344.突然の、申し出。

 改めて挨拶をして、いよいよサーヤの転移で戻ろうと思ったその時——


 俺たちに向かって、ドワーフの女の子が土煙を上げながら走ってきた!

 風呂敷のような大きな荷物を担いで爆走してくる!


「ミネちゃんなのだ!」

「ミネちゃんなの〜、友達なの〜」


 リリイとチャッピーが嬉しそうに前に出た。


 リリイとチャッピーは、ドワーフの子供たちとすっかり仲良くなっていたが、確か……あの子はリリイとチャッピーとずっと一緒にいた子だ。


 昨夜紹介された時……確か……族長のソイルさんの孫娘と言っていた子のようだ。

 さっきまでここに居たのに、いつの間に荷物を取りに行ったのだろう……。


「ミネもリリイとチャッピーと一緒に行くのです!」


 ミネちゃんは、俺たちの前で急停止すると、突然そんなことを宣言した!


 なごやかな雰囲気だった俺たちに、結構な衝撃が走った!

 そして本人は、めっちゃ本気な顔つきをしているけど……。


「やったーなのだ! 一緒に行くのだ!」

「わーいなの!嬉しいなの!」


 リリイとチャッピーは、無邪気に喜んでいるが……


「これミネ! 突然なにを言ってるのだ! この里を出ることは、まかりならん!」


 祖父であり、族長であるソイルさんが、慌ててミネちゃんを脇に抱えた。


 そりゃそうだよね……隠れ里の民だし……族長の孫だし……。

 ソイルさんも可愛い孫を、危険な地上になんか送り出せないよね。


 昨日ちょっと聞いた話だと、ミネちゃんはおじいちゃん子らしいし、ソイルさんもミネちゃんの話をするときは、イケメンマッチョなロマンスグレーの族長から、ただの好々爺になっていたからね。


「いやなのです! ミネは一緒に行くのです! 今こそ冒険の時なのです!」


 ソイルさんに脇に抱えられたミネちゃんは、手足をバタバタさせながら抗議している。


「これミネ! 無理を言うでない!」

「そうよ、ミネ! 地上を旅するなんて、絶対ダメよ!」


 ミネちゃんのお父さんとお母さんも出てきて、諫めている。


「いやなのです! ミネはリリイとチャッピーと一緒に、冒険の旅に出るのです!」


 ミネちゃんは、なおも手足をバタバタしながら抗議をしている。


「どうしてダメなのだ?」

「一緒に行きたいなの〜」


 リリイとチャッピーは、悲しげな表情でソイルさんに詰め寄っている。


「我々『ノームド』氏族は、代々この隠れ里に住んで、この神殿を守るのが務め、勝手に旅になど出れないのだよ」


 ソイルさんが、優しくリリイとチャッピーに諭すように言ってくれた。


「ミネちゃん、俺たちは旅に出ているわけじゃないんだ。あちこち動いてはいるけどね。族長もお父さんもお母さんも、他のみんなも心配するから、一緒にくるのは今はやめた方がいいよ。もう少し大きくなってから考えよう。それに転移で、いつでも遊びに来れるでしょ」


 俺は、彼女にできるだけ優しく語りかけたつもりだったのだが……


 ミネちゃんは、バタバタするのをやめて……涙をポロポロ流し出した……。


 ……ガーン。

 ……小さな子にポロポロ涙を流されるなんて……耐えられない。

 ……おじさんの胸は……今張り裂けそうです……。


 俺は抱きかかえられているミネちゃんを、抱っこさせてもらって地面におろした。

 そして抱きしめた。


 思わず耳元で囁いてしまった……


「転移の魔法道具を使って、毎日遊びにくればいいよ。それなら一緒に行動してるのと同じでしょ。それじゃだめかな?」


 ……と我ながら、めちゃめちゃ甘いことを言ってしまった……。


 かなり問題はあると思うのだが……これなら…… 里に暮らしながら、俺たちともマメに会える……理論上はだが……。

 ただ……実際には毎日来るなんて……できないだろうな……。

 なんか……子供に適当なこと言って誤魔化したような感じになってしまった。

 罪悪感が半端ない……。


 だが俺のそんな悔恨など関係なく、ミネちゃんは笑顔を取り戻した。


「わかったのです! 遊びに行くってことで我慢するのです!」


 ミネちゃんが明るく宣言し、族長とご両親は少し微妙な表情になっていたが……

 この場を収めるために、苦笑いをして済ませてくれたようだ。


 この三人の感じだと……ミネちゃんが転移で遊び来るのは、かなり大変そうだ……。

 なんか騙したような感じになっちゃって……ほんとにちょっと心が痛くなってきた……

 おじさんの胸は……今再び張り裂けそうです……ミネちゃんごめん……。


 リリイとチャッピーは、少し残念そうな顔をしたが、俺がミネちゃんの耳元でささやいた言葉を聞き取っていたのか、二人でミネちゃんに近づいて小声で「毎日会えばいいのだ!」「そうなの〜」と言っていた……。


 はあ…………おじさんの胸は……ますます張り裂けそうです……トホホ。


『大精霊ノーム』のノンちゃんは、ニヤニヤしながら俺たちの様子を見ていたが、特になにも言わなかった。


 あえて干渉しないのだろう。



 ミネちゃんの気持ちがなんとか収まって、これでようやく出発できると思ったら……


 ミネちゃんが、今度は担いでいた風呂敷を広げ始めてしまった。


 なにやら……魔法道具らしきものの説明をはじめるようだ。


 族長のソイルさんが止めてくれるのかと思ったが……


 さっきまでのキリッとした顔と違って、好々爺の顔になっていた……。


 そういえば、昨日言っていたっけ……。

 孫のミネちゃんは、魔法道具作りの天才だと……

 ドワーフの里始まって以来の天才じゃないかと……

 ニヤニヤしながら、言っていたっけ。


 そしてお父さんもお母さんも……止めるところが、興味津々に身を乗り出している。


 この感じからして……新しいアイテムのお披露目のようだ。


 俺も少し興味が出てきた。

 まぁ急いで帰る必要もないし、ドワーフの里始まって以来の天才少女の発明品を見させてもらうことにしよう。


 まずは……風呂敷から?




 

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