332.ドワーフの、隠れ里。

 俺たちは、ワクワクしつつも注意深くアリの巣状の洞窟の中を進んだ。


 やはり魔物などは出現しない。

 迷宮のような気もしたが……迷宮ではないようだ。

 まぁ迷宮の遺跡の可能性はまだあるが……。


 かなり広い構造のようだ。

 アリの巣状の構造なので、しっかりとした階層構造にはなっていないが、徐々に下の方に広がっている。

 横に広がりながらも、下に降りていっている感じだ。


 アリの巣状の洞窟をくまなく調べながら進んでいるが、今のところ大きな変化はない。

 ただの洞窟のようだ。


 そのまま降りていくと、左右に広がっていった通路が一つの通路に合流した。

 そしてその先には、巨大な空間が広がっていた。


 巨大な空間を奥まで進むと、行き止まりになっている。

 だがそこには、小さな祠のようなものがあった。


 土壁でできた祠の中には、優しい顔で微笑む好々爺の石像が置いてあった。


 一体これは……なんだ……


 この広い地下の構造物を隈なく探して、最後にたどり着いたのがこの石像とは……

 なにかの神様の像なのだろうか……。


 俺は仲間たちとともに、石像の前に立って手を合わせた。


 なんとなく……手を合わせたい気持ちになったのだ。


 すると次の瞬間、景色が揺らいだ!


 おお……どうやら転移したようだ。


 ということは……やはり迷宮なのだろうか……

 感覚的には全く違う感じだが……。


 そして転移した場所は、街の広場のような場所だった。


 緑豊かな空間が広がっていて、面白い形の家がいっぱいある。

 俺たちは、その中央にある広場のようなところにいるのだ。


 そして目の前には、さっきの祠にあった好々爺の石像と同じ石像が置いてある。


 ただ大きさはだいぶ大きくなっている。

 人間のおじいさんと同じくらいの大きさだ。


 呆然となっている俺たちの前に、周囲の家から一斉に人々が飛び出してきた。


「ま、まさか……訪問者が現れるなんて……」


 代表らしき大柄の老人が、俺たちに近づいてきた。

 周囲の他の人たちも、ニコニコしながらゆっくり近づいてくる

 敵意は感じないが……。


 ここの人たちは、肌の色が小麦色だ。

 浅黒い人や赤っぽい人もいるが。


 男性も女性も少し耳が尖っているようだ。

 そして大柄な人から、小柄な人まで幅広い。

 髪の色は黒が多いようだが、茶色や赤色の人もいる。


「この人たち……ドワーフ?」


 ニアが隣でそんなことを呟いた。


 ドワーフって……あのドワーフだよね……ほんとに?

 俺のイメージしていた風貌とは全然違うんだけど……。

 全員子供くらいの身長で、ヒゲモジャなイメージだったのだが……。

 一説には、女性もヒゲが生えてるっていう話もあるし……。


 でも全然そんな感じではない。

 確かに俺のイメージ通りの背が小さくて、ヒゲが生えてるおじさんもいるけど……。

 今近づいてきてる代表っぽい人は、背が高く筋肉マッチョなロマンスグレーのイケメン爺さんだ。


 周りの人たちは、ヒゲが生えてない人もいる。

 もちろん女性は、ヒゲを生やしていない。

 かわいい感じの人や精悍な顔つきの人が多いが、けっこうな美人さんもいる。

 もちろん男性にも、イケメンがいる。

 女性も男性も基本的に筋肉質な人が多いようだ。

 太った感じのおじさんも、太っているというよりは大柄なプロレスラーみたいな感じだ。



「ノーム様の導きによりいらっしゃった訪問者の皆様、私はこの『ドワーフ』の隠れ里の族長をしておりますソイル=ノームドと申します。皆様を歓迎いたします」


 リーダーらしき男性は、片膝をついて胸の前で両手の拳を合わせた。

 『ドワーフ』特有の挨拶の型なのだろうか。


 ニアが言った通り、この人たちは『ドワーフ』で間違いないようだ。


 ついに有名な『ドワーフ』族に会えて、俺のテンションは一気に上がった!


「突然お邪魔して申し訳ありません。私はグリム=シンオベロンと申します。洞窟を探索していて、祠の前に立ったらここに転送されてしまったのです」


 俺はソイルさんに対して、丁寧に挨拶をした。


「ええ、わかっております。ここを訪れることができるのは、ノーム様に認められた方のみでございます」


「ノーム様?」


 俺は思わず聞き返してしまった。

 最初からでていた言葉だが……あの石像の名前だろうか……。

 この人たちが崇める神様なのかな……。


「はい。ここは大精霊ノーム様を祀っている『大精霊の神殿』なのです。古き時代には、大精霊様方は身近な神として崇められていたのです。今の時代は、妖精族が崇めている程度でしょう。皆様ずっと顕現されておりませんからね」


 ソイルさんが立ち上がって、両手を広げながらそう教えてくれた。


 大精霊……ノーム……


 待てよ……俺の元いた世界のゲームなんかに四大精霊がよく登場していた。

 確か……火の精霊がサラマンダー、水の精霊がウンディーネ……風の精霊がシルフ、そして土の精霊の名前がノームだったはず……。


「もしかして……ノーム様というのは土の精霊ですか?」


「はい、そうです。ノーム様は土の大精霊なのです。この世のすべての根源である精霊たちが、属性を固定化させて集合し、顕現した姿が大精霊なのです。その土の属性の大精霊がノーム様なのです。あなた方はそのノーム様に認められたがゆえに、この『大精霊の神殿』に導かれたのです。我々は、この神殿を守りながら生きている、特別な『ドワーフ』なのです。古き古き時代に、ノーム様より『ノームド』という氏族名を与えられた特別な『ドワーフ』なのです」


 ソイルさんは、そう説明すると誇らしそうな顔をした。


「え、選ばれて……導かれた……私たちがですか?」


「はい、そうです」


「私たちは、ただ祠の前で手を合わせただけですが……」


 俺は首をかしげながら、呟いてしまった。


「精霊はすべての根源であり、全てを見通す存在です。その集合体であるノーム様には、わかるのです。ここに導かれた時点で、あなたたちは精霊に認められた存在なのです。そしてここにくる意味がある存在ということなのです」


 ソイルさんは、目を輝かせながら言った。


 まぁ確かに……俺は精霊たちに認められて『霊域の主』になっているから……なんとなくその辺を評価してもらえたのだろうか……。


「こちらの石像がノーム様の神像です。以前、大精霊ノームとして実体化していた精霊たちの集合体が、この石の中で休んでいると伝わっています」


 ソイルさんが説明してくれたので、俺は改めて石像と向き合った。

 足を肩幅に広げて、長柄のハンマーを地面に立てて、その持ち手の部分に両手を乗せている。


 俺は、久しぶりに視界のピントをぼかすやり方で、精霊たちを見てみることにした。

 ぼやけた視界にすごい数の光の粒々が飛び込んできた!

 特にこの石像の周りを、激しく取り巻いている。

 そして、前に伸ばして柄の上に乗せている手のところが、一際光っている。光の粒々が集まっているのだ。


 俺は思わず……その手の部分に触れてしまった!


 すると……石像が優しく……温かく光りだした!


 え……


「ま、まさか……」


 族長のソイルさんが、急にうろたえたような声を出した。


 石像は、さらに光を増していく……

 だが……どこまでも優しく暖かい光だ。


 ついには、石像の背後に光臨が現れた!


 そして光臨が、一瞬強く輝いた!


 次の瞬間——


 ええーーーー!


 なんと! 五歳くらいの女の子が現れた!


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