328.二博士、連行。

 俺は拘束した『薬の博士』『武器の博士』を、すぐに領城に連行した。


 サーヤに来てもらい、転移で移動したのだ。

  二人の博士は意識を奪ったままだったので、サーヤの転移のことは知られていない。

 そしていつものように、表向きは飛竜に乗せて連行したことになっている。


 保護した女性たちは飛竜船に乗せて、空を高速移動して領城に運ぶことにした。

 もちろん一度に百人以上を乗せることはできないので、五回に分けて運ぶことにした。


 俺はアンナ辺境伯たちに、事の顛末を説明した。


『イシード市』周辺に遺跡のようなものがないか調査をしたが全く見つけられず、飛竜船の水上運行のテストをしていたときに、支流の川に入ってたまたま怪しい洞窟を見つけてアジトを発見したと説明した。

 まぁほぼ事実通りだが、さすがにイルカと友達になって、イルカに教えてもらったとは説明していない。


 アンナ辺境伯も執政官のユリアさんも第一王女で審問官のクリスティアさんも、かなり驚いていたが、すぐにいろんな手配をしてくれた。


 この二人の博士を厳重に管理するために、領城の一角に強固な拘禁施設を新設した。

 これは俺が設置した。

 通常の牢獄を『波動複写』でコピーして、その周囲を強固な岩石で囲ったものだ。

 犯罪者とはいえある程度の居住性は確保してやりたかったので、トイレなど細かな工夫もした。

 これには王立研究所の上級研究員でゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんも、案を出して協力してくれた。


 そしてアンナ辺境伯たちとも相談し、やむを得ず二人の博士には押収していた『隷属の首輪』をはめることにした。

 本当は……あんな魔法道具は使いたくないのだが……

 これから尋問をするクリスティアさんの身の安全を図るためと、何よりも博士たちが抵抗したり、自殺することを防ぐために『隷属の首輪』を使うことを決断したのだ。

『隷属の首輪』をはめると、禁止事項を設定できるので、他者を害することや自分を害することを禁じることができるのだ。


 もちろん拘禁施設には、クリスティアさんの護衛のエマさんを始め、領都守備隊の精鋭を監視につけることになっている。

 領都守備隊の隊長のシュービルさんと、副隊長で近衛兵を束ねるマチルダさんも厳戒態勢で臨んでくれるようだ。


 早速審問官のクリスティアさんは、尋問をはじめるらしい。

 彼女の持っている『強制尋問』スキルを使えば、相手は真実を語らざるをえなくなる。

 幹部二人から、かなりの情報が引き出せるはずだ。非常に楽しみだ。


 念のため『エンペラースライム』のリンちゃんと、『ワンダートレント』のレントンを領城に残すことにした。

 特にリンちゃんには、極秘の任務を託している。

 それは、二人の博士に密かに接触し、リンの持つ『種族固有スキル』の『吸収』の『ランダムドレイン』コマンドを使って、二人の博士から通常スキルを奪い取るという任務である。

『武器の博士』は、『強者看破』という珍しい『通常スキル』を持っている。

『薬の博士』は、『製薬』『精錬』などの俺が持っていない『通常スキル』を持っていた。

 本来なら無理やりスキルを奪うようなことはしたくないのだが…… スキルを奪うこと自体が博士たちを弱体化させることになるので、実行することにした。

 また『ランダムドレイン』は、ランダムに『通常スキル』か経験値かステータス数値を奪うことになるので、ステータス数値も弱体化させることができる。


 俺はできるだけ、二人の博士を弱体化させておきたいのだ。

 あれほど厳重に警備しているから万が一はないと思うが、万全を期したほうがいいし、そのぐらいの罰はあってしかるべきだと思う。

 俺が勝手に判断していいことではないと思うが……誰かが傷つけられるよりはよっぽどいい。



 それから全部で百八人いた女性たちも、一旦この領城に連れてきて、保護することにした。

 聞き取り調査も実施する必要があるからだ。

 百八人を受け入れる準備も、執政官のユリアさんが手配してくれている。


 飛竜船を使ってのピストン輸送は、兎亜人のミルキーと『アラクネロード』のケニーが担当してくれることになった。

 ケニーは、新しく取得した『種族固有スキル』の『分離行動』を発動して、人型と蜘蛛型の二体に分かれて存在することができる。

 その能力の訓練の意味も含めて人型のケニーで、輸送を手伝うと申し出てくれたのだ。

 サーヤを呼んだときに、一緒についてきたのだ。

 蜘蛛型のケニーは、相変わらず大森林で統括リーダーとして辣腕を振るっている。

 人型のケニーは、今後俺のそばで助けになりたいと申し出てくれた。

 真っ赤な顔で、人差し指をツンツンさせていた。

 いつもながら、可愛い奴だ。


 俺としても、優秀なケニーが人族の街でも俺たちを助けてくれるのは、願ったり叶ったりだ。

 それでいて蜘蛛型のケニーが今まで通り、大森林のリーダーをこなすんだから……ほんとに優秀すぎる。



 そして俺は、もう一度あの『薬の博士』のアジトに戻って、詳しく調べようと思う。


 今回はアジトを破棄させる余裕を与えなかったので、大体の設備は残っている。

 ただ構成員たちが全て『死人魔物』になって暴れ回ったので、無傷というわけではないのだが……。

 仲間たちもレベルアップした実力を発揮し、最短で殲滅してくれたが、数が多かったからね。


 改めて俺なりに、詳しくアジトの設備を調べたり、重要な物品があれば押収してしまおうと思っているのだ。


 落ち着いたら、王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんを連れて、設備の検証もしたいと思っている。



 それからもう一つ、この遺跡らしきものをより詳しく調査しておこうと思ったのだ。


 なんとなくだが……『正義の爪痕』の連中も、全てを探索しきっていないような気もする……。


 というか……『財宝発掘』スキルがある俺なら、なにか新しい発見ができるのではないかという直感のようなものが働いているのだ。


 この直感が働いている時点で既に、『財宝発掘』スキルの能力が発動してるのかもしれない……。


 そんなこともあって、俺は改めてあのアリの巣のように広がっている洞窟を探検しようと思っている。



 

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