341.楽しい、宴。
夜になって、俺たちの歓迎の宴が始まった。
この大精霊の神殿は、大河の下に位置していて、かなり地中深い場所にあるのだが、地上と同じように夜は日が暮れるようだ。
もっともお日様はないのだが……。
精霊の力で光源が作られているのか……もしくは地上の太陽光を転送する構造なのか……詳しいことはわからない。
里の大きな広場に、宴会場が作られていた。
試飲させてもらった『ドワーフワイン』が、樽で用意されている。
美味しかった『ドワーフチーズ』も、大皿にてんこ盛りだ。
子供たちには、『ブドウジュース』を用意してくれたようだ。
ドワーフたちは、俺の中のイメージ通りお酒が大好きなようだ。
女性も含めてみんな……ワインをジュースのようにガブ飲みしている。
みんなこんなに飲むなら……『ドワーフワイン』は、とても仕入れさせてもらえそうにない……。
かなりの量を作っているように見えたが、こんなに消費するんじゃ……無理だよね。
『フェアリー商会』で仕入れるのは、諦めた方がよさそうだ。
せいぜい個人用に買わせてもらえる程度だろう。
まぁそれでもいいけどね。
特別な贈り物に使えそうだし。
それにしても、この『ドワーフチーズ』は本当に美味しい!
芳醇な香りと濃厚な旨味がすごい。
それでいて、なぜかさっぱりしているのだ。
くせになる味だ。
新鮮な野菜もたくさん盛られている。
みんなチーズと野菜をつまみに、浴びるようにワインを飲んでいる。
俺のイメージでは、骨付き肉に貪りついてるイメージなのだが……そうでもないみたいだ。
ただ、もちろん肉もある。
干し肉を使った料理が多いようだが、生肉を使った焼肉もある。
多分猪肉だと思うが、焼き加減が最高で美味だ!
話によると、地上に秘密の狩場があるらしい。
そこに転移して、野生の動物を狩っているようだ。
他にも魚料理や煮込み料理など、いろいろな料理があった。
バリエーションも豊富で、全て美味しかった。
里をあげて大歓迎してくれたようだ。
俺がなにより気に入ったのは、ドワーフたちが主食にしているというパンだった。
薄く焼かれたそれは……俺の知っている『ナン』そのものだった。
ドワーフの里で作る小麦を粉にして練ったものを自然発酵させて、薄く伸ばしながら焼くのだそうだ。
砂糖が入っていて適度な甘みがあり、すごく美味しいのだ。
この『ナン』のようなパンだけでも、十分美味しい。おやつとして食べたい感じだ。
ドワーフたちは、この『ナンパン』にいろんな具材をのせて、一緒に食べることが多いようだ。
リリイとチャッピーも甘くて柔らかな、この『ナンパン』が大好きになったようだ。
ドワーフたちのもてなしの料理を一通り堪能し、お腹も落ち着いたところで、俺は『大精霊 ノーム』のノンちゃんに質問をした。
どうしても訊いておきたいことがあったのだ。
「ノンちゃん、ノンちゃん以外にも大精霊様はいるのかい?」
「もちろんなのじゃ! この際だから、ちゃんと教えてあげるのじゃ!」
ノンちゃんはそう言って、説明してくれた。
ノンちゃんの説明によると……
やはり俺のよく知るゲームの世界と同じように、この異世界にも四大精霊がいるようだ。
火の大精霊がサラマンダー、水の大精霊がウンディーネ、風の大精霊がシルフ、そして土の大精霊がノーム……つまりノンちゃんだ。
前にドワーフの族長のソイルさんも言っていたが、大精霊とは、この世のすべての根源ともいえる精霊たちが、属性を固定化させて集合したものらしい。
通常は、他の精霊たちと同じように目に見えない状態になっているが、ノンちゃんのように顕現すると普通の生物のように活動できるのだそうだ。
すべての根源は『霊素』だが、その『霊素』が精錬されたものが『精霊』であり、『精霊』が集合して属性を固定した存在が『大精霊』であるようだ。
ノンちゃんの話では、他の大精霊たちは、まだ顕現していないそうだ。
この時代に顕現するかどうかもわからないらしい。
ただノンちゃんが『土使い』スキルを持つエリンさんに『加護』を与えたように、火の『大精霊 サラマンダー』は『火使い』、水の『大精霊 ウンディーネ』は『水使い』、風の『大精霊 シルフ』は『風使い』に『加護』を与える存在なのだそうだ。
したがって、『火使い』『水使い』『風使い』の『スキル精霊』たちが、宿主を見つけて、『使い人』スキルが顕現すれば、それを守護する大精霊も顕現する可能性が高いとのことだ。
「ノンちゃん、『火使い』『水使い』『風使い』の『スキル精霊』たちが、宿主を見つけて『使い人』スキルとして顕現しているのか……わかるの?」
俺は一通りの説明を聞いた後、気になることを尋ねてみた。
もし、これらのスキルが『使い人』スキルとして誰かに宿っているなら、早く見つけて保護してあげたいんだよね。
「うーん、大体はわかるのじゃ! あまり干渉してはならぬのじゃが……まぁ少しくらいはいいのじゃ!
まだ宿主を見つけてはいないようなのじゃ!」
ノンちゃんは、少し躊躇しつつも教えてくれた。
よかった。焦って探す必要はないようだ。
むしろ誰にも宿らないで、『スキル精霊』のままでいてくれた方がいいのだが……。
前にノンちゃんが言ってた話からすると、もし『十二人の使い人』の話に出てくる『使い人』スキルが全て揃うような状況になると、大きな災いの前触れのような感じになるらしいからね。
まさか『十二人の使い人』が倒したという大魔王が復活するなんてことはないと思うが……
『使い人』スキルが揃うということ自体が、なにか……やばいことのフラグのようだ。
『使い人』スキルを持った人がいたら、直ちに保護してあげたいとは思うが、一番いいのはそのスキルが顕現しないことだと思うんだよね。
「ノンちゃん、他の三体の大精霊たちも、ここのように『大精霊の神殿』を持っていて、そこに祀られているの?」
なんとなく訊きづらいかったが、思い切って訊いてみた。
「そうなのじゃ! 皆神殿を持っており、そこに神像が置いてあるのじゃ。その場所は秘密じゃがの……」
なるほど……それは秘密だよね。
やはり『使い人』スキルと同様に、大精霊たちも権限しないで神像の中で休んでいる方が、世の中平和ということだよね……。
あれ……神殿があるということは……
「他の神殿にも、ここの『ドワーフ』のノームド氏族のように、神殿を守っている人たちがいるってこと?」
「もちろんなのじゃ! 火の『大精霊 サラマンダー』の神殿は、亜妖精『リザードマン』のサラマンド氏族、水の『大精霊 ウンディーネ』の神殿は、亜妖精『マーメイド』のウンディード氏族、風の『大精霊 シルフ』の神殿は、妖精族『エルフ』のシルフド氏族が守っておるのじゃ! みんないい子たちなのじゃ!」
ノンちゃんは、懐かしむような優しい笑みを浮かべながら教えてくれた。
訊いといてなんだけど……そこまで詳しく教えちゃっていいのだろうか……。
亜妖精というのは、妖精族の亜種的な位置づけらしい。
人族と亜人族のような関係なのだろう。
それにしても……リザードマン……マーメイド……エルフ……ファンタジー種族キターーーー!
やばい……会ってみたい!
特に……マーメイドとか……エルフとか……絶対綺麗なお姉さんだよね!
そんなことを想像してしまった俺は、いつになくニヤけてしまっていたようで……
速攻でニアの『頭ポカポカ』攻撃と、サーヤの『お尻ツネツネ』攻撃に晒された。
いつもはサーヤとミルキーの二人で両サイドから『お尻ツネツネ』が発動するが、今はミルキーがいないのでサーヤだけかと思いきや……なぜかナビーがミルキーの代わりに『お尻ツネツネ』を発動していた……。
まるで事前に打ち合わせしていたかのように、完璧なタイミングだったけど…… どんな神連携だよ!
それにナビーは、俺自身なはずなのに……なぜよ……。
そう思った俺の嘆きも、ナビーには筒抜けで……ナビーは「セクハラに罰を!」と言いながら、もう一度『お尻ツネツネ』攻撃を発動した!
というか……ニアもサーヤも完璧なタイミングで一緒に発動していた。
なんの合体技よ……こんな神連携……本当にいらないから……トホホ。
ナビーが実体として顕現しても、俺の中にいるときと同様に、俺の考えが筒抜けなのは……辛いものがある……。
こう思っちゃったことも筒抜けなんだよなぁ……と思いながらナビーに視線を送ると……
「なにか!?」
と語気強めに言われてしまった……トホホ。
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