342.四つの、魔法金属。

 「それからのう……『大精霊の神殿』では神像とともに、もう一つ守っておるものがあるのじゃ。それは……特別な魔法金属の鉱脈なのじゃ。それを守る意味もあって、各神殿の場所は明らかにできないのじゃ。もっとも魔法金属の鉱脈は、四つの『大精霊の神殿』だけにしかないわけではないから、他で手に入れることも可能ではあるのじゃが。今の時代では、かなり厳しいじゃろがのう……」


 話していて楽しくなったのか、訊いてもいないのにノンちゃんが饒舌に語り出してしまった。


 そんな情報は話さない方がいいんじゃないかと思うが……止めた方がいいかな……


 俺のそんな考えが表情に出てしまったのか……ノンちゃんがニヤっとしながら続けた。


「大丈夫なのじゃ。心配は無用なのじゃ。グリム君とその仲間だから話しておるのじゃ。それにこの程度の情報を得ただけでは、どうにもならんのじゃ。場所は探し出せないのじゃ。グリム君に知識を与えているだけじゃから、気にすることはないのじゃ。どんな魔法金属なのか知りたいと顔に書いてあるから、教えてやるのじゃ!」


 ノンちゃんはそう言って、まだ尋ねてもいないのに魔法金属のことを少しだけを教えてくれた。


 それは俺が元の世界でゲームや漫画などで知っていた、まさにファンタジー金属たちだった!


 火の『大精霊 サラマンダー』の神殿では『ヒヒイロカネ』、水の『大精霊 ウンディーネ』の神殿では『アダマンタイト』、風の『大精霊 シルフ』の神殿では『オリハルコン』、ここ土の『大精霊 ノーム』の神殿では『ミスリル』の鉱脈を守っているのだそうだ。


 どうも四つの神殿を建てるときに、魔法金属の鉱脈の場所などを考慮して建てたようだ。

 もちろんそれだけではなく、霊脈や魔脈など総合的に判断したのだろうが。


 ちなみにここのドワーフたちもそうだし、他の神殿の守り人や地上の妖精族たちも、四大精霊の全てを崇拝しているようだ。

 だからここのドワーフたちも、ノームの神殿を守ってはいるものの、サラマンダーやウンディーネやシルフに対しても崇拝しているのだそうだ。

 そして魔法金属も『ミスリル』だけを加工するわけではなく、他の魔法金属の加工もやろうと思えばできるとのことだ。


 各神殿で守っている魔法金属の鉱脈は、各魔法金属を作るための主な素材の鉱脈ということらしく、この鉱脈だけで魔法金属がすぐに精製できるわけではないらしい。


 鉱脈から採掘できる鉱石から素材を抽出することを『製錬』といい、『製錬』された素材の純度を高めることを『精錬』といい、それに他の素材を組み合わせるなどして、完成させることを『精製』というそうだ。

 そして、この『製錬』『精錬』『精製』を、スキルや魔法や魔法道具の力で一気にやってしまうことを『錬成』というらしい。

 そして、それをさらに加工品にまで作り込んでしまうことを『錬金』というようだ。

 ただ、『錬成』や『錬金』は、言葉の意味が一つではなく、違う意味で使われる場合もあるそうだ。


 仮にこれらの魔法金属の鉱脈を見つけたとしても、『製錬』はできたとしても、『精錬』することが難しくかなりの修行を要するようだ。

 そして『精錬』できたとしても、『精製』するには他の必要素材を揃えなければならないし、それと合成することもかなりの技術が必要とのことだ。

 ただこの系統のスキルを持っている場合には、一気に作れてしまうこともあるようだ。

 ちなみにドワーフたちは、『種族固有スキル』として『鉱物錬成』というスキルを持っていて、『製錬』『精錬』『精製』を一気にできてしまうらしい。

 もっともスキルレベルが高くないと良いものができないので、スキルレベルが低い者は通常の手順通りに一つ一つの工程を経て作るらしい。



 俺は、この四つの魔法金属の名前を聞いて……かなりワクワクしてしまった。


 『テスター迷宮』の『第一宝物庫』で『オリハルコン』のインゴッド(『精製』した塊)を手に入れていたので、魔法金属の代表である『オリハルコン』が存在していることはわかっていたが……。

 他にもあったようだ。


 ノンちゃんによれば、各魔法金属の主な特徴は……


『ヒヒイロカネ』は、硬くて軽い金属で、揺らめいて見える赤色なのだそうだ。

 触ると冷たいのに熱伝導率が異常に高く、魔力を通すと炎を発生させることもできるらしい。

 磁力を無効化したり、遮断することもできるようだ。


『アダマンタイト』は、最も硬いが重い金属のようだ。光沢のある青色なのだそうだ。

 そして磁力を操ることができるらしい。

 魔力を通しにくいが、逆に魔法を遮断することもできるとのことだ。


『オリハルコン』は、硬くて軽い金属で、白っぽい金色だ。

 硬いのに加工自体はしやすく、いろんな用途に使えるらしい。

 魔力も非常によく通すようだ。


『ミスリル』は、硬くて軽い金属で、きらめく銀色をしているらしい。

 魔力をよく伝導し、魔力に応じて変形させることもできるようだ。



 この土の『大精霊 ノーム』の『大精霊の神殿』では、『ミスリル』の鉱脈を守っているということもあり、ここのドワーフたちは『ミスリル』を使った魔法道具や武器なども作っているそうだ。


 ノンちゃんと、ドワーフの族長のソイルさんは、この神殿で守っているミスリル鉱脈というか……魔法金属『ミスリル』について、もう少し詳しく教えてくれた。


 ミスリル鉱脈から採掘されるミスリル鉱石を『製錬』『精錬』『精製』すると、『ミスリル銀』や『ミスリル(ピュアミスリル)』という魔法金属が作れるとのことである。

 『ミスリル銀』は、ある程度修行を積めば作れるようになるが、『ミスリル(純ミスリル)』は、かなり難しく達人級の腕がないとできないらしい。

『種族固有スキル』の『鉱物錬成』を使う場合でも、スキルレベルが8以上ないと作れないそうだ。

 どうも『ミスリル銀』と『ミスリル(純ミスリル)』の違いは、純度というか完成度の差のようだ。

 一般に『ミスリル』といわれているのは、『ミスリル銀』のことのようだ。

 そして、通常の魔法道具や武具を作るには、『ミスリル銀』で十分なのだそうだ。


 『ミスリル銀』も『ミスリル(純ミスリル)』も、先程聞いたように、非常に強度が強くかつ軽い金属で、綺麗な銀色のきらめきが特徴なのだという。

 汚れがついても、魔力を通すとすぐに綺麗になって、常に新品のような状態を保てるのだそうだ。


 そして魔法陣や魔術式を組み込むことで、念に呼応して形状を変化させることもできるというチート金属のようだ。

 一種の形状記憶合金のようなものなのだろうか……。


 ちなみにドワーフたちが作っているという『ドワーフ銀』は、純粋な魔法金属ではないようだが、丈夫で、汚れず、汚れてもすぐ落ちるという点では、かなり『ミスリル銀』に似た性質を持っているようだ。


 そしてこの『ドワーフ銀』は、吸血鬼に特効があるのだそうだ。


 それはそれで、すごい素材だと思うが……

 その前に……吸血鬼がいるということに軽い衝撃を受けた……。

 でもまぁ……異世界だから……いるよね……なんでもありだよね……。


 逆に『ドワーフ銀』よりも性能がいい、そして魔法金属である『ミスリル銀』は吸血鬼に対する特効はないようだ。

 それ故『ミスリル銀』は吸血鬼でも身に付けることができ、吸血鬼に関する逸話の中には、『ミスリル銀』の鎖帷子を着て『ドワーフ銀』の特効を防いだという話もあるのだそうだ。


 希少度や性能は『銀』『ドワーフ銀』『ミスリル銀』『ミスリル(純ミスリル)』の順になっているとのことだ。

 この里で『ミスリル(純ミスリル)』の精製ができるのは、族長のソイルさん含め数名しかいないらしい。


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