346.四人目の博士の、正体。

 改めてドワーフのみんなや『土の大精霊 ノーム』のノンちゃんに別れの挨拶をして、俺たちはサーヤの転移で領都の商会本部に移動した。


 そしてすぐに領城に向かった。


 まだ早朝だが、アンナ辺境伯たちは、すでに会議室に集まっているようだ。


「おはようございます。ただ今戻りました」


 俺は挨拶をして、『正義の爪痕』のアジトの追加調査の報告をした。

 もちろん『大精霊の神殿』やドワーフたちのことは、伏せたままだ。


 追加調査で押収した『薬の博士』が隠していたアイテムを提示した。


極上級プライム』の『秘密収納箱シークレットボックス』、同じく『極上級プライム』の『魔法カバン』、そこに収納されていた『薬の博士』の何冊もの分厚い研究ノート、八つの大きな宝箱、木箱に入った三種類の薬(丸薬タイプの従来の『死人薬』、カプセル型の改良型の『死人薬』、ドーナツ型のトローチのような見た目の五色の『認識阻害薬』)、いくつかの試作中らしき薬などだ。 


 八つの大きな宝箱の内訳は、五つが金貨などの硬貨で、残り二つが宝石類、一つが道具類となっている。


 大きな宝箱五つ分の硬貨は、約二十五億ゴルになる。

 宝石類は、ダイヤモンド、エメラルド、ルビー、サファイア、ガーネット、アクアマリン、オパール、トパーズなどだ。

 道具類の主なものは、実験に使う細かな道具などで特に魔法道具というわけではないようだ。

 ただ護身用かもしれないが、『連射式の吹き矢』が五本入っていた。

『薬の博士』の研究ノートや特殊な薬類以外の魔法道具や財宝は、俺の功績への報酬として与えるとアンナ辺境伯に言われた。

 宝石などは『石使い』のカーラちゃんの役にも立つだろうし、俺はありがたく頂戴することにした。


 それから領城の使っていない大広間に移動して、アジトの倉庫から没収した大量の食料も取り出した。


 麦類、芋類、カボチャ類、ウリ系の野菜、リンゴ、パイナップルなどである。


 やはり俺の功績として全て与えると言われたが……珍しい野菜、果物、種だけ頂戴することにした。

 一般的な食料は、全体で役立ててもらったほうがいいからね。


 俺はそんな感じで、簡潔に報告を済ませた。


 今度は審問官のクリスティアさんから、現時点で尋問によって判明したことの説明があった。


 幹部である二人の博士はかなり高レベルだったが、『強制尋問』スキルの効果で問題なく情報を引き出せたようだ。スキルがレジストされるということは、なかったらしい。


 やはりあのアジトは『薬の博士』のアジトで、そこにいた構成員たちは『ドラッグワン』という直属の急襲部隊だったようだ。

『武器の博士』は、前回『ナンネの街』を襲撃したときに、直属部隊の『ソードワン』を失い、一時的に身を寄せていたようだ。

『道具の博士』は、俺がアジトになっていた『アイテマー迷宮』を急襲したときに、自爆のような形で死んだわけだが、実は一番弟子と古参の助手たちが別の場所で研究を続けているということが明らかになった。そして彼らにも『アイテムワン』という名の直属の急襲部隊がいて、守っているらしい。


『道具の博士』のアジトで捕まえた助手たちは、新しい助手たちで、一番弟子や古参の助手たちのことはよくわかっていなかったようだ。

 だから尋問でも、情報が出てこなかったのだろう。


 そして四博士と言われている中の、最後の一人の博士の情報も明らかになった。


 今までの三人の博士と違い、『正義の爪痕』の構成員ですら、ほとんど情報を持っておらず謎の博士などと言われていた人物だ。


 正式な通り名は『血の博士』らしいが、別名『魔導の博士』とも呼ばれているらしい。

 もっともごく少数の幹部しか関わることがなく、普段は表立った活動はしていないとのことだ。


 新たに分かったこととしては、『正義の爪痕』には 四博士の上に首領がいるということだ。

 そして、『血の博士』がナンバー2で、実質上、この『血の博士』がすべてを取り仕切っているらしい。

 『正義の爪痕』の並外れた技術力のほとんども、『血の博士』が提供しているのだそうだ。


 そしてこの『血の博士』は…… 人族ではないらしい。

 なんと……吸血鬼……それも上級吸血鬼の『ヴァンパイアロード』なのだそうだ。

 そして……『ブラッドワン』という名前の直属の急襲部隊を持っていて、全員が吸血鬼らしい。


 吸血鬼って……俺の中では結構弱点が多いイメージではあるけど……


 俺はアンナ辺境伯やクリスティアさんに、吸血鬼の特徴を尋ねた。


 吸血鬼についてはいろいろな文献に残されていて、特徴はかなり詳細に把握されているようだ。


 一般的な吸血鬼……正式には下級吸血鬼のようだが、この下級の吸血鬼は日の光に当り続けると、浄化され燃え尽きてしまうようだ。

 ただ上級吸血鬼になると、普通にお日様の下で活動できるらしい。


 吸血鬼全体に効果があるのは『銀』だが、その上位互換ともいえる『ドワーフ銀』には特効があるようだ。

 この情報は、ドワーフの里で聞いたのとほぼ同じ内容だ。


『ドワーフ銀』で傷つけられると、かなりのダメージを受け、吸血鬼の超人的な再生力を阻害するのだそうだ。

 そして心臓に突き刺すと、仮死状態にして封印できるらしい。


 血を吸われると、みんな吸血鬼になってしまうのかと思い確認したところ、どうもそうではないようだ。


 吸血鬼に血を吸われただけでは、吸血鬼にはならないようだ。

 もっとも加減のできない吸血鬼や殺戮に狂った吸血鬼に血を吸われれば、大量の血を失って失血死してしまうようだが。

 吸血鬼に吸われた血と同程度の吸血鬼の血を取り込むことを三回繰り返した後に、一度心臓が止まると吸血鬼として蘇生するのだそうだ。

 やはり一種のアンデッドのようだ。


 下級の吸血鬼『ヴァンパイア』が、レベルが上がってクラスチェンジすると中級吸血鬼『ヴァンパイアナイト』や上級吸血鬼『ヴァンパイアロード』になるらしい。


 上級吸血鬼『ヴァンパイアロード』である『血の博士』のアジトの場所や組織の首領の潜伏場所については、幹部である『薬の博士』や『武器の博士』も知らなかったようだ。

 クリスティアさんの『強制尋問』スキルを使っても、言わないのだから本当に知らないのだろう。


 やはり恐ろしい組織だ。

 幹部にすら完璧な情報統制がかかっている。


 ただなにかあったときに、幹部が集まる古いアジトがあるらしく、転移の魔法道具に転移先として登録してあるのだそうだ。

 そこは、ヘルシング伯爵領内にあるらしい。

 おそらくそこが二人の博士が、共通して登録してある転移先だろう。

 いざというときの緊急避難場所としても、使うことになっているそうだ。


 クリスティアさんは俺が尋ねるまでもなく、転移の魔法道具に登録してある転移先のことまで聞き出していた。

 いつもながら優秀すぎる。


『薬の博士』の魔法道具には、もう一つ転移先が登録してあったが、それはセイバーン公爵領内にあるアジトで、死んだ『道具の博士』の一番弟子と古参の助手たちが今も研究をしている場所のようだ。


 これ以外の稼働中のアジトの情報は、聞き出せなかったようだ。


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