339.ドワーフの里の、魅力。

 俺たちは、一通りドワーフの里を案内してもらった。


 簡単な説明をしてもらいながら見て回ったが、とても短時間では見尽くせない素晴らしい里だった。

 工房だけでも、様々なものがあった。

 やはりドワーフという妖精族は、ものづくりが大好きなようだ。

 木工品にしろ、金物にしろ、この里で必要なものは、全て自分たちで作っているそうだ。

 職人の里といってもいいのかもしれない。

 職人気質の人が多く、各所にこだわり部分が満載といった感じだった。

 おそらく一つの工房でこだわりに関する話を始めたら、かなり長時間話し込むことになっただろう。

 族長のソイルさんもそれがわかっていたようで、話し込もうとする職人たちを止めてくれていたので、今回はそうならなかった。

 どうもドワーフたちは、無口な職人というよりは、話し好きな陽気な職人という感じの人が多いようだ。

 女性の職人も多かった。種族をあげて全員職人みたいなもんだから、性別はあまり関係ないのだろう。


 ドワーフたちは、『ドワーフシルバー』という特殊な素材を作ることができるらしく、それを加工して作った装飾品は非常にきれいだった。

 見た目は、俺のよく知る『銀』と同じような感じだが、輝きというか……発しているオーラというか……とにかく綺麗な銀だった。

 装飾品としての完成度も高く、女性ならみんな心を奪われるのではないだろうか。

 絶対に人族の街で売っていたら、人気になると思う。

 若い女性なら絶対欲しくなるだろうし、貴族の子女もこぞって買い求めるに違いない。


『ドワーフシルバー』は、ここの『ノームド』氏族でなくても、『ドワーフ』族ならみんな作れるそうだ。

 むしろ、『ドワーフシルバー』が作れるようになって初めて、大人と認められるようなものらしい。


 ドワーフ族の中には、人族の国や近郊で暮らしている種族もあるので、『ドワーフ銀』自体は人族の国でも流通はしているらしい。

 ただ数が多くないので、貴重品であることは間違いないようだ。


 スプーンや食器なども『ドワーフ銀』で作ると、いつまでも光沢を維持し長く使えるようだ。

 油汚れなども、水で流すだけで簡単に落ちてしまう優れた素材らしい。

 指輪に使っても、いつまでも綺麗な状態を維持してくれるそうだ。

 『ドワーフ銀』でできているという時点で、既に優れた逸品といえるようだ。


 また植物もいろいろ育てられていた。

 最初に『ドワーフコンコード』というブドウの木などを見た果樹園や畑のエリア以外にも、様々な植物が栽培されていた。

 もちろん、果樹園や畑のエリアには、『ドワーフコンコード』以外にも興味深い作物がいくつかあったので、またゆっくり見学しようと思っている。

 ただその興味を忘れさせるくらい……あちこちに色とりどりの花が栽培されていて、目を奪われたのだ。


 綺麗な花がいっぱいあった。

 特に目を引いたのは紫陽花だった。

 子供たちが遊ぶ、原っぱのようになっているスペースの一画に紫陽花畑があったのだ。

 俺の元いた世界にあったような品種改良された大きく綺麗な花だった。

 色も……紫、赤、青、黄、白、オレンジと豊富だった。

 紫陽花畑は、その色が混じらないように、色ごとにまとめて植えてあるので非常に綺麗だった。


 俺は族長のソイルさんにお願いして、紫陽花をいくつか枝ごと摘ませてもらった。


 紫陽花は枝を土に挿す『挿し木』の方法で、簡単に増やすことができるのだ。

 持ち帰って『挿し木』して増やせば、どんどん増やせるし、毎年咲いてくれる。

 どこかにまとめて植えて、綺麗な紫陽花畑を作りたい。

 紫陽花のお花畑が広がっていたら、壮観だと思うんだよね。

 ピグシード辺境伯領のちょっとした観光スポットとして作ろうかな……。

 紫陽花は、花を使って染め物を作ることもできる。

『紫陽花染め』を普及させても、面白いかもしれない。



 俺は、駆け足とはいえ里全体を見せてもらって、一つ考えたことがある。


 このドワーフの里で作っているもの……特に魔法道具を『フェアリー商会』で取り扱わせてもらえないかということだ。

 転移の魔法道具のように、高度な技術が必要でありまた悪用される危険があるような物は流通させない方がいいと思う。

 それ以外の一般的に人族の国で流通しているような魔法道具を、『フェアリー商会』で仕入れさせてもらえないかと考えたのだ。

 魔法道具の仕入れ先として、これほど有望なところはない。


 ドワーフたちにとっては、人族の国の硬貨で払われてもあまりメリットがないかもしれないが、『フェアリー商会』ならいろんな商品を取り扱っているので、欲しいものを提供することもできると思う。

 もっとも地上の人族の国などに買い出しに行くのが楽しみなようなので、貿易する必要はないのかもしれないが。


「あの……もしよろしければ……人族の国で流通させても問題のない魔法道具を私がやっている商会で仕入れさせてもらえないでしょうか? 代金は硬貨でない方が良ければ、皆さんが必要としているものを用意することもできます」


 俺は、族長のソイルさんと大精霊ノームのノンちゃんの方を見ながら尋ねてみた。


 サーヤと顕現しているナビーは、俺と同じことを考えていたようで、目をキラリとさせていた。


 族長のソイルさんは、微妙な表情をしながらノンちゃんに視線を向けた……


「そうじゃのう……人族の国でも流通している程度の魔法道具ならば、問題ないのじゃ。転移の魔法道具のように、今の世界では貴重なものや悪用されると危険なものは……慎重にしたほうがいいのう。グリム君や仲間たちが、身を守るために使う分にはいいのじゃが……。魔法武器などは、一般に流通させるのは慎重になった方がいいのじゃ。とりあえずは……人々の生活を豊かにする便利な魔法道具で、一般に流通しているものにしたらいいと思うのじゃ」


 ノンちゃんがそう言ってくれた。


 俺としては、それで充分だ。非常にありがたい。

 俺もそもそも悪用される危険がある魔法道具などは、流通させるつもりはなかったからね。

 ただでさえ転移の魔法道具に苦労させられているのに、これ以上犯罪組織に渡ったら大変だからね。



 生活を豊かにする魔法道具で、すぐに流通させられそうなものとしては、『魔法の水筒』『魔法のカバン』『魔法の鍋』などがある。


 『魔法の鍋』は、魔力を通すと熱を発し、火がなくても調理ができるというかなりの優れものだ。

 旅にはかなり便利だよね。

 そして作り置きしたものを温めなおすときに、魔力を通すだけでいいので、重宝そうだ。



 それから魔法道具以外にも、『ドワーフワイン』や『ドワーフチーズ』も仕入れられたらと思ってしまった。

 二つとも試食をさせてもらったが、とても美味しかったのだ。

 今は里で消費する分しか作っていないようだが、可能なら生産量を増やしてもらって取り扱いたい……そう思えるほどの逸品だった。


 ただ大々的に販売するほどの生産は大変だと思うので、実際には販売するのは難しい気がしている。


 ただ普通では手に入らない特別なものということで、今後、特別なプレゼントや貢ぎ物として使えるかもしれないと思った。


 将来いろんな国を旅したときに、珍しいものを提供できて、いろいろ役立つかもしれない。



 他にも果樹の苗木や野菜や花の種なども、分けてもらえることになった。

 もっともドワーフたちが守り続けてきた貴重な品種だと思うので、それらを普及させることは慎重に考えようと思っている。

 今後の『フェアリー商会』との取引の中で、彼らの主要な商品というか……収入源になる可能性もあるからだ。

『ドワーフワイン』や『ドワーフチーズ』も、『ドワーフコンコード』の木の栽培や『ドワーフ牛』の飼育が広まれば、特産品ではなくなってしまう可能性があるからね。

 彼らはあまり心配していないようだが、ブランド戦略は重要なのだ。

 そこでとりあえずは、流通にあまり影響がない『霊域』や『大森林』で育てながら、様子を見ることにしようと思っている。


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