万が一にも『正義の爪痕』に捕まったり、魔法道具を盗まれたら……考えただけで、ゾッとするわ……。


 そう思いながらミネちゃんを見ると、今度はお腹のポケットに手を突っ込んでいる。


 ミネちゃんは可愛いベストのようなものを着ているが、お腹に大きなポケットが付いている。

 まるで……いろんな未来道具を出してくれる猫型ロボットのようなポケットだ。


 そしてどうやら、それはまんざら……はずれてもいないようだ。


 どうもあのベストのお腹ポケットは、魔法カバンの構造になっているようだ 。


 今度は腕時計型の魔法道具を二つ取り出した。


 あれは……昨日俺がもらった最新型の『極上級プライム』の転移の魔法道具『転移の羅針盤 百式』と似ているが……。


「これはリリイとチャッピーにプレゼントなのです! 『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』なのです! 追加で、お話しできる機能をつけたのです! 今朝作ったのです!」


 ミネちゃんはそう言って、リリイとチャッピーに魔法道具を渡すと詳しく説明してくれた。


 基本性能は俺が貰った『転移の羅針盤 百式』と同じようだが、それに追加で通信機能が付与されているとのことだ。


 事前に登録した特定の相手と、無線通信のようなことができるらしい。

 通信を発動すると、相手の魔法道具が一瞬振動するので着信がわかるらしい。

 急に音がでるわけではないので、潜入任務のときも支障はないようだ。

 これなら……俺の『絆』メンバーになっていなくて念話が使えないミネちゃんとも、頻繁に連絡できるだろう。

 そして本当にやろうと思えば、リリイとチャッピーの居場所を聞いて、毎日でも遊びに来れるかもしれない。

 というか……ミネちゃんはそういう顔をしている……この子……完全に本気だわ……。


 それにしても通信機能を簡単に追加しちゃうなんて……しかも今朝作ったって言った気がしたけど……。

 もうわけわかんないんですけど……

 ミネちゃん……もう完全にチート状態なんですけど……ものづくりのチートじゃねーか!

 教えてほしーーい! 弟子入りしたいわ!


 通信機能なんて便利すぎて……『フェアリー商会』用に大量発注したいわ!


 ていうか……本気で大量に発注しよう。


 あれ……待てよ……


 俺は改めて、このミネちゃんが改良した魔法道具の『階級』を『波動鑑定』してみた。


 すると……『究極級アルティメット』に上がっていた!


 そりゃそうだよね……。


 通信手段が発達していないこの異世界で、通信機能なんて……それは『究極級アルティメット』になっちゃうでしょ……。


 ということなので……一般に向けて大々的に販売するのは、すぐには難しいだろうな……。

 俺は感覚が麻痺しちゃってるけど、『究極級アルティメット』のアイテムなんて、普通は目にできないアイテムだからね。


 やはり商会の幹部だけで極秘で使うとか、アンナ辺境伯やユーフェミア公爵のように信頼のおける人だけに渡すくらいに止めておかないと……いろいろまずいかもしれない……。

 まぁそもそも……ミネちゃんやこのドワーフの里の人たちが、俺の発注に応じてくれるかわからないけどね……。


 それにしても……『究極級アルティメット』のアイテム作っちゃう女の子って……。


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