340.すごい、プレゼント!
「グリム君たちに転移の魔法道具をプレゼントするのじゃ! 特別なのじゃ! 流通させるのはまずいが、グリム君たちが使う分には全く問題ないのじゃ! 今後必要になる局面も増えるじゃろう」
ドワーフの隠れ里と『フェアリー商会』との間で、今後取引をさせてもらう話がまとまって一息ついたところで、『大精霊 ノーム』のノンちゃんがそんな申し出をしてくれた。
ノンちゃんが、ドワーフの族長のソイルさんに視線を送ると、ソイルさんは魔法カバンから小型のケースを取り出した。
「今すぐお渡しできるのは、こちらです」
ソイルさんはそう言って、小型ケースの蓋を開けた。
え……腕時計?
中には腕時計そっくりの魔法道具が入っていた。
ソイルさんの説明によると……
最新型の転移の魔法道具で、なんと『階級』は『
『名称』は、『転移の羅針盤 百式』というらしい。
ブレスレットのかたちになっていて、手首につけると自動でぴったりフィットするようだ。
腕時計と同じように、丸い盤がついている。
腕時計というものを知っている人間が見たら、普通に腕時計だと思うだろう。
『正義の爪痕』の『薬の博士』と『武器の博士』から没収した転移の魔法道具は、『転移の羅針盤 小型三式』という『名称』で、『階級』が『
ここの『ノームド』氏族のドワーフが作ったものと思われるが、かなり古い時代のものということであった。
俺に見せてくれた『転移の羅針盤 百式』は、いわばその現代版といえるものらしい。
基本的な作りは、今でも一緒のようだ。
円形の盤面が十二分割されていて、時計の針のような『指示棒』を動かして、場所を選択する構造になっているようだ。
腕時計のネジと同じような位置にある小さなボタンを押して、転移先登録と実際の転移を行うらしい。
『指示棒』を転移したい場所に合わせて、一回ボタンを押せば転移が実行される。
未登録スペースに『指示棒』を合わせて、『登録』という『
そして最新版の優れている点は、転移するときにボタンを押さなくても、十二個ある登録先の番号と転移という『
『○番、転移』と呟くだけで、発動するとのことだ。
追い詰められている状況のときなどには、非常に有効だろう。
もう一つ優れている点は、一緒に複数人転移できるということらしい。
『正義の爪痕』の二博士から没収した転移の魔法道具は、所持者本人しか転移できなかったから、かなりの機能拡張だと思う。
周囲三メートル圏内にいる生物は、連続して触れて繋がることによって、何体でも一緒に転移できるらしい。
物品も三メートル圏内に収まる程度の大きさであれば、一緒に転移できるらしい。
かなり優れた機能だ。
ここのドワーフたちが地上の人族の国などに買い出しに行くときにも、この『転移の羅針盤 百式』を使っているらしい。
ここから一番近いピグシード辺境伯領の『イシード市』にも、時々買い出しに行っていたようだ。
少し尖った耳だけ目立たないようにすれば、ドワーフということは気づかれないのだろう。
比較的自由に、買い物していたようだ。
その『イシード市』が、今は封鎖されて人が住んでいないので、残念に思っていたそうだ。
今後始まる『フェアリー商会』との取引で、必要とするものは大体提供できると思うから補えるとは思うが……。
ただドワーフたちは、ものが欲しいだけじゃなくて、地上に遊びに行くことが楽しかったのだろうから、そこが残念なんだろうけどね。
俺はピグシード辺境伯領の現状について簡単に説明し、『マグネの街』『領都』『ナンネの街』に、いつでも遊びにきてくれるように話した。
人に見られずに、安全に転移できる場所も提供するという申し出もした。
各市町の商会本部の中に専用の場所を作ってあげてもいいし、別個にドワーフたちに別荘のような場所を用意してあげてもいいと思っている。
俺の提案に、ドワーフのみんなは大喜びしてくれた。
転移先として登録するために、出向きたいと言ってくれたので、今度サーヤの転移で連れて行ってあげることにした。
一度行っておけば、この魔法道具で登録できるから、その後は自由に転移できるようになるからね。
そしてなにか困ったことがあれば、『フェアリー商会』を訪ねるようにと言っておいた。
族長のソイルさんを始め、皆、より安心して市場に買い出しに行けると喜んでいた。
ちなみに、同じ妖精族である『アメイジングシルキー』のサーヤや『ロイヤルピクシー』のニアには、ドワーフたちは親しみを感じるようだ。
やはり妖精族は、基本みんな仲がいい感じだ。
そして二人がクラスチェンジしていることを知ると、羨望の眼差しを向けていた。
ちょっと尊敬されているような感じだった。
特に若いドワーフ、それも女性のドワーフたちからいろいろ話しかけられ、人気者になっていた。
そのサーヤが商会の総支配人をしているということで、ドワーフたちも安心しているようだ。
俺は『転移の羅針盤 百式』を、ありがたく頂戴することにした。
貰えるのは、当然一個だと思っていたのだが……なんと五個も渡されてしまった。
こんなに貰ってもいいのかと躊躇していると、ノンちゃんが笑顔で言った。
「遠慮することはないのじゃ! これからのグリム君たちには必要になるのじゃ! 遠慮しないで役立てるのじゃ! それで救える命もあるかもしれないのじゃ! 直接干渉しないことになってるワシでも、これぐらいのことはできるのじゃ!」
「そうです。どうぞ遠慮なくお使いください。我ら『ノームド』氏族は、ノーム様にお仕えする氏族ですが、ノーム様を顕現させてくださったグリム様は大恩人です。今後もできることは協力させていただきます。なにかあったら、遠慮なくご相談ください」
族長のソイルさんもそう言ってくれたので、俺は遠慮なく五個もらうことにした。
すごく得した気分というか……普通ならいくらお金を払ったって手に入れられないよね……ありがたいことだ。
確かに、この魔法道具があることで救える命があるかもしれない。
人々を豊かにする手助けもできるかもしれない。
しっかり役立てよう!
これでサーヤに頼りきりだった転移も、他のメンバーでもできるようになる。
サーヤの負担が、少し減らせるかたちになった。
別行動で任務にあたるメンバーに、緊急避難用に持たせるのにも丁度いいだろう。
将来的には、妖精族からもらった特別なアイテムと説明して、『フェアリー商会』の幹部にだけは使わせてあげてもいいかもしれない。
実際に妖精族から貰ったものだし。
ただ……あまりおおっぴらにすると、不埒な輩に狙われる可能性もあるので、気をつけなければならないが。
信頼できるアンナ辺境伯やユーフェミア公爵たちだけには、このアイテムの存在の明かしてもいいかもしれない。
それによって、俺の不自然な高速移動がより誤魔化しやすくなるからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます