334.ノーム様、大はしゃぎ!
「ノ、ノーム様……ノーム様は、これからどうなさるのでしょうか?」
空気のような感じになりつつ、俺たちの様子を窺っていたドワーフの族長のソイルさんが、意を決したように声を上げた。
「君たちもノーム様じゃなくて、ノンちゃんでいいんだけど……」
『大精霊ノーム』のノンちゃんが、手を広げながらフランクな感じでソイルさんに話しかけた。
「いえいえ、私どもはそういうわけには参りません。一族で代々『大精霊の神殿』を守ってきたのでございます。ちゃん付けなど、とんでもございません!」
「そんなに堅苦しくならなくていいんだけどなぁ。まぁでも君たちには、すごく感謝してるし、これからも一緒に歩みたいから、好きなように呼んでいいけどね」
ノンちゃんはそう言って、跪いている族長に近づくと優しく肩に手を当てた。
「あ、あぢぃ、あぢぃがだぎ……じあわぜ……」
ソイルさんは、ノンちゃんに優しい言葉をかけられた途端、大粒の涙を流し言葉を続けることができなくなった。
周りのドワーフたちも、こうべを垂れ泣いていた。
彼らにしてみたら、先祖代々この神殿を守ってきて、信仰の対象ともいうべき大精霊ノームの顕現を目の当たりにしただけでも、運命的な瞬間だったのだろう。
それのみならず言葉を交わし……優しい言葉をかけられたら……それは感動するよね。
「実は、ワシはいろいろとやらねばならぬことがあるのじゃ。やってみたいことも、いっぱいあるのじゃ! グリム君が作っている美味しいものも食べたいし……。美味しさを味わえるのは、三次元の実体を手に入れた特権なのじゃ! いっぱい食べるぞ!」
そう言うとノンちゃんは、また左手を腰に当て、右手を上に突き上げるという“残念なポーズ”をとった。
するとなぜか……つられたように、元祖残念さんのニアが、空中で“残念ポーズ”をとった。
それを見たリリイとチャッピーも真似するように、並んで“残念ポーズ”をとってしまった……。
やばい……“残念ポーズ”が流行ってしまいそうだ……。
残念×四人で、パワーアップしちゃってる……。
リリイとチャッピーが汚染されちゃうよーー。
とりあえず……早くこのポーズをやめさせなきゃ……
俺は慌てて『波動収納』から、とっておきの黒い宝石……そう『チョコレート』を取り出した!
そして『炭酸フルーツジュース』を添えて、ノンちゃんに差し出した。
「ノンちゃん、とりあえずはこの『チョコレート』と『炭酸フルーツジュース』を飲んでみて! 美味しいよ」
俺がそう言うと、ノンちゃんは破顔し、目を輝かせた。
こう見ると五歳の女の子って感じで、めっちゃかわいい!
もちろんニア、リリイ、チャッピーも目を輝かせている……
てか……すでにヨダレが垂れちゃってますけど……パブロフの犬か! ……残念!
「うっはー! こりゃ凄いのじゃ! 口の中でとろけるのじゃ……甘いのじゃ! 美味いのじゃ! これぞ三次元体の醍醐味なのじゃ! うっひょう!」
ノンちゃんは、大はしゃぎだ。
本当に幼児にしか見えなくなってきた。
「これが炭酸フルーツジュース……まさにシュワシュワなのじゃ!」
ノンちゃんは、炭酸も大丈夫なようだ。
リリイとチャッピーは炭酸が苦手なので、普通のジュースを出したのだが……
ノンちゃんが飲んでいる様子を見て……お姉さんとして負けるわけにはいかないと思ったのか……
再び炭酸ジュースに挑戦した。
「シュワシュワで気持ちいいのだ……で、でもうまく飲めないのだ……」
「ゲボ、ゴボ、チャッピー……やっぱ苦手なの〜」
残念ながら、やはり炭酸が苦手のようだ……飲み慣れないとなかなか子供にはきついよね……。
「飲み物は、それぞれの好みだから、無理に飲まなくていいよ。普通のジュースにしたら?」
俺がリリイとチャッピーに声をかけると、二人は黙って頷いて、普通のジュースを飲み出した。
俺はこの『チョコレート』と『炭酸フルーツジュース』のセットを、この里のドワーフたちにも提供した。
この里には、大人と子供合わせて九十九人のドワーフが住んでいるらしい。
こんな場合に備えて、大量に『波動収納』にストックしておいてよかった。
みんな最初は遠慮していたのだが……ノンちゃんから強く勧められ、恐る恐る食べ始めていた。
その後のドワーフたちの感動と、歓喜の様子は語るまでもないだろう。
なぜか……ノンちゃんに対するのと同じように、俺に手を合わせて拝み出す人が続出してしまった。
まさか信仰の対象にはされないと思うが……本当に『チョコレート』の威力は計り知れない……。
『チョコレート』と『炭酸フルーツジュース』の感動が落ち着いたところで、ノンちゃんが話し出した。
「特別なドワーフ、ノームド氏族の者たちよ。代々、この神殿を守ってくれている功績に感謝なのじゃ! この神殿を、俗世の者に荒らされるわけにはいかぬからの」
改めて発せられたノンちゃんの労いの言葉に、ドワーフたちはまた涙を流していた。
その姿を見て優しく微笑んだノンちゃんが、さらに続けた。
「今回の顕現は、ちとやっかいなことになるやもしれんのじゃ! さすがに古き時代の『使い人大戦』のようにはならんと思うのじゃが……」
感動していたドワーフたちの表情が、一気に険しいものに変わった。
「ま、まさか……大乱の世が訪れるのですか?」
族長のソイルさんが、声を振り絞るようにして尋ねた。
「まだわからんのじゃ! ただ……予兆はあるのじゃ! もっとも不確定要素がいくつもあるからのう……。あの大戦に関わった『使い人』のスキル精霊が、全て顕現してしまうやもしれぬのじゃ。今のところあの十二のスキルのほとんどは、顕現しておらぬのじゃが……。ただそれ以外にも強力な『使い人』スキルはいくつもあるからのう……」
ノンちゃんが神妙な顔でそう言った。
話が一気に不穏な感じになってきた……
どうもノンちゃんが言っている『使い人大戦』というのは、伝承にある『十二人の使い人』の話のことのようだ。
「ノンちゃん……地上では犯罪組織が『使い人』スキルや特殊なスキルを持った人間たちを狙って、拉致したりしているんです。実は……私のところには保護した『使い人』たちがいます。『虫使い』『蛇使い』『石使い』『土使い』の子たちです」
俺はノンちゃんに、そう打ち明けた。
「うん、そのようじゃの。『使い人』たちを保護してくれて、感謝なのじゃ! 実は……『土使い』のスキルは、いつも私が面倒をみることになっておるのじゃ。『土使い』のスキル精霊とは、繋がっておるのじゃ。だから、知っておったのじゃよ。よくぞ救出してくれた。ワシらは、俗世のことに直接干渉してはならないことになっておるのじゃ。少し力を貸したり、導く程度のことしかできぬのじゃ。魂の体験の機会を奪うわけにはいかぬからの」
ノンちゃんは、頷きながらそう言った。
なんとノンちゃんは、知っていたようだ。
そして『土使い』スキルと繋がっているらしい……。
神に近い存在だけに、直接人間たちや生物に干渉しないということなのだろうか。
「あの……『使い人』スキル……特に十二人の使い人のスキルが揃ってしまうと、なにかまずいことがあるんですか?」
俺は気になったことを訊いた。
さっきそんなニュアンスのことを言っていたからね。
「悪いことではないのじゃが……。『使い人大戦』で中心的な役割を果たした十二人の使い人のスキルが全て揃ったことは、あのとき以降ではまだないのじゃよ。知っとると思うが、『使い人』スキルは意志をもっておりスキル精霊が宿主を選ぶのじゃ。ただ……簡単に宿るわけではないのじゃ。それ故、あの大戦以降も『使い人』スキルは顕現しておるが、あの十二人の『使い人』スキルが揃ったことは無いのじゃ。時代が微妙にずれるのじゃよ。十二人の『使い人』のスキル精霊たちが、すべて顕現するということは、それだけでなにかの前触れと言えるのじゃ!」
ノンちゃんがそう教えてくれた。
なるほど……
すべての『使い人』スキルが、人族に宿るわけではないと思うが、寿命の短い人族が基準になってしまうのだろう。
百年程度の間に十二人の『使い人』スキルが全て揃うというのは、難しいことのようだ。
スキルに選ばれるということ自体、かなりレアなことだろうからね。
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