343.ミスリルの、剣。

 宴会をしながらいろんな話を聞いてるうちに、すっかり遅くなってしまったので、今夜はこの里に泊めてもらうことになった。


 リリイとチャッピーもドワーフの里の子供たちとすっかり仲良しになっていたので、泊まれることが嬉しいようだ。


 顕現していたナビーは、一旦解除して俺の中に戻ってもらった。

 顕現状態を維持するのは、それなりに大変なのだ。


 アンナ辺境伯たちが心配しているかもしれないが、今日はこのままゆっくり休んで、明日の朝一番で戻ればいいだろう。


『大精霊ノーム』のノンちゃんは、今後どうするのかと思って尋ねてみると……


「ワシは、世辞にあまり干渉できんからのう。しばらくは、この里でのんびりするのじゃ。ただ少々やらねばならぬこともあるし、やってみたいこともあるから……自由に動くつもりなのじゃ。たまに遊びに行くつもりじゃから、そのときはよろしくなのじゃ!」


 ノンちゃんはそう言って、ニコッと微笑んだ。

 今後の予定は……のんびり&自由気ままってわけね……羨ましい限りだ……。

 俺も本来そうしたかったのだが……なぜにこうなった……?

 なんかいろいろ巻き込まれているんだよな……まぁ基本楽しいからいいけどさ……。


「いつでも歓迎するから、気軽に遊びにきてね」


 俺はノンちゃんにそう言って、抱き上げてブンブン振り回すという『抱っこブンブン』をしてあげた。


 ノンちゃんは、ゲラゲラ笑って大喜びしていた。


 そしてそれをやってしまったがために……リリイとチャッピーのみならず、ドワーフの子供たち全員に『抱っこブンブン』をやることになってしまった……。


 ノンちゃん同様、みんなゲラゲラ笑って喜んでいた。

 子供の笑い声っていいね……すごく楽しい時間だった。



 それからノンちゃんと族長のソイルさんに、この『大精霊の神殿』全体についての説明を受け、今後の来訪の仕方について打ち合わせをした。


 ドワーフの隠れ里があるのは、神殿の『本殿』エリアといわれる場所で、俺たちがここにくるきっかけとなったあのほこらがあった地下洞窟は『前殿』と呼ばれる場所のようだ。

 そして『正義の爪痕』がアジトにしていた地上洞窟は、『仮殿』といわれる場所で、『本殿』『前殿』『仮殿』の三つを全て含んで『大精霊の神殿』となっているとのことだ。

 本来は三つとも秘匿されていることが望ましいが、仮に見つかったとしても『仮殿』でカモフラージュするということのようだ。

 究極的には『本殿』だけが、秘匿できればよいということなのだろう。

 太古の時代の平和なときには、『前殿』が皆が集う聖なる場所で、『仮殿』が皆で賑わう場所として運用されていたこともあったようだ。

 例えるなら……『前殿』が『神社』で、『仮殿』が『門前町』みたいな感じだったのだろうか。


 俺は『前殿』の祠のある広場に、転移用のログハウス置かせてもらうことにした。

 ノンちゃんは、俺たちなら特別に『本殿』置いてもいいと言ってくれたのだが、安全策で『前殿』に設置することにした。

 ないとは思うが、万が一悪者に悪用されたらまずいからね。


『前殿』の祠に行けば、俺たちのように一度訪れたことがある者は、転送されるらしい。

 逆に一度も訪れたことがないものは、普通には転送されないようなので、安全装置として機能するようだ。


 ドワーフたちから貰った転移の魔法道具を使って訪れるときも、同様に一度『前殿』にくることにした。

 だから転移先の登録も『本殿』ではなく、『前殿』の祠の前のスペースにした。


 そしてなぜか……『前殿』と『仮殿』は、俺の判断で活用してくれて構わないと言われてしまった。


 ただできれば、『前殿』は俺の仲間たちだけの使用にしてほしいと言われた。


 当然の要望だと思うが、それ以前にできるだけ使わない方がいいと思うんだよね。

 俺も無理に活用させてもらう必要もないし…… 。

 この『大精霊の神殿』の安全を考えて、『前殿』も『仮殿』も基本的には封鎖しようと思ってる。

 ただ『仮殿』は、当面の間、王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんたちが検証のために、出入りすることになる。

 それが終わり次第、アンナ辺境伯たちと相談して、安全のためという理由で封鎖するか、それがダメなら、俺の戦利品としてほしいとわがままを言って利用する権利を取得しようと思っている。

 そうすれば、俺の判断で封鎖できるからね。


 この神殿のことを打ち明ければ、アンナ辺境伯たちは問題なく封鎖に賛成してくれるとは思うが……

 俺は、この神殿の存在を俺の仲間以外には秘密にしようと思っている。

 アンナ辺境伯たちを信用していないわけではないが、なるべく情報漏れのリスクを減らした方がいいからね。

 アンナ辺境伯たちも知ってしまえば、もし国王や王国の偉い人に質問されたときに、秘密を守るために嘘をつかなければならなくなる。

 でも、そもそも知らなければ、嘘をつく必要はないからね。

 政治的に難しい立場に立たされがちな、アンナ辺境伯たちを守るためでもあるのだ。





  ◇





 翌朝になって、俺たちは出発の準備をしていた。


 改めてノンちゃんと、ドワーフの族長ソイルさん、そして他のドワーフのみんなにお礼を言った。


 すると……族長のソイルさんが、おもむろに細長い箱を差し出してきた。


「これは昨日話していた魔法金属『ミスリル』で作った剣です。私が初めて『ミスリル(ピュアミスリル)』の精製に成功したときに、作ったものです」


 そう言ってソイルさんは、箱を開いた。


「そんな大切なものを、いただくわけにはいきません」


 俺はすぐに固辞したのだが……


「これは、ノーム様の顕現に力添えくださった大恩あるグリム様への親愛の証でございます。そして友の証でもあります。われらの『ノームド』氏族は、強き王であるグリム様にお仕えすることはできませんが、友として共に歩みましょう!」


 ソイルさんはそう言うと、破顔した。

 そしてノンちゃんに視線を送った。

 ノンちゃんは、満足そうに大きく頷いていた。


「わかりました。友の証として、ありがたく頂戴します」


 俺はそう言って、ミスリルの剣を受け取った。


 ソイルさんの話では、柄の先端に“ドワーフの友”を表す刻印を刻んであるのだそうだ。

 もし今後どこかを旅して、他のドワーフに出会うことがあれば、その刻印を見せれば皆友人として歓迎してくれるし、助けてくれるとのことだ。

 非常にありがたいものを頂戴したようだ。


 改めて剣を確認すると、確かに、柄の先端に左右の拳を合わせたような感じのマークが刻んである。

 これって多分……ドワーフたちの挨拶のときのポーズだよね。


 そして剣は、よく見ると……曲剣だった!

 海賊映画なんかでよく見た反り返った剣だ!


 鞘も銀色で……模様が刻んであってかっこいい。

 鞘もミスリル製なのではないだろうか……。


 鞘から抜いてみると……


 鈍色に揺らめく綺麗な曲剣だった!

 本当に見事な剣だ……うっとりする……。


 それにしても……この鈍色の揺らめき……


 俺の切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』に似ている感じだ……もしや……


 俺は『波動収納』から『魔剣 ネイリング』を取り出し、族長に見てもらった。


「おお……これは……『ミスリル(純ミスリル)』の剣ですが……ただ『ミスリル(純ミスリル)』になにか加えた合金でできているようです。魔力も練り込んであるようだ……これはすごい……惚れ惚れするような名剣です!」


 ソイルさんは目を爛々と輝かせて、よだれを垂らしそうになっていた。



 やはり……『魔剣 ネイリング』は『ミスリル』で、できていたようだ。 

 ただの魔剣ではないと思っていたが、『ミスリル合金』が使われていたとは……。

『ミスリル』になにかを合わせた合金ということだが、ソイルさんから貰った曲剣と見た目の素材感は変わらないように見える。


 ちなみに曲剣は、『名称』は『魔剣 ツバメガエシ』となっていて、『階級』は『極上級プライム』となっている。


 一体どれほどの価値がある剣なのか……本当に貰っちゃってよかったのだろうか……。


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