338.転移の、魔法道具。

「さて、急いでやるべきことは終わったのじゃ! 少しこのドワーフの里でゆっくりするのじゃ! みんなもこの里で楽しむのじゃ!」


 大精霊ノームのノンちゃんはそう言って、ドワーフの族長ソイルさんに視線を向けた。


「ぜひ我らの里をご覧になってください! たいしたことはできませんが、歓迎いたします。ご案内いたします。こちらにどうぞ」


 ソイルさんは、そう言って俺たちを案内しはじめた。

 ソイルさんからは、この神殿のことは一切口外しないでほしいと頼まれたので、即答で了承した。

 もともと俺も、ここのことは秘密にするつもりでいた。

 ドワーフのみんなが、隠れ里を作ってまで守ってきた秘密の神殿だからね。


 歩きながらいろいろ話を聞くと……


 やはりドワーフの里だけに、鍛治工房のような工房が多いようだ。

 みんなモノ作りが好きなようだが、畑などを担当する者もいて野菜や果物もしっかり育てられていた。

 バランスよく一通りのことをやっているようだ。

 自給自足ができているようで、家畜の動物たちも飼われていた。

『ドワーフ牛』という一般的な牛の半分くらいの大きさの可愛い牛がたくさんいた。

 この牛の乳から作るチーズは絶品らしい。

 そのチーズと一緒に楽しむのが『ドワーフワイン』らしく、自慢の逸品のようだ。

『ドワーフコンコード』という特別なブドウから作るらしい。

 ちょうどブドウが成っていたので、試食させてもらった。

 見た目は、俺の元いた世界にあったような『デラウェア』と似ている小さなブドウだ。

 ただ味は全く違って、すごく濃厚な味だった。

 普通に絞ってジュースにしただけで、絶品だと思う。


 この『大精霊の神殿』はかなり地下にある空間だが、神殿の力というか……精霊の力なのかもしれないが……地上と変わらない光量があって、植物も動物たちも健全に育つようだ。


  位置的には、あの大河の下に位置しているようだ。

 広さは、一般的なドーム球場 四個分くらいはありそうだ。


 きれいな川も流れていて、飲み水にも困らないようだ。


 そして地下空間だけに、様々な鉱物が取れる場所もあるようだ。


 ここのドワーフたちは、この『大精霊の神殿』を守り、大精霊のノームの神像を守ることを使命として、代々この地を守りながら暮らしてきたようだ。

 だが、生活自体はいたって普通に行っているようだ。


 そして驚くべきことに、ここの『ノームド』氏族のドワーフたちは、転移の魔法道具を作る特別な技術を持っているらしい。

 その魔法道具を使って、転移で出かけることができるので、俗世のこともそれなりに知っているそうだ。


 交代で地上に買い出しに行っているらしく、みんなかなり楽しみにしているとのことだ。


 転移の魔法道具を作る技術なんて……是非教えてほしいと思ったのだが……

  その技術は、門外不出の極秘技術とされているらしい……残念。


 ただノンちゃんが顕現するのに協力した俺には、特別な存在として協力したいと族長のソイルさんは申し出てくれた。

 なぜかここでも、俺は『強き王』と呼ばれてしまった。

 やっぱり上位領域である『霊域』の主をやっているからなんだろうか……。


 ソイルさんは、ノンちゃんに許可を求めて了承されていた。


 ノンちゃんは、特別に魔法道具の技術を教授してもらうことも許可してくれた。

 ただ無理に魔法道具を作る技術を習得しなくても、この一族が俺たちに全面的に協力するかたちにするから、必要な魔法道具を購入すばよいのではないかとも言ってくれた。


 確かに、それでも充分だ。

 必要な道具を購入させてもらったり、依頼して作ってもらえれば、それだけで特別なことだね。


 まぁ将来的には自分で作ってみたいので、教えてもらえれば嬉しいけどね。


 俺はふと……『正義の爪痕』の『薬の博士』と『武器の博士』が持っていた転移の魔法道具のことを思い出した。


 没収して『波動収納』にしまってあったので、早速取り出し見てもらうことにした。

 懐中時計のような円形の盤状の魔法道具だ。


「うむ……この転移の魔法道具は……我ら一族が作ったものですなぁ。おそらく……かなり古い時代のものでしょう。我らの転移の魔法道具は、今は流通していないはずなので、どこかの遺跡で見つけたのではないでしょうか」


 族長のソイルさんが魔法道具を手にしながら、そう答えてくれた。

 なんとこの転移の魔法道具は、このドワーフ氏族が大昔に作ったもののようだ。


 ちなみにこの二つは魔法道具は、『階級』が『上級ハイ』となっていて、『名称』が『転移の羅針盤 小型三式』となっている。


「使い方は、わかりますか?」


 俺は再度質問した。

 没収したのはいいが、どのようにして使えばいいか全くわからなかったからね。


「もちろんです。転移する場所を、十二カ所登録することができます。その中の場所を選んで、転移ができるのです。盤上にある十二カ所のうち転移したい場所に、この指示棒を合わせます。そして、上のボタンを押せば転移が発動します。ただし、この装置では使用者本人のみしか転移できません。転移する場所の登録は、空いているスペースに指示棒をセットし、『登録』という『発動真言コマンドワード』を唱えて、上のボタンを二回押すと転移用の魔法陣がその場所にセットされるのです」


 ソイルさんがそう説明してくれた。


 この魔法道具は、見た目が本当に懐中時計のようになっている。

 時計の文字盤のように十二カ所スペースがあって、時計の針のような指示棒を移動させて場所を選択する形式になっているのだ。

 そして懐中時計にもついている上部の位置に、起動ボタンがあるのだ。


「この魔法道具に、転移先がセットされているかどうか……分かりますか?」


 俺はさらに質問を重ねた。


 もし登録されている転移先がわかれば、それが『正義の爪痕』のアジトに他ならないからだ。

 新たなアジトを発見する有力な手がかりになる。

 もしかしたら本部も登録されているかもしれない……本部があればの話ではあるが……。


「はい。この魔法道具では、登録されている場所まではわかりません。ただ、登録されているかどうかは分かります。盤上の十二の番号で区切られたスペースのうち、黄色になっているスペースは、転移先が登録されています。白いスペースは未登録ということです。こっちは二カ所、もう一つは、一カ所登録されていています」


 ソイルさんが、そう教えてくれた。

 なるほど…… 二カ所登録されているというのは、『薬の博士』が持っていた方だ。

 一カ所しか登録されていないのが、『武器の博士』が持っていたものだ。

 二人の博士の登録先がダブっているかどうかわからないが、少なくとも二カ所、最大三カ所、この魔法道具を使えばアジトもしくはなんらかの拠点に、たどり着けるということだ。


 これは最大のチャンスだ!

 すぐに活用しよう!


 一人しか転移できないということだが、俺が行けば問題ないだろう。


 仮に敵の本拠地の中枢に転移したとしても、多分俺一人でなんとかできるだろう。

 もっとも今は、ナビーが顕現ができるようになったから、実質俺一人ではないけどね。

 俺とナビーで無双する自信はあるけど……。


 ただ前に『ナンネの街』を占拠された時みたいに、人質が大量にとられていると、厳しい展開になる可能性はあるけどね。


 速攻で人数をかける必要が生じる可能性も考えて、俺の『波動収納』に事前にサーヤの転移先として登録済の転移用ログハウスを収納しておくことにしよう。

 俺の転移後の状況によって、すぐにそれを『波動収納』から出して設置すれば、サーヤに仲間たちを連れてきてもらうこともできる。


 いずれにしても、次の行動は決まった!


 『正義の爪痕』のアジトをぶっ潰す!


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